社会に存在するさまざまな課題。それらを企業の力で解決していこうという動きが強まっている。この課題解決を本業でしかも利益を上げながら行えるのがベストだが、多くの企業は各社の理念に基づき、「必ずしも利益を最優先としない」社会貢献的な活動にも幅広く取り組んでいる。
東洋経済では毎年『CSR企業総覧』(今年から『CSR企業総覧(ESG編)』)に掲載する各社の社会貢献活動支出額と支出比率のランキングを作成している。今回もランキングをベースに各社の社会貢献の取り組みについてご紹介していく。
まず、2015年度の社会貢献支出額のランキングから見ていこう。トップは4年連続でトヨタ自動車(253億円)。2013年度224億円、2014年度216億円と2位以下を大きく引き離す。
同社は「社会・地球の持続可能な発展への貢献」を基本方針として本業での貢献だけでなくさまざまな社会貢献活動に取り組んでいる。
音楽を通じた地域文化振興を目的に、地域のアマチュアオーケストラとともに全国で開催する「トヨタコミュニティコンサート」。モノづくりの大切さや科学の楽しさを子どもたちに伝える科学工作教室「科学のびっくり箱!なぜなにレクチャー」。1975年から続く地元の園児を招いての幼児交通安全教室「トヨタセーフティーキャンペーン」など幅広い世代を対象にした活動を行っている。
環境面の活動も多い。「トヨタ白川郷自然學校」「トヨタの森」の運営や、多数のプロジェクト実施で希少種保護、環境保全などに取り組む。公募制の「トヨタ環境活動助成プログラム」ではNGOプロジェクトを支援。幅広い協力者と多くの課題解決を進めている。
東日本大震災の復興支援活動も継続。東北ではトヨタ自動車東日本でのコンパクトカーの製造、トヨタ東日本学園での人材育成、スマートグリッド技術を活用した農商工連携事業など本業を絡めた貢献にも積極的だ。
2位JTは自社開発米の権利を陸前高田市へ寄贈
2位はJTの89億円。市民参加型の清掃活動「ひろえば街が好きになる運動」を自治体・企業・学校・ボランティアなどさまざまな団体と協働。チャリティ古本市の売上金をみなと障がい者福祉事業団へ寄付し、障害者自立促進を支援する。経済的理由で大学進学が難しい優秀な学生に学費給付などで援助もしている。
地元行政・森林組合・地域住民等と連携して行う森林保全活動「JTの森」や国内のプロオーケストラが主催する公演への助成や楽団員の海外研修や自主公演の支援など地域・教育・文化まで幅広い分野で取り組んでいる。
海外では児童労働の防止と撲滅を目指す「ARISEプログラム」をマラウイ、ザンビア、タンザニア、ブラジルで実施。2015年1年間で児童労働から解放もしくは免れた子どもは9437人にのぼる。他に葉たばこ農家コミュニティの生活環境・暮らしの改善支援、フードバンク活動や高齢者・障害者への支援活動も行う。
東日本大震災の被災地には基幹産業である農業復興への貢献を目的に、自社で開発したコメの品種を権利とともに陸前高田市へ寄贈。同市の地域ブランド米「たかたのゆめ」の育成で、産地銘柄品種登録の支援、原種栽培と管理、農家への栽培に関する助言もしている。

3位は日本電信電話(NTT)の66億円。今回からグループ会社を含めた連結ベースの開示となっている。
NTTグループ各社で、全国各地の事業所等の近隣地域の環境美化・環境保護を目的に地域清掃活動「環境クリーン作戦」を実施。海外研修生の受け入れや南アフリカ共和国で「土曜学校」と呼ばれる学生の学力向上支援プロジェクトなど海外との積極的な交流も進める。
4位サントリーは水問題の解決に積極果敢
4位はサントリーホールディングスの56億円。CSR活動の重要テーマに掲げる「水のサステナビリティ」を基本に水問題の解決に積極的に取り組んでいる。「サントリー天然水の森」活動では全国13都府県18カ所で自然環境の保全・再生を行う。さらに水の大切さを伝える次世代環境教育プログラム「水育(みずいく)」を「森と水の学校」「出張授業」を柱に展開する。
サントリー文化財団による出版助成、学芸賞の主催など、「利益三分主義」に基づく生活文化の豊かな発展と次世代育成への貢献も行う。
東日本大震災の復興支援として2011年43億円、2012年20億円、2013年25億円、2014年20億円の義援金を拠出。「漁業の復興支援」「未来を担う子どもたちの支援」「文化・スポーツを通じた支援」「チャレンジド・スポーツ支援」を中心に活動する。
ベトナムでの「水育」実施や北米でのビームサントリー工場周辺での自然保護活動などグローバルでの活動も幅広く行っている。
以下、5位日本生命保険55億円、6位NTTドコモ49億円、7位キヤノン41億円、8位三井不動産40億円、9位三菱商事38億円、10位イオン37億円と日本を代表する大手企業が並ぶ。
10億円以上の支出は53位明治安田生命保険(10億円)まで。100位のANAホールディングスでも5.2億円と多くの企業が多額の金額を社会貢献に使っている。
続いて経常利益に対する社会貢献支出額が占める比率(「社会貢献支出比率」)を見ていこう。
バラツキをならすため経常利益と社会貢献支出額はそれぞれ3年平均で計算。さらに利益が低く比率が高くなる企業を除外するため、売上高経常利益率1%以上、ROEプラスを条件とした。
トップは昨年に続き無添加化粧品のファンケル(15.05%)。3年平均の経常利益33.2億円に対して5億円を支出する。
地元横浜で社会福祉法人「訪問の家」とチャリティイベントや懇親会を開き、すでに27年間交流している。さらに水問題啓発プロジェクトを横浜市水道局や学校と連携して実施。地域NPOと協働し、夜間パトロールや清掃活動を行うなど地域に密着した活動を続けている。
2010年からは子ども向けの野球教室「ファンケルキッズベースボール」を開催。そこで集めた中古道具を世界の子どもたちへ寄付している。2015年度は国内2カ所で1837点の用具を集めタンザニア・ブラジルなど8カ国へ寄贈した。
他にフェアトレード商品を販売し、年間売上高の5%を生産国の子どもを支援している団体へ寄付。東日本大震災の被災地では、「美と健康のSave the東北プロジェクト」を従業員が社会貢献休暇制度等を使い実施。2011年5月から2016年3月までに合計169回実施し、従業員887人が参加した。熊本地震、台湾地震などの被災地支援にも積極的に取り組んでいる。
2位エステー、3位エーザイなどが続く
2位は衣類防虫剤トップのエステー(8.1%)。経常利益16億円に対して1.3億円を支出する。経済産業省・文部科学省の合同プロジェクト「理科実験プロジェクト」に参画。理科カリキュラム作成やパイロット授業実施などで協力する。タイの日本人学校建設に関する寄付など海外でも貢献している。
3位は医薬品メーカーのエーザイ(5.9%)で経常利益470億円に対して27.7億円を支出。熱帯病のひとつリンパ系フィラリア症治療薬ジエチルカルバマジン22億錠を自社のインド工場で生産し、2013年から世界保健機関(WHO)に無償提供する。中国農村部での無料診察活動を党組織とともに支援するなど、事業活動を中心に活動している。
日本初の医薬の総合的な博物館である「内藤記念くすり博物館」を無料公開。クラシック交響楽団、芸術音楽、舞台芸術の支援なども行う。
以下、4位リヒトラブ(5.81%)、5位ツムラ(5.65%)、6位武田薬品工業(5.33%)、7位カゴメ(5.25%)、8位ライオン(4.90%)、9位アキレス(4.47%)、10位協和発酵キリン(4.41%)と続く。
このように利益の一定額を社会貢献に使うというのはわかりやすい目標だ。日本経済団体連合会(経団連)が1990年に設立した「1%(ワンパーセント)クラブ」では「経常利益(法人)や可処分所得(個人)の1%以上を目安に社会貢献活動に支出しよう」と呼びかける。
<iframe id="google_ads_iframe_/53549613/TK/ArticlePC/Pc_inRead_0" style="vertical-align: bottom; border-image: none; border-width: 0px;" title="3rd party ad content" name="google_ads_iframe_/53549613/TK/ArticlePC/Pc_inRead_0" frameborder="0" marginwidth="0" marginheight="0" scrolling="no" width="1" height="1"></iframe>
ちなみに今回のランキングでは84位の大和ハウス工業(1.03%)までが1.0%以上だった。
さて、3年間のデータが取れる652社の社会貢献支出額の合計は、2013年度2078億円、2014年度2091億円、2015年度2220億円と支出額は増加傾向にある。
特にその他社会貢献への支出が2013年度698億円、2014年度717億円、2015年度800億円と拡大している。外部の団体への寄付ではなく自ら活動を行う形が増えているようだ。
東日本大震災の復興支援は半数が行っていない
最後に東日本大震災の被災地復興支援についてまとめておく。小社の調査(有効回答941社)では2016年6月末時点の復興支援の状況は「行っている」51.9%(488社)、「行っていない」46.2%(435社)だった。
1年前の同じ調査(有効回答858社)では2015年6月末時点の復興支援の状況は「行っている」53.6%(460社)、「行っていない」43.9%(377社)と微減だった。2011年夏時点で、有効回答771社中94.7%(730社)が何らかの支援活動を行っていたことに比べると徐々に減少しているが、継続的な支援は続いている。
新しく質問に加えた「東日本大震災以外の復興支援」の集計もご紹介する。有効回答467社で2016年6月末時点の復興支援の状況は「行っている」55.5%(259社)、「行っていない」39.4%(184社)だった。昨年4月に発生した熊本地震などの復興支援にも積極的に取り組んでいることがわかる。
企業の社会貢献活動は復興支援以外にも地域のイベントや文化事業の開催・後援、海外の貧困削減など数多くのテーマがある。国連は2015年9月に貧困など世界の課題を2030年までに解決するための目標、SDGs(持続可能な開発目標)を採択した。
この中には「貧困をなくす」「質の高い教育の提供」「ジェンダー平等の実現」「誰もが使えるクリーンエネルギーの実現」「持続可能な消費と生産の確保」といった17の目標とそれぞれに設定された合計169のターゲットがあり企業の積極的な関与が期待されている。
このようにグローバルな課題解決を企業に担ってもらおうという動きが強まっている。これらの中にはビジネスとして行えるものばかりでなく「社会貢献」とされる分野も多い。本業で行える活動とそれ以外のものをいかにバランスよく組み合わせて取り組んでいくか。各社の知恵が求められている。
2017年04月14日 東洋経済オンライン