ゴエモンのつぶやき

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福祉サービス受けぬ知的障害者 把握へ

2012年02月02日 01時33分48秒 | 障害者の自立
■旭川・函館市も把握へ


 札幌市白石区のアパートの一室で姉(42)と知的障害のある妹(40)の遺体が見つかったことを受け、旭川市と函館市はそれぞれ、市内に住む知的障害者で市の福祉サービスを受けていない人の把握に乗り出すことを決めた。


 白石区の姉妹は近所づきあいが薄く、妹が福祉サービスを受けていなかった。このため、状況の把握が遅れたとの指摘があり、札幌市がすでに同様の調査をすることを決めている。


 旭川市によると、昨年9月1日現在、知的障害と認定されている人は市内に3037人。障害が軽く、働いたり通常の社会生活を送ったりして、福祉施設の利用といったサービスを受けていない人もいるという。


 市はこうした人たちを把握し、困ったことがあった時の相談先などを文書で知らせることにした。市障害福祉課は「福祉サービスを受けていないということは、地域や社会とのつながりが薄いとも考えられる。札幌と同じことが起きないよう備えたい」と話す。


 また、函館市の調査対象は約800人になる見込みで、市職員が出向いて、生活状況や支援の必要の有無を把握する。緊急時などの相談先も紹介するという。

朝日新聞 2012年02月01日

「障害者支援」を支援する仕組みを作れ

2012年02月02日 01時17分20秒 | 障害者の自立
 本連載では8回にわたって、企業社会における障害者雇用・就労支援の最前線の動向を、若い社会起業家が展開する新しい支援スキームの台頭という視点からルポしてきた。これまで企業社会があまり注目してこなかった障害者福祉の領域に、ビジネス流の経営ノウハウや専門的な職業スキルを持ち込み、持続可能なビジネスモデルの構築を目指す。そんな従来にはない新しいタイプの「障害者支援ビジネス」が生まれつつある。

 大企業をスピンオフしてソーシャルベンチャーを立ち上げる社会起業家もいれば、既存の会社組織の中で障害者向けビジネスの展開や社会貢献活動に挑む社内起業家もいる。支援の形も多種多様。働く場所の限られている、障害のある人たちに対して、自社での雇用拡大を図る、就職活動や社会復帰を支援するサービスを提供する、あるいは地域の小規模福祉作業所の販売活動を支援する――それぞれのビジネス領域や専門性に合わせて、“等身大”の支援スキームを模索している。

 背景にあるのは、“失われた20年”の中で育った若い世代の間に広がる「社会とのつながり・絆」への希求と社会変革への強い使命感だ。社会が抱える問題を「自らが解決しなければならない課題」と捉え、「世の中の役に立つ仕事がしたい」「ビジネスを通じて社会に貢献したい」と考える若いビジネスパーソンが行動を起こし始めたのだ。それは静かだが、着実に広がりつつあるメガトレンドであり、閉塞感漂う日本の企業社会と企業文化に新しい価値創造の道を開くポテンシャルを秘めている、と言っても過言でない。

 本連載の最終回では、こうした社会起業家による障害者支援ビジネスの現状と課題をどう見るか、2人の専門家にインタビューした。1人は、経済学の立場から企業の障害者雇用の取り組みを研究している眞保智子・高崎健康福祉大学准教授。もう1人は、わが国初の「社会起業学科」を開設した関西学院大学の牧里毎治教授。

 眞保准教授は障害者雇用の現状について「CSR(企業の社会的責任)やコンプライアンス(法令遵守)への社会的関心の高まりとジョブコーチなど支援制度の充実が、障害者の就労機会の拡大に貢献している」としたうえで、企業が障害者雇用で成功するためには「比較優位の考え方に立脚し、働く障害者の得意分野と企業ニーズをマッチングさせる取り組みが強く求められる」と指摘する。

 一方の牧里教授は「障害者支援は困難だが、切り開かなければならない社会起業の重要分野」と位置付け、「教育プログラムの充実、経営ノウハウを共有する仕組み作り、ファイナンス面での支援策の構築」の必要性を強調する。とくに「創業資金を提供する“リターンを求めない投資ファンド”といった、新たな発想による資金供給スキームの創設」を提言している


【障害者雇用の現状】特例子会社が雇用増をけん引
 まず、眞保智子・高崎健康福祉大学准教授に民間企業セクターにおける障害者の雇用・就労状況について見解を聞いた。

 厚生労働省が昨年11月末に発表した「平成23年度障害者雇用状況の集計結果」によると、2011年6月1日現在、民間企業(障害者雇用促進法による法定雇用率1.8%を義務付けられた従業員56人以上の企業)全体の雇用率は1.65%、法定雇用率達成企業の割合は45.3%となっている。企業に雇用されている障害者数は36万6199人で、過去最高となった。

 雇用率、達成企業割合はいずれも2010年度実績(1.68%、47.0%)を下回っているが、これは短時間労働者の算入、障害者雇用が困難な業種への除外率の引き下げなど積算ベースを厳しくする制度運用改正が実施されたためで、厚生労働省では「仮に11年度の雇用率を10年度までの旧基準で積算すると約1.75%になる」としている。
―― 2000年代に入って以降、民間企業の障害者雇用は着実に進んでいます。2011年も東日本大震災、歴史的な超円高など厳しい経営環境の中で改善基調は続いているようですね。

眞保:制度改正が行われたので単純比較はできませんが、全体の傾向としては11年度の雇用状況も前年までの改善傾向が引き続き維持されていると見て間違いありません。

 障害者雇用の伸びを牽引しているのは大企業です。規模別で見ると、従業員1000人以上の大企業では法定雇用率を上回っています。これに対して、同100人以下の中小企業ではここ10年ほど低下傾向が続いており、二極化が進んでいると言えます。

―― 大企業で障害者雇用が進んでいる要因として、どんな点が指摘できるとお考えですか。

眞保:やはり、CSR(企業の社会的責任)やコンプライアンス(法令遵守)などへの社会的関心の高まりが背景にあります。私も関わった高齢・障害者雇用支援機構障害者職業総合センターの「企業経営に与える障害者雇用の効果等に関する研究(2010年度)」によると、具体的な効果としてCSRの遂行、法令遵守、障害者雇用納付金の支払いの軽減・解消などを挙げる企業が多い。女性、高齢者、若者、障害者といった社会的弱者の雇用拡大を求めるダイバーシティ経営実現への社会の要請が、積極的に障害者雇用に取り組む企業行動を後押ししていると言えるでしょう。

 同時に、企業・雇用主に対する様々な支援制度が充実してきたことも見逃せません。職業上の適性評価や就労準備訓練など職業リハビリテーションサービスを行う「地域障害者職業センター」(全国47カ所)、地域に密着して障害者の就労と生活を一元的に支援する「障害者就業・生活支援センター」(同310カ所)などの専門的な支援機関が整備され、専門知識を持って障害のある当事者を支援し、さらには障害者と企業の橋渡し役を果たすジョブコーチ制度も充実してきています。

 こうした専門機関、専門的人材を活用することで、ノウハウの少ない企業でも職場環境や人事制度の整備など障害者を雇用する際の経営上の負担をかなり軽減できるようになってきた。ただ、こうした制度の詳細を知らない企業経営者、人事部担当者もまだまだ多く、もっとしっかりと周知していくことが必要です。

―― 障害者が働きやすい環境を整備し、そこでの雇用を親会社の実雇用率に算入できる「特例子会社」を新設する企業が、大企業グループを中心にここ数年急増しています。2011年6月1日現在、特例子会社は319社で、前年比36社も増えました。

眞保:特例子会社制度は、知的障害者や精神障害者が法の対象となった1987年の障害者雇用促進法の改正で制度化されたもの。歴史は古いのですが、ここ数年で新設する動きが加速しています。2002年には119社でしたから、この10年で3倍近くに増えたことになります。

 特例子会社制度の是非については今日なお議論がありますが、この制度によって企業が障害のある人たちに働きやすい環境を提供しやすくなる。それが障害者の雇用拡大、とりわけ知的障害者の働く場を広げることに大きく貢献している点は疑う余地がありません。

【障害者の戦力化】得意分野に注目する
 障害のある人たちを雇用する企業にとって、最大の関心事は「採用した障害者が実際に戦力になってくれるのか」である。本連載では障害者の適性に合わせた多様な職場を作り、仕事の進め方などについても工夫をこらして能力開発に効果を上げているパソナハートフルなどの事例を紹介した。また2010~11年に本サイトで連載した「障害者が輝く組織が強い」でも、リサイクル工場などで大量の障害者を雇用している食品トレー最大手のエフピコ、「ユニクロ」の全店舗で障害者を採用・配置しているファーストリテイリングといった先進的な企業の取り組みを詳しく取り上げてきた。

 だが、多くの企業がいまだに「障害者ができる仕事は限られている」「一定以上はスキルアップさせることは無理」といった誤った認識を捨てきれないでいるように思える。

―― 数多くの成功モデルが出てきているにもかかわらず、企業の中には障害者への誤解や偏見が根強く残っているように見えます。障害者雇用を成功に導くためには、どのような取り組みが必要でしょうか。

眞保:経済学的な視点で私が一貫して指摘しているのは、「比較優位」の考え方を軸にして、働く障害者と企業ニーズ(仕事)をマッチングさせる創意工夫が最も重要であるということです。英国の経済学者デビッド・リカードは有名な『比較生産費説』の中で、「2国間貿易では生産コストが相対的に優位な産物に特化して輸出を行うことがそれぞれの国全体の経済的厚生を最大にする」と説いています。障害者雇用でもこれと同じように、障害者が相対的に優位なところ、優れている点を見いだしていくことが成功のキーファクターになると考えています。

 つまり、「できない」ことばかりを意識するのではなく、個々の障害者が「できること」や「得意分野」に注目して、それに合わせて職場環境を整え、仕事を用意する、ということです。ここで注意していただきたいのは、「絶対優位」ではなく、「比較優位」の発想で障害者が相対的に得意な分野を見つけ出していく姿勢です。人は誰でも向き不向き、得意不得意があります。これは障害の有無に関係ありません。向いているところ、得意なところに注目して、それを伸ばす。成功している企業は例外なく、この考え方を実践しています。「比較優位」の考え方は、障害のある優秀な人材を育成し、企業と障害者がウィン・ウィンの関係を築いていくために最も大切なポイントと言えるのではないでしょうか。

―― 具体的に、そうした「比較優位」の発想で成果を上げている企業の事例があれば、教えてください。

眞保:例えば、大手医薬品メーカー、第一三共の特例子会社である第一三共ハピネスでは、知的障害のある社員が親会社の研究所で使用されているフラスコ、ビーカーといったガラス製の実験器具の洗浄業務を請け負っています。実験室は36室もあり、そこから多種多様な実験器具を回収して洗浄し、間違いなく元の実験室に戻す。洗浄作業は超音波洗浄したうえで、13種類ものブラシを使い分けながら1つ1つ手作業できれいにブラッシングしていく。創薬に使う器具ですから、洗い落としなどはもちろん許されないわけで、一連の作業には相当高度な管理態勢が求められます。

 第一三共では以前は健常者のパート社員が担当していた仕事を特例子会社に切り出したのですが、その際、作業手順を徹底的に見直しました。誤集配を防ぐために回収用カートの器具の置き場所を実験棟ごとに7つに色分けしたり、実験器具のどの部分をどのブラシで何回ブラッシングするかといった手順もきめ細かく設定したりしたのです。その結果、洗浄作業の品質、生産効率は以前より格段と向上し、誤集配などのミスも激減したそうです。

 このケースは、「手順を明確にすれば、覚えたことを正確に繰り返すことができる」という知的障害のある人の得意分野をうまく引き出した成功例と言えるでしょう。

―― 知的障害以外の障害者に関してはいかがでしょうか。

眞保:一例をご紹介すると、NTTデータの特例子会社、NTTデータだいちでは厚生労働省の「精神障害者雇用モデル推進事業」によって、障害者の特性や得意分野を担当業務に活かす取り組みを推進しています。この中では、論理的思考力、パターン認識や異常発見能力の高さ、集中力といった優れた特性を持つ高機能自閉症のある社員を高度で根気のいるプログラム開発関連業務に配置し、ソフトウエアの動作検証やバグ発見にその能力を活用するなど、会社の業績向上に直結する大きな成果を上げています。

【今後の課題】「役立つ人材」に育てる
 歴史的に見て障害者の雇用拡大・就労支援は、まず身体障害者に対する取り組みが先行し、続いて知的障害者へと広がり、そして現在は精神障害者、発達障害者の支援がようやく本格化してきたという流れで進んできた。支援サービスの領域や内容も広がってきており、本連載でも発達障害児の教育・就職支援(ウィングル)、うつ病など気分障害のある人の社会復職支援(リヴァ、U2plus)、リウマチなど慢性疾患患者や内部障害者の支援(ブライト・ソレイルズ)といったニュービジネスを報告した。

 「社会の絆」やダイバーシティへの関心の高まりを背景に進む障害者の雇用拡大・就労支援だが、障害者が真に企業価値や業績の向上に貢献するようになるためには、なお多くの課題が残されている。

― 障害者支援の裾野が広がる中、今後、ビジネス社会が取り組むべき課題にはどのようなことがあるでしょうか。

眞保:障害種別に見ると、現在、国が最も力を入れているのが精神障害者や発達障害者の雇用拡大です。NTTデータだいちの例でもわかるように、これらの障害者には極めて高い職業能力を持っている人が多い。その半面、職場の人間関係を築くのが苦手だったり、長時間の勤務が難しかったりする人もいて、確かに人事管理には困難な点もあります。障害の実情を知らないための偏見も根強く残っています。企業側にはどんな支援策を講じてほしいのかなど、遠慮することなく、もっと声を出して必要な施策を国に要望することも必要でしょう。

 精神障害者の雇用促進の1つのアイデアとしては、専門の精神科を持つ医療機関との連携を進めることも有望だと思います。こうした専門医療機関は実は、自身が「雇用主」となって多くの精神障害者を雇用しているという事実があるからです。ですから、一般企業がこれらの医療機関と「雇用促進」という観点も含めた連携協定を結び、ヘルス・メンタルケア面でのバックアップはもちろん、雇用ノウハウの面でもいろいろと相談したり、社員教育での支援を受けたりしながら精神障害者の受け入れを進めるというやり方が現実的な手法と言えるのではないか、と考えています。

―― 身体障害者や知的障害者についてはいかがでしょうか。

眞保:身体障害者や内部障害者については、なお課題は残るものの、職域は着実に広がり、賃金水準も上がってきています。今後は、従来のような補助的な業務ばかりでなく、事業のコアになる業務や意思決定のプロセスにいかにして障害者を登用していくか。働く障害者の立場から言えば、どうやって1人ひとりのキャリア形成を図っていくか。いわば「雇用の質」が問われるようになっていくでしょう。

 他方、知的障害者については、特例子会社による成功モデルが増えてきた中で、そこで培った雇用や能力開発のノウハウをいかにして企業社会全体に広げていくかが今後の課題です。とくに中小企業や雇用率未達成企業に、先行する大企業のノウハウをどうやって移植していくか。幸いなことに、最近では大企業の特例子会社の間では意見や情報を交換するための交流活動も始まってきています。それをさらに発展させていく社会的な取り組みが必要になっていると思います。

―― 「雇用の質」という意味では、「定着率の向上」も引き続き大きな課題の1つですよね。

眞保:おっしゃる通りです。とくに知的障害者や精神障害者については残念ながら、すげ替え可能な人材と勘違いされている向きがないとは言えない。企業側には「数を増やす」ばかりでなく、定着率を高めていく努力を積み重ねることが求められます。そのためには、障害者に適した仕事を開発・管理できる現場マネジャーの育成が必要で、企業全体で取り組むべき課題になってくると思われます。

 いずれにしても、大企業を中心に高まっている障害者の受け入れ機運を後退させないことが肝要です。繰り返しになりますが、それには障害者を「役立つ人材」に育てる比較優位の雇用ノウハウを共有する仕組みを作り、失敗のリスクを少しでも小さくすることが何よりも必要と言えるでしょう。

【社会起業家の台頭】若い世代で強まる関心
 次に、若い社会起業家の台頭という視点から、障害者支援ビジネスの可能性と課題について、牧里毎治・関西学院大学教授に聞いた。

 わが国で「社会起業家」という概念がにわかに脚光を集めるようになったのは2007年前後から。環境や人権といった社会的課題の解決を志す若い起業家が続々と未知の領域での挑戦を始めており、“社会起業ブーム”と呼べるような様相を呈している。日本のベンチャー企業の発展史を見ると、1970年代前半の第1次ベンチャー企業ブーム、80年代前半の第2次ブーム、90年代後半のいわゆるITバブル期に起きた第3次ブームに続く、第4次ベンチャー企業ブームが社会貢献型ビジネスの領域で巻き起こっている、と言っても大げさではないだろう。

―― 関学は2008年に「人間福祉学部」を新設し、その中にわが国初の「社会起業学科」を創設しました。まさに現在のブームを先取りした格好ですね。

牧里:おかげさまで今年3月には、最初の卒業生約90人を社会に送り出すことになります。進路については残念ながら、ほとんどの学生が大企業や公務員などの既存組織に就職する道を選び、在学中あるいは卒業と同時にソーシャルエンタープライズ(社会貢献型企業)を創業するような学生は現れませんでした。ただ、それでも学生の就職先選びの考え方は、以前に比べて大きく変わってきたと感じています。

―― 具体的には、どのような変化が見られるのでしょうか。

牧里:一言で言うと、「社会性の高い企業」を選ぶ傾向がはっきりと現れています。直近の業績、事業の成長性といった視点だけでなく、どのようなCSR活動を行っているかとか、地域社会の発展にどんな貢献をしているかといった視点で企業を選ぶ学生が多いんですね。面接で志望動機を聞かれても、そうした考えをはっきりと口にして、「就職後は社会に役立つ仕事に携わりたい」と希望を明言する学生が増えています。

 同時に、みんなが大企業を指向するという傾向が薄れてきて、二極分化が進んでいるように感じます。日本航空のような巨大企業でさえ行き詰まる時代ですから、やりたい仕事があって「ここなら自分を生かせる」と思えば、中小・ベンチャー企業であっても気にせずに就職しようと考える学生が目立つようになってきた。そうした学生たちは「社長と直接話ができて、顔の見える信頼関係が築けるから」と言う。このあたりの変化は、「自分がやりたい仕事、やるべき仕事に挑戦したい」と社会起業家を志す若者が増えていることと重なり合う最近の潮流ではないかと感じます。

―― 若い社会起業家輩出の社会的な土壌は確かに醸成されてきている、ということですね。

牧里:本学でも文部科学省の大学教育プログラム開発事業によって、学生たちに実際に社会貢献活動を企画・実践させる「起業プラクティス」を実施しました。ここでは限界集落の活性化プロジェクト、発展途上国製品を販売するフェアトレードショップ開設などの意欲的なプロジェクトに挑戦する学生が現れました。中でも、元Jリーカーというユニークな経歴を持つある学生は、タイの農村部にある孤児施設の経営を支援するために「サッカーを通じた心と施設経営の支援」という優れた事業プランをまとめ、実践しています。施設に子供たちのためのサッカー場を作る。そのための資金集めに学内のサッカー部と協力してチャリティーマッチを開催したり、フェアトレードショップを開設するといった取り組みです。

 こうした成果を踏まえ、2012年度からは「起業プラクティス」を正規のカリキュラムに組み込むなど、本学でもより実践的な起業家育成教育の充実を図っていこうと考えています。

【社会起業家の支援】資金供給のパイプを太く
 障害者支援ビジネスに取り組む社会起業家の活動は多岐にわたる。直接雇用の拡大(アイエスエフネットなど)、障害者自立支援法を活用した就労支援や復職支援サービスの提供(ウイングル、リヴァ)、地域社会の中に働く場を開発(エヌ・イー・ワークス)、地域の小規模福祉作業所の販売支援(NEWSED PROJECT、インサイト)など、支援する事業領域も、ビジネス手法も、経営モデルも多種多様で、中には生き方そのものを支援しようという試みも出現している(よりよく生きるプロジェクト)。

―― 社会起業家の活動領域という視点で、本連載で「障害者支援ビジネス」と名付けたニュービジネスへの挑戦をどのように見られますか。

牧里:障害者への支援は厳しいけれども、切り開いていかなければならない仕事です。旧来のような“あてがいぶちのサービス”ではなく、障害があってもごく普通に社会参加でき、自分らしく生きられる仕組みを障害者と一緒に創り出そう。そう考える若い社会起業家が続々と出現している、ということでしょう。その意味では、困難を伴う半面、大変やりがいのある、また可能性のある事業分野だと思います。

 例えば、東京で視覚障害者のいわば営業支援に取り組んでいる社会起業家がいます。視覚障害者の職業というと、古くから鍼灸マッサージ、いわゆる「三業」がありますが、近年は人々の健康志向の高まりを背景に資格を取って新規参入する健常者が増え、顧客獲得競争が非常に激しくなっています。そこで、地域に小規模な治療院を開設している視覚障害者をネットワーク化して企業の福利厚生部門につなぎ、安定的に治療の仕事を確保しようという活動を始めたのです。この活動はNPO法人として展開されていますが、ニッチながらなかなか優れた着眼点で生まれた支援事業だと思います。

―― 障害者支援ビジネスの課題は収益性の確保だと思われます。

牧里:確かに収益モデルをどのように構築するかが社会起業家には問われます。サービス利用者である障害者が支払う対価、つまりサービス料金だけでは経営の維持は難しい場合が多いでしょう。そこで企業や個人からの寄付金、国や自治体からの助成金を組み合わせた収益モデルを考える必要がありそうです。それでも、起業家自身が少しでも自立できるような経営努力を図ることが重要です。

 これは高齢者支援ビジネスということになりますが、大阪府大東市に「住まいみまもりたい」というNPO法人があります。市当局と連携して、独居高齢者の住まいや資産を管理し、亡くなった場合は生前に委託を受けた上でそうした資産の整理を代行しています。処分にまわされる不用品の中にはアンティークとして価値のある物、古い着物などリサイクルできる物もあります。そこで、このNPO法人では不用品を処分して得た資金を今後の活動に回す仕組みを作り、新たに2人の雇用も実現しています。いわば社会的ストックの再利用ですね。社会起業家には経営を助けるこうした知恵も求められるのでないでしょうか。

―― 社会起業家を支援するために、社会全体で取り組むべき課題としてはどのようなことがあるとお考えでしょうか。

牧里:第一に教育と社会的認知、第二に経営ノウハウを共有できるネットワーク作り、第三にファイナンス、つまり社会起業への安定した資金供給が挙げられるでしょう。

 第一の教育という点では、本学の社会起業学科のように、大学などの高等教育機関における専門教育プログラムをもっと充実させる必要がある。大学での教育・研究活動が広がることで、社会起業家という存在の社会的認知が広がる効果も期待できます。

 第二のネットワーク化は、30代、40代の先輩起業家やビジネスパーソンがメンターとなって若い社会起業家や起業志望者を継続的に支援する社会的な組織を作り、起業ノウハウを社会全体で共有する仕組みを構築するということです。

 第三の資金供給が最大の問題なのですが、特に喫緊の課題といえるのが創業資金の手当てです。アメリカにはソーシャルベンチャーの立ち上げを支援する創業支援ファンドが数多く存在し、優れた事業プランには1件500万円くらいの創業資金を提供するケースも珍しくありません。ところが、日本ではあってもせいぜい10万とか50万円程度。社会起業家に対する資金供給パイプがあまりにも細々とし過ぎているのが現状なんです。

―― IPO(株式公開)やM&A(合併・買収)による事業売却など明確な出口戦略がある一般的なベンチャー企業と違って、そもそもソーシャルベンチャーは収益性が乏しく投資をしても回収できるかどうかわかりません。何か具体策はありますか。

牧里:そこで提案したいのが、「リターンを求めない投資ファンド」の創設です。投資回収が難しいならば、思い切って発想転換して、「投資すること自体が企業価値を高める社会貢献活動。元本だけ保証してくれれば、配当は一切いらない」といったスタンスの投資ファンドがあってもいいのではないか。ほとんど無担保・無利子の長期貸し付けのような形になりますが(笑)。

 担い手として期待したいのは、地域社会を経営基盤とする信用金庫や地方銀行のようなコミュニティーバンク。金融機関だけで創設するのが難しければ、国や自治体が地域再生・活性化策の一環として公的資金で元本保証するような仕組みを作り、そうしたファンド創設を支援してもよいのではないでしょうか。

 若い社会起業家はこれからの超高齢社会の国造りを担う重要なプレイヤーであり、彼らの起業意欲をしぼませないように社会全体で応援する機運を高め、具体的な支援策を講じていくことが強く求められていると思います。

日経ビジネス オンライン -2012年2月2日(木)