路線バスや鉄道など身近な公共交通機関の精神障害者を対象にした割引導入が進んでいない。身体・知的障害者は原則、運賃の半額が割り引かれるのに対し、九州の路線バス会社の44・1%、鉄道会社の37・5%が精神障害者に同様の割引を導入していない。精神障害者関係団体は「障害の種別で格差があるのはおかしい。身体・知的障害者と同等の割引を適用してほしい」と訴え続けている。
福岡市南区の統合失調症の女性(49)は「精神障害者保健福祉手帳」(2級)を持っている。夫も精神障害があり、生活保護に頼って収入は月約20万円。通院や地域の精神障害者支援センターに通うのに西日本鉄道(福岡市)の電車やバスを利用することもあるが、節約のため、体調が許す限りは歩くという。「身体・知的障害者と同じ割引があれば、もっと積極的に外出できるのに」と嘆く。
精神障害のある人が、福祉サービスを受けるための精神障害者保健福祉手帳は1995年、身体・知的障害者の手帳より20年以上遅れて制度が創設された。さらに、2006年10月まで、精神障害者保健福祉手帳には顔写真が貼付されておらず、本人確認ができないとして、交通機関の割引導入の壁になっていた。このため、精神障害者割引の導入が遅れたという。
国土交通省は12年8月、バス事業者がモデルにする「標準運送約款」に精神障害者への運賃割引を明記し、全国の事業者に通知した。それでも、割引を導入している事業者は全国でバス2120社のうち716社(33・8%)、鉄道では177社のうち66社(37・3%)と、なかなか広がらない。
九州運輸局によると、九州で割引を導入しているのは今年4月1日現在、路線バスで59社中33社、鉄道で16社中10社=表参照。
路線バスでは長崎(14社)、熊本(6社)、宮崎(1社)の3県は全社が導入済み。佐賀県(4社)は3社が導入、鹿児島県(12社)も鹿児島交通(鹿児島市)が4月から割引を始めるなど8社に広がった。これに対し、大分県(9社)はゼロ、福岡県(13社)も1社止まりと、地域間の差が大きい。
北九州市営バスや沖永良部バス企業団(鹿児島県知名町)のように、自治体の施策で実質的な割引を実現している例もあるが、割引導入は各事業者の判断に委ねられているのが現状だ。
バス、鉄道とも割引がない西鉄は「収支状況が厳しい中、割引を拡大するとさらに厳しくなる。行政などの補助金がない限り、難しい」。大分交通(大分市)は「JR九州や西鉄など大手が導入していないので見送っている」という。
一方、今春割引を開始した鹿児島交通は「九州運輸局や当事者団体の要請を受け、導入した。現段階で収益への大きな影響はない」と説明している。
精神障害者の家族でつくる全国精神保健福祉会連合会(東京)が14年11月~15年2月まで、会員の生活実態を調べたところ、精神障害者の月平均収入額は約6万円。通院・通所のため、交通機関を利用する頻度は月10回以下が約半数、交通費は月3千円以下が約4割を占めた。同会は「通院や就労支援施設などへの通所を考えると利用頻度はもっと高くてもいいはずで、利用を控えているのではないか」とみている。
福岡県精神障害者福祉会連合会長の一木猛さん(71)は「通所にバスを使わず、自転車や徒歩で通い、猛暑や厳寒で体調を崩す人もいるし、買い物や映画などの外出を我慢している人も多い。一刻も早く全ての交通機関で割引を実現し、障害間、地域間の差をなくしてほしい」と訴えた。
=2015/06/04付 西日本新聞朝刊=