正月も8日となった。ユクレー島は博士の発明した機械のお陰でまずまずの天気だったが、オキナワは違ったようだ。ジラースーによると、正月一日は晴れてぽっかっぽかの陽気だったが、二日以降は雨や曇りの日が多く、しかも冷えたらしい。冷えているのは気温だけで無く、世界的に経済も冷えて、人の心も冷えているらしい。
心の冷えた人が増えるとユクレー島にやってくる人も増えるのだが、今はまだそのような気配は無い。これからのことなのかもしれない。
さて、そんな中、シバイサー博士の研究所へ行った。正月はマナもユーナも島に来ていて、ユクレー屋で新年会をやったのだが、その時、博士は顔を見せなかった。その後すぐに、私はガジ丸と一緒にオキナワに遊びに行っていたので、新年になってからまだ博士の顔を見ていなかった。で、今日は博士に新年の挨拶。
研究所へ着く。今日は寒いからなのか、いつもは外で遊んでいるゴリコとガジポの姿が見えない。いつもは開いているドアも閉まっている。ドアをノックすると、いつもならゴリコとガジポが真っ先に出迎えてくれるのだが、博士が出てきた。
「あっ、博士、どうも、謹賀新年です。」
「おー、君か、まあ、中へ入れ、今から一杯やるところだ、君も付き合え。」
「はいはい、喜んで。あの、ところで、ゴリコとガジポはいないんですか?」
「ん?途中で会わなかったか?さっき、ガジ丸が連れて行ったぞ、何だったっけ、ウフオバーがぜんざいを作ったからって、ユクレー屋に向かったぞ。」
「えっ、そうですか。会わなかったですね。浜を通ったんですかね。」
「まあ、そんなことはどうでもいいさ。それよりも君に見せたいものがある。一杯やる前にちょっとこっちへ来てくれ。」と博士は言って、作業場へ入った。
「博士、見せたいものというのは新しい発明品ですか?なら、2010年の発明第一号となりますね。」と、博士の後ろに続きながら訊いた。
「うん、まあそうだな。新年が明けてから完成した。・・・これだ。」と言いながら、博士は作業テーブルの上にある物体を指差した。瓶のようなものがあった。形は泡盛の酒瓶みたいだが、とても大きい。五升くらいは入りそうな大きさ。
「瓶・・・ですか?ずいぶん大きいですが。」
「瓶、っていうか、容器だ。」
「容器?・・・何の容器ですか?酒瓶みたいな形ですが。」
「あー、酒を入れてもいいが、菓子とか米とか入れてもいい。」
「酒とか菓子とか入れる容器なら、普通にあるじゃないですか?」
「いやいや、これの表を見たまえ。」と博士は言って、容器を180度回転させて、向こう側だった面をこちら側に向けた。その面にはラベルが貼られていた。ラベルには絵が描かれてある。大きな口を開けて笑っている絵。
「何だかとても明るいラベルですね。」
「先行き不透明な世の中、そんな暗い気分を吹き飛ばそうと思ってな、見るだけで気分が明るくなる容器を作ったのだ。名付けて陽気な容器だ、カッ、カッ、カッ。」
名前が駄洒落の、ただの瓶のようであった。博士らしいといえば博士らしい。
「博士、それガジ丸にも見せたんですか?」
「そりゃあもちろん、しかしあいつはユーモアを解さん奴でな、くすりともせず、何も言わずに帰りやがった。つまらん奴だ。」
私は、多少はユーモアを解するが、でも、今回はガジ丸に同調する。
「博士、そろそろおいとまします。私もぜんざいを食べたくなりました。」と言い残して、博士の元を去った。博士は「何で?」というような表情をしていた。
しばらく後、ユクレー屋に着く。ガジ丸とゴリコとガジポはまだいた。マミナもいた。私も早速、ウフオバー手作りのぜんざいを頂く。とても美味しかった。
そうだ、ガジ丸といえば、このあいだの唄の謎、その答えをまだ聞いていなかった。
「ガジ丸、そういえば、年末に歌った『ラフテーの秘密』の秘密って何なんだ?」
「あー、それ、私も解らなかったさあ、ラフテーの秘密って何?」とマミナも訊く。
「ん?解らなかったか?そうか、マミナでも解らなかったか。ちょっと難しかったかもな、あれはだな、ベース音が鍵だ。イントロ、間奏、エンディングは同じベース音になっている。その音階がヒントだ。ミソラシー、ミソラシーと繰り返されている。」
「あっ、そうか、ミソラシーか!」と、マミナは解ったみたいだが、私はまだ。
「ミソラシーがどんなヒントになってるの?」とマミナに訊く。
「隠し味は何だ?って訊いて、ミソラシーと答えてるさあ。」とのこと。???。
記:ゑんちゅ小僧 2010.1.8