自閉症など障害のある人に配慮した美容室や歯科医院が増えている。初めて訪れる場所では戸惑い、パニックになりがちな人もいるが、リラックスできるように好きなDVDを流したり、これからやることを事前に説明したりして、落ち着いて髪を切ってもらったり歯の治療を受けたりできるよう工夫している。
◆イラストで手順説明
「つばちゃん、髪の毛を切ろうか」。三月上旬、京都市伏見区の美容室「ピースオブヘアー」。オーナーで美容師の赤松隆滋(りゅうじ)さん(42)が、自閉症の中学三年、羽柴翼さん(14)に笑顔で声を掛けた。
翼さんが店を訪れるのは二カ月に一回ほど。散髪とシャンプーが終わると、「すっきりして気持ち良かった」とほほ笑んだ。
自閉症の人は予期せぬことへの対応が苦手で、急に頭に触れられパニックになることもある。翼さんもじっと座っていられず、美容室の利用を断られたことがあった。母親の香織さん(46)が自宅で散髪していたが、翼さんが小学二年生のころ、学校の教諭の紹介で赤松さんに相談した。
赤松さんは自閉症の人を担当するのは初めてだったというが、専門書を読んだり医療セミナーに参加したりして勉強。翼さんに店に慣れてもらうことから始めて、好きなアニメのDVDを流したり、イラスト付きでカットからシャンプーの流れを先に説明したりと工夫を重ねた。「これからの手順が分かれば、不安を取り除ける」と話す。
一般の人も来店するが、自閉症や脳性まひなど障害のある人を対象に「スマイルカット」と名付けて活動。特別支援学校にも出向く。二〇一四年には、障害がある人へのカットやノウハウなどを伝えるNPO法人「そらいろプロジェクト京都」を設立。全国の美容室二十八店に活動が広がっている。
◆吸引機の音小さく
愛知県春日井市の県心身障害者コロニー中央病院の歯科は、一九七〇年の開設以来、障害のある人を専門に治療している。加藤篤・歯科医長は「当初は手探りで道具や治療方法を変えてきた」と話す。
例えば発達障害の人の場合、治療中に不安を感じ、暴れてけがをする可能性がある。そのため、全身麻酔をかけることもあるが、患者の体への負担は重い。
同病院では原則、全身麻酔は使わず、患者に治療に慣れてもらうことを重視。待合室で歯磨きすることから徐々に病院になじんでもらい、絵で治療の流れを示すカードを繰り返し見せる。治療が終わると、シールや風船をプレゼントして、良いイメージで次回も来てもらうようにしている。
機器や道具も工夫する。音に敏感な人のために唾液の吸引機は音を小さくしたり、抜いた歯などの誤飲を防ぐため口をシートで覆い、穴から処置する歯だけを出して治療したりする。
歯科医師は二人おり、年間延べ五千人を治療。加藤さんは「虫歯は治療が遅れると症状が進んでしまう。その人に合わせて診察し、苦手意識が生まれないように心掛けている」と話す。
羽柴翼さんの髪を切る赤松隆滋さん(左)。お気に入りのDVDを流すなど工夫する 歯科用シートと音がでないよう工夫した吸引機を持つ加藤篤さん
2017年4月7日 中日新聞