京女の好み
京都へは、もう十回以上も旅をしている。舞妓さん(芸者さんともいうのか、違いが良く判らないので、ここでは同一とする)にも何度もお目にかかっている。が、声を交わしたことは一度も無い。一回だけ、「おばんやす」と二人連れの若い舞妓さんに声をかけられたことがあるが、びっくりして何の返事もできぬまま通り過ぎてしまった。
粋という言葉がある。広辞苑によると「気持や身なりのさっぱりとあかぬけしていて、しかも色気をもっていること。」とのこと。「おばんやす」と私に声をかけてくれた二人の舞妓が「気持ちがさっぱりと」した人であったかどうかは不明だが、「身なりがあかぬけしていて、しかも色気をもっている」については、正しくその通りであった。彼女達に粋の称号を与えても何ら差し支えないと私は思った。
粋な京女はきっと、物の名前のつけ方も粋であるに違いない。イトトンボのことをマメムスメ(豆娘)なんて情緒のある名前をつけたのはきっと、京女に違いない。粋からは遠く離れて生まれ育った沖縄のガサツ男は、それでも歳取って、いくらかは人生の酸いと甘いを経験して、少しは情緒が理解できるようになったのか、イトトンボを辞書で引いて、そこに豆娘という漢字を見たときに、粋だあなぁと感動したのであった。
リュウキュウベニイトトンボ(琉球紅糸蜻蛉)
イトトンボ科 南九州から南西諸島に分布する 方言名:センスル
方言名のセンスルはイトトンボ科の総称。イトトンボ類は沖縄に9種生息するが、本種は民家の近くにも多く、もっとも普通に見られるイトトンボ。
イトトンボは普通のトンボよりも小型で、胴体がずっと細い。で、漢字で糸蜻蛉となるのだが、広辞苑を見ると、豆娘ともある。昔、京の宮中の粋な女中の誰かが、「あれ、あそこにマメムスメ」などと呼んだのだろうか。日本人の感性は情緒があって楽しい。糸蜻蛉なんて見た目よりも豆娘の方が全体の雰囲気を表している。詩的であると思う。
腹長30~40ミリ。成虫の出現はほぼ周年、春、秋に多く見られる。
交尾
記:ガジ丸 2005.6.27 →沖縄の動物目次
訂正加筆:2009.5.30
参考文献
『ふる里の動物たち』(株)新報出版企画・編集、発行
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
『沖縄昆虫野外観察図鑑』東清二編著、(有)沖縄出版発行
『沖縄身近な生き物たち』知念盛俊著、沖縄時事出版発行