ファイナンシャル・プランナー 竹下さくら
最近、フラット35(長期固定金利の住宅ローン)で住宅購入を検討する人から、「機構団信と民間の生命保険、どちらが良い?」という質問を受ける機会が増えました。
機構団信(フラット35利用者向けの団体信用生命保険)の加入は任意ですので、もちろん、他の保険で準備してもかまいません。ただし、メリットだけでなく大きなデメリットもありますので、しくみの違いをよく理解した上での選択が大切です。
今回は両者の違いと留意点を確認しておきましょう。
保険料面では30代半ばが分岐点
団体信用生命保険(以下、団信)は、住宅ローンの契約者が死亡したり高度障害を負った場合に、保険金が充当されてローン残債がゼロになる保険です。契約者が亡くなって遺族が家を相続すると住宅ローンも引き継がれるわけですが、返済を続けられず、せっかく手に入れた家を手放しても借金が残ってしまうケースは少なくありません。そこで、そんな事態でも遺族に借金を残さず家は残せるしくみとして、団信が広く活用されています。
民間の銀行では通常、この団信に加入できなければ住宅ローンを借りることができませんが、フラット35を借りる際は、団信への加入は任意になっています。なぜなら、フラット35をつくった住宅金融支援機構の前身は住宅金融公庫という公的機関でしたので、団信に入れないことを理由にローン契約を断られる人を救済するコンセプトが受け継がれているからです。
けれども、機構団信の保険料が2009年4月からアップしたこと等を背景に、一般の生命保険で備えるほうが安くていいのではないか、と思う人が最近増えてきています。
具体的に、団信に代わるものとしてよく取り沙汰されている生命保険は、「収入保障保険」と「逓減ていげん定期保険」です。これらの保険の詳しいしくみはここでは省略しますが、いずれも、受取保険金の総額が右肩下がりの三角形、つまり、年々減額していくタイプの生命保険です。
一方、団信は、ローンの残債をまるまるカバーする生命保険のため、返済が進んでローン残債が減るにつれて保険金の額が減るしくみです。ローンの借入れ当初は毎月返済額のうち利息が占める割合が多いため元金がなかなか減りませんから、ローン残債もやはり右肩下がりの放物線を描きます。右肩下がりのトレンドは同じなので、民間の生命保険で安く同等の保障を確保できるのであれば、そのほうがお得ということなのですね。
実際に、民間の生命保険を選んだ人に理由を聞いてみると、(1)保険料が団信に比べて安い(たばこを吸わない若い人など)、(2)生命保険料控除の対象になる(団信の場合は対象とならない)からという意見が多いです。
そこで、まず(1)について実際に試算してみると、30代前半までの年齢であれば、保険会社やプランなどによりますが、確かに団信に比べて収入保障保険等のほうが有利になるプランが多く、特に、非喫煙割引が受けられるもの(全社で扱っているわけではありません)では安くなりました。また、30代後半より上の年代でも、返済期間(保険期間)が短かいもので団信よりも有利になるプランがありました。
ちなみに、団信の保険料は年齢による違いはなく、あくまでローンの借入額に連動します。一方で、民間の生命保険では年齢がアップするほど保険料は高くなります。その分岐点が30代半ばということですね。年齢が高いほど団信のほうが割安になっていきます。30歳代後半であれば、借入期間が25年以上の人は機構団信のほうが保険料合計額は安くて済む傾向が見られました。
なお、(2)について言及すると、生命保険料控除の対象となること自体は間違いではありません。ただ、私のところにみえる相談者は、すでに子どもがいて手狭になって家を購入することになり、すでに高額な生命保険に入っている方が多かったです。
つまり、すでにその生命保険で生命保険料控除の枠を使い切っているので、団信代わりに新たに入る収入保障保険で生命保険料控除を受けられたケースはあまりありませんでした。
いま独身で住宅を購入されるという方であれば、生命保険料控除の恩恵は受けられるかもしれません。ただ、生命保険料控除で受けられる税の還付は、所得税の税率が10%の人であれば最大で年額5000円、20%なら1万円といったイメージです。お子様が生まれれば別途に高額な生命保険を契約するのが一般的ですので、生命保険料控除が受けられるからというメリットの効力は、実質的には数万円にとどまるのではないでしょうか。
収入保障保険等を活用する際の留意点
収入保障保険は、遺族の毎月の生活費を保障するために設計された保険なので、保険金は年金の形で分割されて支払われるしくみです。そのため、住宅ローンと同程度が毎月受け取れるプランにすれば、うまく利用できそうに思えます。けれども、実際には、収入保障保険の保険金を毎月受け取りにすると雑所得の課税対象となり、余分な税金を払う可能性があります。
また、ローン残債を一括で返済する場合に比べ、ずっとローンの金利分も余分に負担し続けることになる点は理解しておきたいところです。
では、収入保障保険の年金を一括で受け取ってローン残債を返済してしまうケースはどうでしょうか。この場合、受取人が法定相続人であれば相続税の対象となりますが、死亡保険金の非課税枠(2012年2月現在、500万円×法定相続人数)が使えます。ただし、年金形式での受取総額に比べて、一括して受け取ると10%以上目減りするのが通常です。
そのため、収入保障保険を活用する場合は、いざという時に年金方式にするか一括受け取りでいくかをまず判断した上で、一括受け取りのつもりなら、保険金額とローン残債がおおむね同額になるように丁寧に保障プランニングしてもらうことが重要になります。
続いて留意しておきたいポイントは、繰り上げ返済をどんどん実行しようと考えている人のケースでは、民間の生命保険では非効率になる点です。前向きに繰り上げ返済をしていくと、返済期間もローン残債もどんどん減っていきます。機構団信の支払保険料はローン残債の額に連動していますので、借入れ当初は負担が重くても、繰り上げ返済によって減ったローン残債に合わせて保険料負担もどんどん減っていきます。つまり、収入保障保険等と比較にならないほど保険料負担が軽くなるわけです。
収入保障保険等の保険料は、契約時の保険料のままで変わりません。機構団信の保険料とどこかのタイミングで逆転もします。収入保障保険等を活用した人が、保険のメンテナンスをしないままにローンの繰り上げ返済を繰り返すと、余分に高額な保険料を長い期間ずっと払い続けることになります。保険料を浮かすつもりで契約したはずが、逆に、非効率な保険料支払いになるリスクが高いのです。
特に留意したいのは、繰り上げ返済を前提にして、初めから保障期間を短くしたり金額を抑えたプランで収入保障保険等に契約するケースです。繰り上げ返済プランが計画通りに実行できないと、万一の際に保険金でローンを完済できなくなる危険性があり要注意です。
なお、転職して収入が減ってしまったり、親の介護のために妻が働けなくなり収入が減った、あるいは、子どもが私立学校に行くことになって出費が増えた、といった事情で、住宅ローンの返済方法を変えるご家庭が最近急増しています。
フラット35では、返済期間の延長といった特別対応なども柔軟に対応していますが、その際に機構団信であれば保障期間が連動して延長されます。
一方で、収入保障保険などでは、保障期間の延長はできなかったり、新たに健康状態の診査が必要になるのが通常です。健康状態が悪化していて十分な保障を確保できない可能性もあり、また、年齢アップしている分だけ、その際の保険料は当然高くなります。十分に念頭に置いておきたいところです。
3大疾病付きや夫婦でローンを組むケースでは団信が有利
ここで、明らかに機構団信を活用した方が良いと思われるケースを2つ紹介します。
まず、フラット35を夫婦で収入合算して借りるのであれば、収入保障保険等よりも機構団信デュエットが安心です。夫婦のどちらか一方が死亡・高度障害状態になった場合に、住宅の持ち分や返済額等にかかわらずローン残債がゼロになるのです。
これが、夫婦それぞれが収入保障保険等に加入するプランでは、夫婦のどちらかが亡くなってもローン返済は全額が継続されます。亡くなった人のローン残債をその生命保険金でまかなって完済させたとしても、生きている人の分のローン返済はそのまま続きます。
夫婦のどちらかが亡くなった後、一人で残りのローン返済をするのに無理があるというご家庭は、機構団信デュエットのほうが向いています。
続いて、3大疾病の保障を付ける場合は、収入保障保険等を使うより機構団信のほうが、保障の充実度の点でおすすめです。
3大疾病保障付き機構団信は、ガン、急性心筋梗塞、脳卒中で所定の状態になった場合に、住宅ローン残債をゼロにするしくみの保険です。
一方、収入保障保険等の特定疾病特約は、保険金が支払われるわけではなく、以後の保険料が免除されるしくみにとどまるのが通常です。住宅ローンの残債をゼロにできるわけではないのです。3大疾病保障付き団信は、保険料負担は高いですが、3大疾病の保障が欲しいという人には検討の価値大です。
おわりに、損得だけでなく十分確認を
機構団信と収入保障保険等の特徴を見てきました。住宅ローンや保険設計の相談を受ける立場として気になるのは、この両者のどちらが良いかを、保険料の損得だけで判断する人がとても多いことです。
たとえば、災害等で命を落とした場合をイメージすると、団信であれば、ローン返済者が亡くなったことがわかった時点でローン残債がなくなります。対して、収入保障保険等の一般の生命保険で手当てするプランを選んだご家庭では、頼りになる人を亡くして心身ともにボロボロな中、生命保険金を受け取ってローン残債に充てる手続きを、遺族は自力でする必要があり、負担がとても重いように感じます。
実際には、相続や遺産分割など様々な処理を、タイトなスケジュールのなかでしなければならないので、相続人の間でもめたりすると大変な状況に。そんな事態でも、受取人が無理せず対応可能かどうかの吟味は必須と考えます。
特に、収入保障保険等を検討されるのは20~30代前半の方が多いですから、留意が必要です。残された配偶者の負担が過度に重くならないよう十分に確認した上での判断としていただけたらと思います。
【私のつぶやき】
よく「機構団信の保険料が高い」と耳にしますが、それは、団信がローン残債に比例するため、借入れ当初は特に高く感じることが理由です。その上、年払いですので、ずしりと感じるわけですね。
また、団信の保険料は、返済が進むと保険料負担がどんどん軽くなるしくみですが、一般の生命保険と同様に期間中ずっと変わらないものと誤解している人も少なくありません。
1か月あたりにならして考えると、ローン残債1000万円につき、およそ3000円程度です。そうしたしくみの違いも理解した上で、ご自分に合った選択をしていただければと思います。
プロフィール
竹下さくら (たけした・さくら)
1969年生まれ。CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。「なごみFP事務所」を共同運営。損保・生保の本店業務部門を経て、独立系FPに。ライフプランをベースにしたコンサルティングのかたわら、講演・執筆活動を行う。
(2012年2月23日 読売新聞)
最近、フラット35(長期固定金利の住宅ローン)で住宅購入を検討する人から、「機構団信と民間の生命保険、どちらが良い?」という質問を受ける機会が増えました。
機構団信(フラット35利用者向けの団体信用生命保険)の加入は任意ですので、もちろん、他の保険で準備してもかまいません。ただし、メリットだけでなく大きなデメリットもありますので、しくみの違いをよく理解した上での選択が大切です。
今回は両者の違いと留意点を確認しておきましょう。
保険料面では30代半ばが分岐点
団体信用生命保険(以下、団信)は、住宅ローンの契約者が死亡したり高度障害を負った場合に、保険金が充当されてローン残債がゼロになる保険です。契約者が亡くなって遺族が家を相続すると住宅ローンも引き継がれるわけですが、返済を続けられず、せっかく手に入れた家を手放しても借金が残ってしまうケースは少なくありません。そこで、そんな事態でも遺族に借金を残さず家は残せるしくみとして、団信が広く活用されています。
民間の銀行では通常、この団信に加入できなければ住宅ローンを借りることができませんが、フラット35を借りる際は、団信への加入は任意になっています。なぜなら、フラット35をつくった住宅金融支援機構の前身は住宅金融公庫という公的機関でしたので、団信に入れないことを理由にローン契約を断られる人を救済するコンセプトが受け継がれているからです。
けれども、機構団信の保険料が2009年4月からアップしたこと等を背景に、一般の生命保険で備えるほうが安くていいのではないか、と思う人が最近増えてきています。
具体的に、団信に代わるものとしてよく取り沙汰されている生命保険は、「収入保障保険」と「逓減ていげん定期保険」です。これらの保険の詳しいしくみはここでは省略しますが、いずれも、受取保険金の総額が右肩下がりの三角形、つまり、年々減額していくタイプの生命保険です。
一方、団信は、ローンの残債をまるまるカバーする生命保険のため、返済が進んでローン残債が減るにつれて保険金の額が減るしくみです。ローンの借入れ当初は毎月返済額のうち利息が占める割合が多いため元金がなかなか減りませんから、ローン残債もやはり右肩下がりの放物線を描きます。右肩下がりのトレンドは同じなので、民間の生命保険で安く同等の保障を確保できるのであれば、そのほうがお得ということなのですね。
実際に、民間の生命保険を選んだ人に理由を聞いてみると、(1)保険料が団信に比べて安い(たばこを吸わない若い人など)、(2)生命保険料控除の対象になる(団信の場合は対象とならない)からという意見が多いです。
そこで、まず(1)について実際に試算してみると、30代前半までの年齢であれば、保険会社やプランなどによりますが、確かに団信に比べて収入保障保険等のほうが有利になるプランが多く、特に、非喫煙割引が受けられるもの(全社で扱っているわけではありません)では安くなりました。また、30代後半より上の年代でも、返済期間(保険期間)が短かいもので団信よりも有利になるプランがありました。
ちなみに、団信の保険料は年齢による違いはなく、あくまでローンの借入額に連動します。一方で、民間の生命保険では年齢がアップするほど保険料は高くなります。その分岐点が30代半ばということですね。年齢が高いほど団信のほうが割安になっていきます。30歳代後半であれば、借入期間が25年以上の人は機構団信のほうが保険料合計額は安くて済む傾向が見られました。
なお、(2)について言及すると、生命保険料控除の対象となること自体は間違いではありません。ただ、私のところにみえる相談者は、すでに子どもがいて手狭になって家を購入することになり、すでに高額な生命保険に入っている方が多かったです。
つまり、すでにその生命保険で生命保険料控除の枠を使い切っているので、団信代わりに新たに入る収入保障保険で生命保険料控除を受けられたケースはあまりありませんでした。
いま独身で住宅を購入されるという方であれば、生命保険料控除の恩恵は受けられるかもしれません。ただ、生命保険料控除で受けられる税の還付は、所得税の税率が10%の人であれば最大で年額5000円、20%なら1万円といったイメージです。お子様が生まれれば別途に高額な生命保険を契約するのが一般的ですので、生命保険料控除が受けられるからというメリットの効力は、実質的には数万円にとどまるのではないでしょうか。
収入保障保険等を活用する際の留意点
収入保障保険は、遺族の毎月の生活費を保障するために設計された保険なので、保険金は年金の形で分割されて支払われるしくみです。そのため、住宅ローンと同程度が毎月受け取れるプランにすれば、うまく利用できそうに思えます。けれども、実際には、収入保障保険の保険金を毎月受け取りにすると雑所得の課税対象となり、余分な税金を払う可能性があります。
また、ローン残債を一括で返済する場合に比べ、ずっとローンの金利分も余分に負担し続けることになる点は理解しておきたいところです。
では、収入保障保険の年金を一括で受け取ってローン残債を返済してしまうケースはどうでしょうか。この場合、受取人が法定相続人であれば相続税の対象となりますが、死亡保険金の非課税枠(2012年2月現在、500万円×法定相続人数)が使えます。ただし、年金形式での受取総額に比べて、一括して受け取ると10%以上目減りするのが通常です。
そのため、収入保障保険を活用する場合は、いざという時に年金方式にするか一括受け取りでいくかをまず判断した上で、一括受け取りのつもりなら、保険金額とローン残債がおおむね同額になるように丁寧に保障プランニングしてもらうことが重要になります。
続いて留意しておきたいポイントは、繰り上げ返済をどんどん実行しようと考えている人のケースでは、民間の生命保険では非効率になる点です。前向きに繰り上げ返済をしていくと、返済期間もローン残債もどんどん減っていきます。機構団信の支払保険料はローン残債の額に連動していますので、借入れ当初は負担が重くても、繰り上げ返済によって減ったローン残債に合わせて保険料負担もどんどん減っていきます。つまり、収入保障保険等と比較にならないほど保険料負担が軽くなるわけです。
収入保障保険等の保険料は、契約時の保険料のままで変わりません。機構団信の保険料とどこかのタイミングで逆転もします。収入保障保険等を活用した人が、保険のメンテナンスをしないままにローンの繰り上げ返済を繰り返すと、余分に高額な保険料を長い期間ずっと払い続けることになります。保険料を浮かすつもりで契約したはずが、逆に、非効率な保険料支払いになるリスクが高いのです。
特に留意したいのは、繰り上げ返済を前提にして、初めから保障期間を短くしたり金額を抑えたプランで収入保障保険等に契約するケースです。繰り上げ返済プランが計画通りに実行できないと、万一の際に保険金でローンを完済できなくなる危険性があり要注意です。
なお、転職して収入が減ってしまったり、親の介護のために妻が働けなくなり収入が減った、あるいは、子どもが私立学校に行くことになって出費が増えた、といった事情で、住宅ローンの返済方法を変えるご家庭が最近急増しています。
フラット35では、返済期間の延長といった特別対応なども柔軟に対応していますが、その際に機構団信であれば保障期間が連動して延長されます。
一方で、収入保障保険などでは、保障期間の延長はできなかったり、新たに健康状態の診査が必要になるのが通常です。健康状態が悪化していて十分な保障を確保できない可能性もあり、また、年齢アップしている分だけ、その際の保険料は当然高くなります。十分に念頭に置いておきたいところです。
3大疾病付きや夫婦でローンを組むケースでは団信が有利
ここで、明らかに機構団信を活用した方が良いと思われるケースを2つ紹介します。
まず、フラット35を夫婦で収入合算して借りるのであれば、収入保障保険等よりも機構団信デュエットが安心です。夫婦のどちらか一方が死亡・高度障害状態になった場合に、住宅の持ち分や返済額等にかかわらずローン残債がゼロになるのです。
これが、夫婦それぞれが収入保障保険等に加入するプランでは、夫婦のどちらかが亡くなってもローン返済は全額が継続されます。亡くなった人のローン残債をその生命保険金でまかなって完済させたとしても、生きている人の分のローン返済はそのまま続きます。
夫婦のどちらかが亡くなった後、一人で残りのローン返済をするのに無理があるというご家庭は、機構団信デュエットのほうが向いています。
続いて、3大疾病の保障を付ける場合は、収入保障保険等を使うより機構団信のほうが、保障の充実度の点でおすすめです。
3大疾病保障付き機構団信は、ガン、急性心筋梗塞、脳卒中で所定の状態になった場合に、住宅ローン残債をゼロにするしくみの保険です。
一方、収入保障保険等の特定疾病特約は、保険金が支払われるわけではなく、以後の保険料が免除されるしくみにとどまるのが通常です。住宅ローンの残債をゼロにできるわけではないのです。3大疾病保障付き団信は、保険料負担は高いですが、3大疾病の保障が欲しいという人には検討の価値大です。
おわりに、損得だけでなく十分確認を
機構団信と収入保障保険等の特徴を見てきました。住宅ローンや保険設計の相談を受ける立場として気になるのは、この両者のどちらが良いかを、保険料の損得だけで判断する人がとても多いことです。
たとえば、災害等で命を落とした場合をイメージすると、団信であれば、ローン返済者が亡くなったことがわかった時点でローン残債がなくなります。対して、収入保障保険等の一般の生命保険で手当てするプランを選んだご家庭では、頼りになる人を亡くして心身ともにボロボロな中、生命保険金を受け取ってローン残債に充てる手続きを、遺族は自力でする必要があり、負担がとても重いように感じます。
実際には、相続や遺産分割など様々な処理を、タイトなスケジュールのなかでしなければならないので、相続人の間でもめたりすると大変な状況に。そんな事態でも、受取人が無理せず対応可能かどうかの吟味は必須と考えます。
特に、収入保障保険等を検討されるのは20~30代前半の方が多いですから、留意が必要です。残された配偶者の負担が過度に重くならないよう十分に確認した上での判断としていただけたらと思います。
【私のつぶやき】
よく「機構団信の保険料が高い」と耳にしますが、それは、団信がローン残債に比例するため、借入れ当初は特に高く感じることが理由です。その上、年払いですので、ずしりと感じるわけですね。
また、団信の保険料は、返済が進むと保険料負担がどんどん軽くなるしくみですが、一般の生命保険と同様に期間中ずっと変わらないものと誤解している人も少なくありません。
1か月あたりにならして考えると、ローン残債1000万円につき、およそ3000円程度です。そうしたしくみの違いも理解した上で、ご自分に合った選択をしていただければと思います。
プロフィール
竹下さくら (たけした・さくら)
1969年生まれ。CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。「なごみFP事務所」を共同運営。損保・生保の本店業務部門を経て、独立系FPに。ライフプランをベースにしたコンサルティングのかたわら、講演・執筆活動を行う。
(2012年2月23日 読売新聞)