人手・資金足りず 今なお残るブルーシート 福島震度6強半年
2022/09/16 18:46
(毎日新聞)
3月16日に福島県内で最大震度6強を観測した地震の被災地では、半年たった今も壊れた家に住み続ける「在宅被災者」が少なくない。業者の手が回らず工事が遅れているケースがあるほか、公的な支援金だけでは修繕費を捻出できない人もいるのが実情だ。
震度6強を観測した同県南相馬市鹿島区。稲穂の垂れる田んぼの隣にある木造2階建て民家は、室内のあちらこちらの壁がブルーシートに覆われていた。「土壁やベニヤ板が(骨組みを残して)落っこちた。でも、ここに住み続けるしかないよ」。あるじの無職、東正美さん(67)は淡々と言った。
浴室は壁の石こうやタイルが崩れた上に給湯器も壊れ、業者に修繕を頼む経済的な余裕もないまま今に至る。1人暮らしで、民間の災害支援チーム「このゆびとまれ」の助けを受け、近くの入浴施設を週3日無料で利用する。自宅のシャワーを使う時もあるが、壊れた壁から家の構造部分に湯気や湿気が少しでも入らないよう窓を全開にし、手短に済ませる。
築約50年の家は市の罹災(りさい)判定で「半壊」とされた。外から建物を見た職員が、住宅全体に占める損害割合を「20%以上30%未満」と判断した結果だ。市の見舞金6万円は、ブルーシートや材木を買う費用に充て、部屋中の壁を自分で目張りした。新型コロナウイルス感染拡大に端を発する木材価格の高騰も響き、材料費だけで十数万円かかった。浴室の修繕を業者に頼めば、100万円はくだらない。年金暮らしの東さんには高額で「直すお金はない」とうつむいた。「次また同じ地震が来たらもうだめだな。この家はつぶれるよ」
同市鹿島区の別の60代男性は、修繕しきっていない木造2階建て民家の前で考え込んでいた。
基礎部分はひび割れ、引き戸はゆがんで鍵がかからない。ガラスの割れた窓は板でふさいだままで、室内のドアは開かなくなるたび、ジャッキで持ち上げて応急処置をする。屋根も一部にブルーシートが張られたままだ。
東日本大震災と昨年2月の県沖地震でも屋根や内装が壊れ、修繕工事は計1500万円ほどかかった。しかし、今回の地震被害の方がひどく、住宅業者の見立てでは基礎の造り替えが必要で、最低1000万円かかると言われた。だが、市の罹災判定は「一部損壊」(損害割合10%未満)で、修繕費の補助も最大約20万円ほどしか見込めないため、再建工事は断念した。「次の地震があったらお金がなくなるので、これ以上は(壊れた家の修繕に)お金はかけられない。もう嫌になる」と嘆息する。
福島県のまとめでは、県内の住家被害は計3万4810棟で、同じように県内で最大震度6強を観測した昨年2月の県沖地震と比べて約1・5倍多かった。地震の規模や揺れの違いに加え、東日本大震災以降、余震とみられる地震が相次ぎ、建物が「累積疲労」を起こしていると指摘する専門家もいる。
南相馬市によると、これまで半壊以上の判定を受けた住家は123棟ある一方、半壊以上なら全額公費負担となる解体の申請は約50棟にとどまる。公費で解体しても再建には多額の自己負担がかかることもあり、今も修繕しないまま住み続ける世帯が一定数あるとみられる。瓦が落ちた屋根に雨漏り防止でブルーシートを張っている家屋は市内に約300棟あり、業者がすべての発注工事を終えるまで約1年かかる見込みだという。
災害で壊れた家に住み続ける「在宅被災者」の問題は東日本大震災で顕在化しており、行政による金銭面での支援の拡充や、多様な実情を把握するための戸別訪問の推進が求められている。【尾崎修二】