「朝から根掘り葉掘り」シビアな税務調査の実態 “へそくり”もアウト、暦年贈与も注意が必要
2022/05/29 07:15
(マネーポストWEB)
「税務署を甘く見てはいけません。『申告が面倒だから』などと相続財産を隠したりするのは絶対にやめたほうがいい。税務署に対する隠蔽や故意の仮装には、重加算税が課されてしまいますから」
そう指摘するのは、相続税専門の税理士・岡野雄志氏。相続税の税務調査は所得税・法人税の調査よりもかなりの高率で実施されるという。
税務調査官による調査はどんな流れで行なわれるのか。埼玉県在住のAさんが明かす。
「朝10時頃からベテラン風と若い職員の2人が自宅に来て雑談したあと、故人の死亡時の状況、生前の職業、預貯金や有価証券、趣味に至るまで根掘り葉掘り聞かれました。
昼休憩を挟んで午後は故人の通帳や保険証券などをハンディコピー機で写し、故人の印鑑に朱肉をつけずに空押ししたりして、最近使った形跡がないかまで確かめられました。最後、『調書』にサインを求められました」
調査の結果、故意に相続財産を隠していたことが判明した場合、最大40%の“罰則”が課される。
「重加算税は増えた相続税本税に対して、過少申告なら35%、無申告なら40%の高額な課税が賦課されます。税務調査時に即答できないことは『あとで調べます』と答え、決して嘘をついてはいけません」(岡野氏)
こんな例もある。都内に住むBさんは、生前に親が土地を売却して得た4000万円のうち、3000万円を相続財産に含め、1000万円は貸金庫に隠していた。ところが調査でこれがバレてしまい、1000万円に対する追徴課税15%と重加算税35%、延滞税を合わせて約206万円を払うことになったという。
さらに、「正当な贈与」と思っていたものが税務調査で指摘されることも。“落とし穴”になりやすいのが、「年間110万円以下」なら無税で子供や孫に財産が移転できる「暦年贈与」の制度だ。
「贈与分は相続に関係ないと思い込んでいる人が多いですが、相続には『3年以内の贈与加算』という制度があり、亡くなる3年前までの贈与は“直前の相続税逃れは無効”として相続税の対象になります。税理士なら知っているはずですが、相続人に確認していない場合が多いようです」(同前)
さらに勘違いしやすいのが「へそくり」だ。
「税務調査で多額の現金が見つかり、それを専業主婦である妻が『へそくりです』と言ったらアウト。妻が生活費をやり繰りして貯めたお金でも、故人の財産に含めなければいけません。口座から頻繁に引き出していた記録などがあると、へそくりの存在が疑われることが多いようです」(岡野氏)
丸裸にされるのは現預金だけではない。実家の相続にあたり土地の評価額が最大8割減となる「小規模宅地等の特例」を利用しようと住民票を慌てて実家に移すケースがあるが、「税務調査では相続人の生活拠点がどこか確かめられるうえ、水道光熱費のメーターまで調べられる。同居の実態がないことはすぐにバレます」(岡野氏)という。
申告時点で漏れなく済ませるのが理想だが、予期せぬ調査の連絡が入ったらどう対応するべきか。
「相続税専門の税理士に改めて相談するのがいいでしょう。調査前に申告済み相続税の見直しや調査の事前準備、質疑応答のリハーサルなどをしてもらえます」(同前)
こうした事態に陥らないように、適切な相続を進めなくてはならない。
※週刊ポスト2022年6月3日号