「議論を積み重ねてやっとできた改正法案なのに、一度も審議されず、政争につぶされた」。衆院が解散した7月21日。テレビに映し出される議員たちの「万歳」を見ながら、佐賀市肢体不自由児者父母の会の福市繁幸会長(佐賀市鍋島)は、悔しさで胸がいっぱいになった。
障害者が福祉サービスを受ける際の負担軽減などを盛り込んだ障害者自立支援法の改正案が、解散によって廃案となったからだ。
同法は2006年4月に一部施行。福祉施設の報酬制度を改め、利用者側が主体的にサービスを選びやすくなった一方で、ほとんど無料だったサービス利用料が原則1割負担となり、施設に通えなくなって生きがいを失った障害者や、生活に窮迫する家族が急増した。
法に基づくサービスを受ける障害者は県内で約4000人。福市さんにも重度の脳性まひの娘がおり、制度の見直しを訴えてきた。各方面からの批判を受けて国は様々な対策を講じ、利用者の負担は大幅に軽減された。
今回の改正法案には、収入のない障害者に負担を求めない措置や、発達障害も支援対象に加えることなど、当事者らの声がさらに反映されていた。福市さんは「とても期待していたのに。特に相談支援体制の法整備が遠のいたのは痛い」と肩を落とした。
◇
「息子さんの調子はどうですか」「悪くはないけど家ではわがままで……」。
県東部の農村地域の一軒家。70歳代の母、知的障害と精神疾患のある40歳代の息子の2人暮らし。障害者と家族の相談支援に取り組むNPO法人「キャッチ」(鳥栖市)の生野素之(もとゆき)・相談支援専門員は週1回、この家を訪ね、母親や本人の相談に乗る。
相談支援専門員は、家族と役所、施設との橋渡し役となり、「いつ、どの施設でどんなサービスを受けるか」といった計画の策定や、役所への申請手続き、施設・病院との連絡の補助を行う。「ほかに頼れる人が誰もいない。本当にありがたい方」と母親は感謝する。
息子は以前、施設に入所していたが、そこでの生活を嫌い、今は家から通所施設に通っている。施設利用費、交通費、医療費、食費など出費はかさむ。親子2人の年金を足しても生活費は15万円弱でぎりぎりだ。母親は「私にもしものことがあれば、息子はどがんなるんでしょうか」と目頭を押さえた。
生野さんは、少人数の障害者が共同生活するグループホームに入ることを勧めたが、見込んでいたホームの設立自体が地元住民の反対で断念に追い込まれた。「障害者への偏見は根強い。その中で自立して暮らすには見守りなどサポート態勢の整備が不可欠ですが、人的にも制度的にも受け皿がないんです」と頭を抱える。
「障害者が地域の中で安心して暮らす」という法の理念と現実との乖離(かいり)。相談支援専門員はその溝を埋めうる存在だが、なり手は少ない。キャッチは自治体からの委託金で運営され、職員4人で約70世帯を担当しているが、年収約300万円で激務に追われる職員もいる。
相談支援事業に携わる法人の財政支援の充実は急務だが、県は「市町に予算はなく、現状は厳しい」と打ち明ける。
障害者が福祉サービスを受ける際の負担軽減などを盛り込んだ障害者自立支援法の改正案が、解散によって廃案となったからだ。
同法は2006年4月に一部施行。福祉施設の報酬制度を改め、利用者側が主体的にサービスを選びやすくなった一方で、ほとんど無料だったサービス利用料が原則1割負担となり、施設に通えなくなって生きがいを失った障害者や、生活に窮迫する家族が急増した。
法に基づくサービスを受ける障害者は県内で約4000人。福市さんにも重度の脳性まひの娘がおり、制度の見直しを訴えてきた。各方面からの批判を受けて国は様々な対策を講じ、利用者の負担は大幅に軽減された。
今回の改正法案には、収入のない障害者に負担を求めない措置や、発達障害も支援対象に加えることなど、当事者らの声がさらに反映されていた。福市さんは「とても期待していたのに。特に相談支援体制の法整備が遠のいたのは痛い」と肩を落とした。
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「息子さんの調子はどうですか」「悪くはないけど家ではわがままで……」。
県東部の農村地域の一軒家。70歳代の母、知的障害と精神疾患のある40歳代の息子の2人暮らし。障害者と家族の相談支援に取り組むNPO法人「キャッチ」(鳥栖市)の生野素之(もとゆき)・相談支援専門員は週1回、この家を訪ね、母親や本人の相談に乗る。
相談支援専門員は、家族と役所、施設との橋渡し役となり、「いつ、どの施設でどんなサービスを受けるか」といった計画の策定や、役所への申請手続き、施設・病院との連絡の補助を行う。「ほかに頼れる人が誰もいない。本当にありがたい方」と母親は感謝する。
息子は以前、施設に入所していたが、そこでの生活を嫌い、今は家から通所施設に通っている。施設利用費、交通費、医療費、食費など出費はかさむ。親子2人の年金を足しても生活費は15万円弱でぎりぎりだ。母親は「私にもしものことがあれば、息子はどがんなるんでしょうか」と目頭を押さえた。
生野さんは、少人数の障害者が共同生活するグループホームに入ることを勧めたが、見込んでいたホームの設立自体が地元住民の反対で断念に追い込まれた。「障害者への偏見は根強い。その中で自立して暮らすには見守りなどサポート態勢の整備が不可欠ですが、人的にも制度的にも受け皿がないんです」と頭を抱える。
「障害者が地域の中で安心して暮らす」という法の理念と現実との乖離(かいり)。相談支援専門員はその溝を埋めうる存在だが、なり手は少ない。キャッチは自治体からの委託金で運営され、職員4人で約70世帯を担当しているが、年収約300万円で激務に追われる職員もいる。
相談支援事業に携わる法人の財政支援の充実は急務だが、県は「市町に予算はなく、現状は厳しい」と打ち明ける。