もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

米朝首脳会談の成果を考える

2019年03月03日 | 北朝鮮

 ハノイで行われた2回目の米朝首脳会談が、合意文書の発表はおろかワーキングランチも中止されるという結果に終わった。

 米朝双方は会談決裂原因の糊塗と責任転嫁に忙しいが、伝えられるところでは北朝鮮が寧辺の核施設を米国の査察下に破棄する見返りとして経済制裁の全面解除を求めたことに対し、アメリカは老朽化した寧辺の核施設に加えアメリカ情報機関が新しく確定した核施設(東倉里が有力)も廃棄対象に加えない限り経済制裁解除に応じないことを主張したことが真相であるらしい。首脳会談の決裂に対して関係各国は一様に”残念”とコメントし、引き続き対話の継続を求めているが、本当に残念と思っているのは韓国の文大統領だけであろうと思う。アメリカはトランプ大統領が安易な妥協をしなかったためにアジアの均衡が保てたことに安堵し、中国は米朝の緊張状態と経済制裁が続くことで引き続き北朝鮮を使い勝手のいい衛星国として繋ぎ止めることができ、日本は拉致被害者の救済要求をトランプ大統領の口を借りて北朝鮮に伝達し得たことで良しとしているものと思う。1回目の米朝首脳会談では、アメリカが「大量破壊兵器の非可逆的な即時廃絶」から、朝鮮半島を視野に入れた「段階的な大量破壊兵器廃絶」にシフトチェンジした印象を各国に与えたために、日中韓は少なからず混乱して、特に韓国は鉄道の連結、開城の再稼働、金剛山観光は明日にも着手・再開できると舞い上がって、北との対話に備えて反日をより鮮明にし米韓合同演習の縮小すら行った。しかしながら昨年末にも実現すると見られていた金正恩委員長の訪韓は実現せず、日米には韓国疲れと嫌韓の風潮を広めたに過ぎなかった。空気を読むことには敏感な”風見鶏大統領”は、3.1独立運動100周年記念式典では犠牲者の数を7500人(朝鮮総督府の記録では630人)と過大に表現した以外は、歴代大統領の常套句である未来型日韓関係の構築に戻っている。

 長年の経済制裁によって北朝鮮の疲弊は相当なものであるが、宗主国然と保護・支援すべき中国自体が、国際的に国連決議の遵守状況を監視されているとともに、通商問題で米国と事を構えることができない状態に置かれていることから有効な支援ができない現状である。首脳会談を含む米朝協議は引き続き行われるであろうが、北朝鮮が今回と同じように中国の意を受けて同根の主張を繰り返すならば、核廃絶に対する急激な進展は望めないだろうと考える。


米朝非核化協議は運動会?

2018年07月10日 | 北朝鮮

 非核化を巡る米朝高官協議(第1回?)が終了した。

 アメリカのポンペオ国務長官は進展があったとし、北の金英哲労働党副委員長は「非核化の意志が揺るぎかねないもの」と何ら進展が無かったとしているが、アメリカにとっては北の本気度を確認できたことを進展と表現したのかもしれない。今回の高官協議を含めた非核化協議を運動会に例えると、アメリカは数多の障害を排除する障害物競走と思い、北朝鮮は道程の各所に置かれた札に書かれたものを順次手に入れる借り物競争と考えているのではないだろうか。そう考えれば北朝鮮は今回の高官協議前に発表したロケットエンジン燃焼試験場閉鎖に対するアメリカからの借り物(支援)の提示が無かったことを以って、進展なしとしたものと推測できる。更にレースのゴールについてもアメリカは核弾頭と長距離運搬手段の廃棄としているのに対し、北朝鮮はもともと非核化の意志など無く在韓米軍の撤退を目途とするものの、経済制裁の緩和を勝ち取れば十分としているもののように考えられる。にも拘らず、希望的観測に縋る韓国の文政権が南北鉄道の連結や離散家族の面会事業にのめり込む姿は、開城工業団地の稼働によって北朝鮮に外貨を与え核開発に事実上の援助を行った過去の行動と同じであり、全く経験から学んでいないことを示すものに他ならない。

 日本でも、この様な状態にある米朝非核化協議を過大に評価し、米朝の雪解け、北の非核化による朝鮮半島平和の到来と早合点して、イージスアショアの配備再考やPAC3設置反対を唱える勢力が存在する。まして、それが国家百年の計を論ずべき国会議員にもいるのは、いかがなものであろうか。

 


北朝鮮との国交正常化を止めよう

2018年06月05日 | 北朝鮮

 トランプ大統領の姿勢軟化の兆しを察知(事前協議の密約?)してか、北朝鮮の対日姿勢が尖鋭化している。

 米朝首脳会談の進展に伴い「バスに乗り遅れるな‼」の論調が日本でも見られるようになった。国交とは、相互に大使を交換することによって外交ルートが確立され、二国間での協定や条約の締結が可能になることと理解しているが、実は良く分かっていないことに気づいた。現在、160以上の国が北朝鮮と国交を持っているが、主として在中国大公使が北朝鮮大公使を兼任しているのが実情で、北本国に大使館を開設している国は30ヵ国程度とされている。その30ヵ国にしてもアメリカとの関係が必ずしも良好とはいえない国々が多いために、今回の米朝首脳会談に存在感を示しているとは言い難い。現在も事実上の鎖国状態にある北朝鮮に置かれた公館は、江戸時代の”オランダ出島”程度の存在でしかないのではないだろうか。米朝関係の進展とアメリカの黙認を見越してか、日本に対して、拉致問題は解決済み、日韓併合時の賠償優先を改めて強調し始めた北朝鮮と国交正常化しても、歴史の歯車を回すことには繋がらず、拉致問題すら解決しないと思う。もし全世界が北と国交関係を持ったとしても、断固として日本は北朝鮮とは融和すべきではないと思う。市場価値に目がくらんで中国を認知・経済投資を行ったことが、中国の伸張を許し、現在の横暴に結びついていることを忘れてはならないと思う。

 国交を正常化すれば二国間の軋轢が解消できると思うのは間違いで、国交がある国との未解決事象を挙げてみる。中国とは国交正常化後に生起した尖閣諸島の領有権問題・排他的経済水域での違法操業・東支那海でのガス田開発・在日中国人による犯罪の増加。ロシア(ソ連)とは北方領土問題。韓国とは竹島問題・慰安婦/徴用工問題。二国間の核心的な案件については、対話・外交によって何一つ解決されないことを世界史が証明していると思うのだが。


北朝鮮の対日賠償請求が現実味

2018年06月03日 | 北朝鮮

 米朝首脳会談が指呼の間に迫った。

 トランプ大統領が今回の首脳会談を長期戦の初戦と位置付けるコメントを発表したことから、アメリカは即時・非可逆的なリビア方式よりも段階的非核化という現実路線に舵を切ったかに思える。「アメリカはリビア方式を捨てないだろう」ゆえに、今回の米朝首脳会談は何の合意もない結果に終わるだろうとの自分の推論は間違っていたことになるが、それはさておき、トランプ大統領のコメント中「(非核化の対価としての)経済支援は日中が行うべきで、アメリカは関与しない」と述べていることは気懸かりである。クリントン元大統領が、核開発の放棄と引き換えに軽水炉型原発を供与したが、北の協定違反によって現在の結果を招いた轍を踏まない決意表明と思いたいが、アメリカの真意は「当面、先制攻撃は留保して体制は保証するが、金は日本から貰え」との婉曲(でもないか)な対日圧力と捉えるべきではないだろうか。経済支援を日中が行った場合、中国は手駒として利用できる衛星国を得るメリットがあるが、日本には何のメリットもない。かねての主張どうりに「日韓併合の賠償請求」として要求されれば、拉致問題解決の手段としても使えない。アメリカの面子と権威を保つために多額の資金を拠出することは、徳川幕府の権威付けのために、日光街道と東照宮建設に浪費させられた外様大名の悲哀と疲弊を再現させられることになるのではないだろうか。トランプ大統領が拉致問題の口利きを約束した思惑の底を見た思いがする。

 【人でなし】との痛罵を覚悟して書けば、日朝国交正常化の1丁目1番地として拉致問題解決を挙げた外交は失敗ではなかっただろうか。冷酷であるが、仮に拉致被害者の全てが帰国できたとしても、失うものは巨額の金銭のみならずテロと取引した弱腰の国とされ、余りにも大き過ぎると思うのだが。

 


北朝鮮の交渉術と踏み絵

2018年05月17日 | 北朝鮮

 米朝首脳会談に対して、北朝鮮が手持ちの1番目のカードを切ってきた。

 北のカードは、「米国の一方的な核放棄の強要では米朝首脳会談を中止せざるを得ない」との主張の延長線上として、「米韓合同軍事演習が継続される限り南北閣僚級会談を中止する」としたもので、「米韓合同軍事演習と南北閣僚級会談」を天秤に乗せて韓国を揺さぶろうとする意図が明白である。南北首脳会談を朝鮮半島非核化の歴史的なターニングポイントと自賛して以後の米朝首脳会談でも仲介者として存在感を示したかった韓国にとっては、あからさまな韓国外しに直面したものであるが、2度にわたる訪中で習近平氏から「半島の段階的な非核化戦術の認可」と「米韓に楔を打ち込む論功行賞としての経済・人道支援の確約」を取り付けた北朝鮮としては、中国の意に添った米韓離間策の既定の一歩を踏み出したに過ぎないものと思う。韓国にとってこのことは「同盟国として米中のどちらを選択するのか?」という究極の「踏み絵の1枚」で、以後に予想される「在韓米軍の縮小・撤退」「米韓同盟の破棄」要求の踏み絵の数々を考えれば、今回の要求は国の存続を問われる決断の序章と捉えるべきであると思う。北朝鮮は継続使用不能の地下核実験施設を爆破して見せたが、その対価はまだ明示していない。要は米韓のいずれかが何らかの対価を提示することで、段階的な核放棄という中朝の既定路線に導けば成功と考えているのではないだろうか。国務長官の訪朝に抑留米人3名を釈放した様に、お互いのカードを交互に提示していこうとする目論見は早晩行き詰まることは明白であり、そうなれば、なし崩し的に北朝鮮は核保有国としての地歩を維持し、中国は冊封体制の盟主として北朝鮮を思いのままに使嗾できることとなるのだろう。

 今のところ米国は”それならそれで構わない”と静観の構えであるが、韓国にとって今回突き付けられた踏み絵は、小池百合子氏の”排除踏み絵”など児戯にも思えるもので、以後の国難を考えれば半島の統一など夢物語で、肝心の北朝鮮が統一を欲していない現実を直視すべき機会でもあると思うのだが。