知床観光船、捜索の漁業者に重い燃料費負担…「経費かかるが救助に行くのは当たり前」
2022/05/10 07:30
定置網漁を終え、ウトロ漁港に戻った漁師たち(9日午前、斜里町で)=永井秀典撮影 【読売新聞社】
(読売新聞)
知床半島沖で乗客乗員26人を乗せた観光船「KAZU I(カズワン)」が沈没した事故で、地元の北海道斜里町の漁業者たちが連日、出漁せずに捜索に専念した。捜索すると燃料費の負担が重くのしかかるが、漁業者への支援は追いついていないのが実情だ。
「人助けには経費がかかるが、救助に行くのは当たり前だ」。斜里町のウトロ漁協の深山和彦組合長(66)は、捜索には費用が必要だと強調した。
漁船は、事故翌日の4月24日から5月5日まで捜索に専従し、1日に最大10隻が出動した。6日からホッケやニシンをとるための定置網の設置を始めた。
定置網漁の場合は漁船が動く距離は限られるため、漁船1隻が1日で消費する軽油は約200リットル。これに対し、捜索は広い範囲を動き回るため2倍の400リットルを使い、燃料費は1日約3万2000円に上る。
海難事故が起こった場合、捜索に参加した人を支援する公益社団法人「日本水難救済会」(東京)から、漁に出ずに捜索に参加した漁業者に報奨金が支払われる。
全国で約5万人の漁業者らが「救助員」として登録。報奨金は1人に対して初日は1日当たり4時間未満で5000円、4時間以上で6000円にとどまる。
捜索のために1漁船に乗る漁業者は5〜6人で、ウトロ漁協の担当者は「捜索にかかった燃料代に満たない」と話し、休漁中の補償にならないどころか、捜索に参加すればするほど漁業者の持ち出しが増える。
水難救済会によると、報奨金は個人や団体からの寄付でまかなわれており、予算には限界がある。同会の遠山純司あつし常務理事(61)は「燃料費にも届かないのは理解しているが、財政面の余裕はなく、金額の引き上げができない」と語る。現状では捜索に従事した漁業者らへの公的な助成制度はなく、「制度の創設には、世論の高まりが欠かせない」と指摘した。