自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆詐欺罪は成立するはず

2005年05月21日 | ⇒メディア時評
 そのNHK職員は内部調査で「年度末で仕事が多く、給料以上に働いていると感じていた」と述べたという。「詐欺」を働いた理由がこれである。NHKは19日、39歳の男性職員が自分で作製したコンピューター・グラフィックスを外部のデザイナーに依頼したように見せかけて470万円を着服したとして、この職員を26日付で懲戒免職処分にすると発表した。
発注と受注が同じという詐欺の構図
  NHKの記者発表などによると、この職員は番組のセット制作を担当する映像デザイン部に所属し、去年3月から10月にかけて4回の詐取行為をした。その手口は、子会社のNHKアートを通じて新しいセットのイメージを描くCGを制作する際、自分が作ったCGを外部デザイナーに発注したように見せかけ、NHKアートから親族名義の口座に計557万円を支払わせた。このうち、源泉徴収分を除く470万円を着服した。つまり、この男はNHKアートを経由して、おそらく親族が経営するデザイン会社に発注し、自分のCG作品を買わせたということだろう。発注と受注が同じということなり、これは立派な詐欺である。
  不正流用事件を知りつつ
  今年3月末にNHKアートへの税務調査があり、本人も事情聴取を受け怖くなり、上司に告白し、NHKの内部調査で実態が明らかになった。NHKとすれば、本人が告白したので、今月分の給料(おそらく25日支給)を支給した後の26日付で懲戒免職、さらに着服分は全額返済されており、NHKは刑事告訴はしない方針という。しかし、この処分は甘い。税務調査で本人が聴取を受けたことが告白のきっかけであり、いずれ司直の手が入ると読んだ職員が「告白」という先手を打ったのであり、罪を悔いて「自首」したのではない。しかも、去年7月に元チーフプロデューサーによる6230万円にも上る番組制作費不正流用が発覚したが、職員はその後も不正行為を続けていたことになる。悪質である。
甘い処分、退職金の行方に注目
  刑事事件としての展開もさることながら、退職金の支払いに注目したい。NHKの職員就業規則には、「懲戒免職に該当する行為で解職された時は退職手当は支給しない」とあるが、情状によって100分の35を上限として支給することがあると規定されている。この職員が「告白」したということで処分が甘くなっており、退職金が支払われる可能性が高い。受信料を横領して、受信料で退職金が払われる。しかし、今後、国会でこの問題が追及されても、NHKは「退職金を支払ったかどうかも含めて、個人情報保護の観点から答えられない」と強弁を張るだろう。例のごとく…。

⇒21日(土)午前・金沢の天気  
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★「珍客」の多い館

2005年05月20日 | ⇒キャンパス見聞
 日照りに負けず 
先週14日、金沢大学「角間の里山自然学校」のボランティアの人たちが大学の空き地を耕し、サツマイモやトウモロコシの苗を植えました。ところが、今週は日照りの日が多く、せっかく植えた苗ですが元気がないのです。そこで、きのう19日に水撒き用のホースを購入し、ボランティアやスタッフが交代で本格的な水遣りを開始しました。 


  カメムシからアオダイショウまで
ところで、畑の奥に見える私のオフィスは築280年の古民家を再生した大学としては珍しい、文化財級の施設です。古風な建物だけに、「珍客」も多く寄ってきます。4月完成したばかりのころはカメムシがいたるところにいました。踏んだりすると強烈なにおいを発するあの虫です。ガラスの外にへばりついているのではなく、家の中に多いのです。どうやら、移築する前の旧・白峰村で解体工事中にカメムシが柱の裂け目などに入り越冬したらしいのです。私を含めたスタッフは、「自然学校だからカメムシと共存しよう」と意見が一致し、「カメムシを踏まないで」と貼り紙をし、駆除はしませんでした。カメムシは、5月になり気温が上昇するにつれ山に戻っていきました。

   カメムシが去った後は今度はツバメがやってきました。白いフンを落とし、土間や廊下が汚れましたが、「ツバメは縁起物」と追い出すことはしませんでした。が、適当な営巣場所が見つからなかったせいか、ツバメは一日で去っていきました。スタッフの一人は「今回は下見で後日やってくる」と。来訪があれば、温かく迎えるつもりです。

  招かざる客もいます。アオダイショウです。ボランティアの一人が「大きい」のを近くで見たというのです。「もう床下に入っているかもしれない」と。農作物を食い荒らすネズミを好んで食べるために、昔から農家では大切にされてきたようです。ちょっと気持ち悪いですが、アオダイオショウとも共存を、と考えています。

⇒20日(金)午前・金沢の天気 
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☆先手必勝のフォルム

2005年05月19日 | ⇒トピック往来
 その広場は地上1万9400平方㍍(東京ドームの半分足らず)の広さがあり、バスターミナル、タクシー乗降場が連なる。目立つのは3000枚の強化ガラスでつくられた「もてなしドーム」である。能楽・加賀宝生の鼓をモチーフにしたという「鼓門(つづみもん)」がその存在を誇示している。イベント広場に使える地下広場もある。金沢市が170億円をかけて整備したJR金沢駅東口広場の概要である。
金沢の玄関口 

 ここに立つと、さまざまなフォルムが楽しめる。写真は、鼓門と「もてなしドーム」の屋根の連なりである。ガラスとスチール、そして木造が織りなす「都市の甍(いらか)」ではある。しかし、建築的な見地は今回の本論ではない。なぜ、このような建築物をここに出現させたのか、という考察である。この広場は、北陸新幹線のJR金沢駅を想定した広場である。「新幹線の駅が完成していないのに、170億円もの税金を先行的に投入してよいのか、他に税金を回すべきではないのか」と言った議論が計画当初にあった。

 結論から言うと、私は「つくってよかった」派である。実は、どこも新幹線の駅ものっぺりした同じような顔をしている。「金沢の玄関」にあのような駅はふさわしくない、と私も思う。JRは民営化以降、徹底したコスト主義を経営の柱に据えており、百万石・金沢だからと言って特別なフォルムの駅はつくらないし、つくれないのである。そこで、行政が先手を打って、玄関口に170億円を投じた。玄関口に見合う立派な母屋=駅をつくれとのメッセージをJRに対し送ったのである。もしこれで、金沢駅を例ののっぺり駅にしたら、JR批判の世論が沸きあがるに違いない。JR宝塚線の脱線事故で、JR西日本のコスト主義、合理主義がヤリ玉に上がっている折りである。

 北陸新幹線は10年以内に開通する見通しだ。それにともなって近い将来、新幹線金沢駅も建設される。金沢市の先手必勝とも言える作戦がどのような新幹線金沢駅のフォルムとして展開していくのか、そのような眼でこの駅広場を眺めている。

⇒19日(木)午後・金沢の天気  
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★兼六園の楽しみ方④

2005年05月18日 | ⇒トレンド探査
カキツバタの花音は聞こえるか
  歴史の長い兼六園にはいくつか噂話もあって、それがまた楽しみの一つにもなります。たとえばこんな光景があります。ちょうど5月中ごろ、カキツバタが咲く曲水の周囲には早朝から市民が三々五々訪れます。かがんで耳に手をあて、じっと眺めている人もいます。地元の人の話では、「カキツバタは夜明けに咲く。その時に、ポッとかすかな音がする」とか。人々はその花の音を聞きにやってくるのです。


  私もかつてその話を聞き、2度か3度早朝に兼六園を訪れてみましたが、花音の確認はできませんでした。そのうち、カキツバタの花音は単なる噂(うわさ)話ではないかと思うようになり脳裏から消えていったのです。一昨年の5月、地元の民放テレビ局がその花音を検証しようと、集音マイクを立てて番組にしました。その時は、聞こえたような聞こえないような、かすかに空気が揺らぐような、そんな微妙な「音」でした。番組のディレクターがたまたま知り合いだったので確認したところ、「カキツバタの花音は、開くときに花弁がずれる音だと推測しマイクを立てましたが、現場では聞こえませんでした」とあっさり。ハイテク機器を持ってしても、実際の音にはならなかったのです。

風流という金沢人の楽しみ方
 でも、よく考えてみれば、早朝に集まる人々にとってはカキツバタの花音がしたか、しなかったは別にして、「兼六園にカキツバタの花音を聞きにいく」と家族に告げて早朝の散歩に出かけます。それだけでいいのです。兼六園がある金沢らしい風流な暮らしぶりの一端だと思えば、この話に角は立ちません。兼六園の楽しみ方を金沢の人は知っているのです。(このシリーズ終わり)

※「兼六園の楽しみ方」は、5月18日付の朝日新聞石川版・広告特集「兼六園への誘い」に執筆した原稿を一部手直しして掲載しました。

⇒18日(水)午前・金沢の天気
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☆兼六園の楽しみ方③

2005年05月17日 | ⇒トレンド探査
兼六園を造営した代々の加賀藩主は植栽の色や形の違いにこだわりました。たとえば桜だけでも20種410本に及びます。一重桜、八重桜、菊桜と花弁の数によって分けられている桜。中でも「国宝級」は曲水の千歳橋近くにある兼六園菊桜(けんろくえんきくざくら)です。そのまま学名にもなっています。
二代目「菊桜」も見事に咲く
 「国宝級」というのも、国の天然記念物に指定されていた初代の兼六園菊桜(樹齢250年)は昭和45年に枯れ、現在あるのは接ぎ木によって生まれた二代目です。二代目であっても、花弁が300枚にもなる生命力、咲き始めから散るまでに3度色を変える華やかさ、そして花が柄ごと散る潔さは変わりなく見事です。
兼六園菊桜

 「唐崎松」の二世はクローン
兼六園の名木、特にマツは樹齢150年を経ているものばかりで、いつかは枯れます。そこで、兼六園の管理する石川県は、県林業試験場と独立行政法人「林木育種センター関西育種場」(岡山・勝央町)に依頼し、松の名木のクローン増殖を行っています。クローンの苗木は接ぎ木方式で育成されていて、この方式だと、もとの木の性質を遺伝的に引き継ぐため、名木の後継種として活用できるそうです。現在増殖に成功しているのは雪吊りで有名な唐崎松や、お花松、根上松、巣ごもり松など。兼六園管理事務所はクローン苗木を「後継木」として仮置きして育て、次の出番を待ちます。出番と言っても数十年から数百年という長いスパンの話です。

⇒17日(火)午前・金沢の天気 
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★TVマン、デフォルトの構図

2005年05月16日 | ⇒メディア時評
 テレビ業界の社員が高収入であることはすでに知られている。その高収入に憧れて入社をめざす学生も多い。概要を説明しておこう。民間のテレビ局の総売上高はざっと2兆円あり、そのうちの70%を在京の5つのテレビ局(フジ、日本テレビ、TBS、テレビ朝日、テレビ東京)が占める。関西と名古屋が20%、そしてローカル局が10%である。国の放送免許制に守られ、新規参入が難しいので、企業として高収益は保たれ、社員の賃金水準も非常に高い。かつての銀行によく似ており、テレビ業界は「最後の護送船団」と揶揄(やゆ)されたりもする。

 高収益の恩恵を一番受けているのが東京キー局の社員である。ヤフー・ファイナンスの企業概要を見ても、フジが平均39.8歳で平均年収1529万円、日本テレビが39.4歳で1481万円である。これは社員全体の平均であり、たとえば記者や番組ディレクターは時間外(残業)が無制限に近い状態、いわば「青天井」で支給されるはずである。30代で時給2200円ならば100時間の残業をしたとして、割り増しがついて月30万円ぐらいにはなる。年収で360万円も他のセクションの社員と差がつく。

 これは実際に起きている話である。あるテレビ局の労働組合が若手の社員=組合員を対象に「人生設計」の勉強会を催した。というのも、高収入を得ていながら、裁判所に自己破産の申し立てをする若手社員が目立つようになってきたからである。そのデフォルト(破産)の構図はこうだ。若手がクリエイティブ部門、つまり番組制作やニュース部門に配属されると、残業が先の「青天井」状態になる。2、3年もすると軽く1000万円近くの蓄えができ、人生に自信がつく。これを頭金に会社近くの都心の高級マンションを思い切って購入する。ついでに憧れのBMWも買う。ところが、5、6年目で業務・管理部門に異動になったととたんに残業が減り、ローン返済がサラリーを上回り、極端な話が自己破産に追い込まれるというケースである。

 また、ローンに負われた社員が残業代を稼ごうと仕事もないのに「先方からのアポ待ち」などと理由をつけて必死に机にしがみつく姿もあったり、モラル・ハザード(職業倫理の欠如)さえ招くケースもある。「若手社員が頻繁に組合の小口融資を利用し始めたら赤信号」とある管理職が嘆いた。もちろん、自己破産はほんの一部の現象であろう。しかし、これに似たケースはキー局だけでなく、ローカル局でも聞き及ぶ話である。高収益、高収入の体質に潜む「甘さの構図」でもある。

⇒16日(月)午前・金沢の天気 
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☆里山自然学校の初夏

2005年05月15日 | ⇒キャンパス見聞
 金沢大学角間キャンパス(200㌶)は昔から金沢市民の里山として親しまれてきました。アベマキ、コナラ、スギ、モウソウチクが茂るほか、多くの動植物が生息しています。かつて金沢大学は「お城の中にある大学」と呼ばれましたが、移転後は「里山の中にある大学」と言えます。大学ではこの自然を教育・研究のフィールドとして利用するだけでなく、地域住民や子どもたちの自然体験の場として開放するため1999年に「角間の里山自然学校」をスタートさせました。そしてこの春、里山自然学校の活動の拠点として、築280年の古民家を旧・白峰村から移築し、創立五十周年記念館「角間の里」をつくったのです。きょうはその活動の一端を紹介します。
畑のある風景

 写真を見てください。竹林で採れたタケノコです。グッと反り返った姿がエビに似ているので、自然学校のスタッフが「えび竹」と名付けました。なぜこれほどまでに「エビ反り」しているのか。実は竹林が荒れているのです。竹が密生し根が地下で縦横に絡まっているため、このタケノコは身を反らしながらようやく頭を地上に出したのです。竹林を整備中のボランティアが「努力して地上に這い上がってきたが、潜伏期間が長い分ひねていて(味は)まずいだろう」と苦笑していました。というわけで、観賞用として「角間の里」で展示されています。

 きのう14日、里山自然学校のボランティアの人たちが「角間の里」の前の空き地を耕し、サツマイモやトウモロコシの苗を植えました。なるべく農薬を使わず栽培しようとの申し合わせです。来週は大学付属養護学校の子どもたちも苗植えをします。おそらく今後、水やりや害虫などさまざまな問題がこの畑をめぐって生じることでしょう。それを一つ一つ知恵を出し合って解決していくのです。

⇒15日(日)午前・金沢の天気  
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★岩城流ネオ・ジャパネスク

2005年05月14日 | ⇒トピック往来
 オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の音楽監督、岩城宏之さんは口癖のように「ベートーベンは嫌いだ」と言いながら、去年の12月31日、東京文化会館でN響有志とベートーベンの交響曲1番から9番までを一人で連続して指揮するというクラシック界での偉業を成し遂げた。その岩城さんが今度はこの偉業の連続記録に挑戦する意志を固めたらしい。
岩城氏の挑戦は続く

 去年10月にお会いしたとき、「なぜ1番から9番までを」と伺ったところ、岩城さんは「ステージで倒れるかもしれないが、ベートーベンでなら本望」とさらりと。岩城さんは72歳、休憩を挟んだとは言え9時間にも及ぶ演奏、しかも胃や喉など25回も手術をした人である。体力的にも限界が近づいている岩城さんになぜそれが可能だったのか。それは「ベートーベンならステージで倒れても本望」という捨て身の気力、OEKの16年で177回もベートーベンの交響曲をこなした経験から体得した呼吸の調整方法と「手の抜き方」(岩城さん)のなせる技なのである。そして、残りの人生の大晦日を毎年、ベートーベンの1番から9番に捧げるというのだ。

 大晦日の「第九」コンサートは世界中で行われているが、1番から9番を同一指揮者で演奏するのは世界でたった一つのコンサートである。この岩城さんの志(こころざし)は正月を迎える新しいスタイルになる可能性を秘めている。1番から9番をじっくり聴き、哲学する音楽家ベートーベンを心ゆくまで楽しむというスタイルである。経済産業省は新しい国家商標に「ネオ・ジャパネスク(新日本様式)」を提唱している。メード・イン・ジャパンに代わる新しいブランドを創造するというのだ。アニメが世界のスタンダードに躍り出たように、日本発の1番から9番のベートーベンチクルス(連続演奏会)は世界のスタンダードになり得る、まさにネオ・ジャパネスクではないのか。「マエストロ・イワキのベートーベンを聴きに年末はトウキョーに行こう」。そんな言葉が世界のクラシック通の間で交わされ始めているに違いない。私には聞こえる。

⇒14日(土)午前・金沢の天気
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☆兼六園の楽しみ方②

2005年05月13日 | ⇒トレンド探査
 金沢市にある国の特別名勝・兼六園でもっとも古い建物が茶亭「夕顔亭(ゆうがおてい)」です。この茶室から滝を見ることができるので、別名「滝見の御亭(おちん)」とも呼ばれています。
「利家、居眠りの柱」 

 この夕顔亭の見本となったといわれるのが、京都の茶道・藪内家の「燕庵(えんなん)」という茶亭です。かつて藪内家の若宗匠、藪内紹由氏に取材したことがあり、そこで出た話です。藪内家には、「利家、居眠りの柱」とういエピソードがあるそうです。京の薮内家を訪れた加賀藩祖の前田利家が燕庵に通された時、疲れがたまっていたのか、豪快な気風がそうさせたのか、柱にもたれかかって眠リこけてしまったというのです。こうした逸話が残る燕庵を後に利家の子孫、11代の治脩(はるなが)が1774年に燕庵を模してつくった茶亭がこの夕顔亭です。おそらく、治脩も利家の居眠りの話を聞いたに違いありません。そして、「ご先祖さまはなんと…」と苦笑したことでしょう。

デザインの著作権にまつわる約束事

 この夕顔亭をつくる際、薮内家と加賀藩には一つの約束事がありました。茶器で有名な古田織部が指導してつくったこの由緒ある茶亭を簡単に模倣させる訳にはいかない。そこで、もし燕庵が不慮の事故で焼失した場合は「京に戻す」という条件で建築が許された、との言い伝えです。知的財産権の観点からいうと、広い意味での「使用権」だけを加賀藩に貸与したのです。もちろん、契約者の前田ファミリーは明治維新後この夕顔亭を手放し、今では石川県の所有になっていますので、その約束事は消滅したといえるでしょう。

 知的財産権という法律は当時なかったにせよ、「知財を守る」という精神は脈々と日本の歴史の中に生きていたということでしょう。この苔むした古い茶亭にはそんな現代に通じるエピソードがあったのです。 

⇒13日(金)午前・金沢の天気 
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★兼六園の楽しみ方①

2005年05月12日 | ⇒トレンド探査
 金沢の兼六園は意外にも雨で映える庭だと思っています。散歩しながらそのように感じることがよくあります。ついでに私なりの兼六園の楽しみ方をいくつか紹介します。

  大人の時間が流れる「時雨亭」

 兼六園で大人の作法が楽しめるのが茶室「時雨(しぐれ)亭」です。ここで味わう抹茶は心が和みます。茶席の静寂、広がる庭園、洗練された作法、季節の和菓子など「完成された文化」を感じさせます。最近、和装の女性からお辞儀をしてもらったことはありますか…。これだけでも感動ものです。大人の時間が流れます。



 次は、この茶室を出て銅像を眺めましょう。実はこの銅像は世界的に有名です。世界で最もばかばかしいと認められる業績に贈られる「イグ・ノーベル賞」(米ハーバード大学制定)の2003年度授賞者が金沢大学の広瀬幸雄教授です。「金沢市内のブロンズ像がハトに人気のない理由の化学的考察」のテーマで化学賞を受賞。この研究テーマとなった「金沢市内のブロンズ像」が兼六園の日本武尊(やまとたけるのみこと)の銅像なのです。兼六園の周辺にはカラスやハトが多いのに、なぜ日本武尊にはこれらの鳥が止まってないのだろう、なぜカラスやハトのフンの汚れがないのだろうと、広瀬氏は兼六園を散歩しながら考えたそうです。平成の改修工事の際、銅像の成分を調べたところ微量のヒ素が含まれており、この「ヒ素のにおい」を鳥が嫌うという「世界的な発見」になったというわけです。

 日本武尊を見上げてみよう  
  
 兼六園に詳しい下郷稔さん(元兼六園管理事務所長)の話では、この改修の際に「巨大なブロンズ像は兼六園にふさわしくない、園外に移設を検討しては」との意見が文化庁からあったものの、下郷さんたちが「慰霊碑には歴史的な意味があり、台座の石積みにも価値がある」と断ったそうです。結果的に、この銅像に思わぬ価値が生まれ、残してよかったというわけです。兼六園にお立ち寄りの際は、本当にカラスやハトが止まっていないか、検証してみてください。これが兼六園の私流の楽しみ方です・・・。

→12日(木)午後・金沢の天気 
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