戦後補償から漏れた民間の空襲被害者らの救済を目指している超党派の議員連盟(会長・河村建夫元官房長官)は27日、国会内で総会を開き、身体障害者となった人などに一時金50万円を支給することを柱とした法案の骨子素案を決めた。今国会での議員立法を目指している。成立すれば戦後補償史の画期となる。
「空襲等民間戦災障害者に対する特別給付金の支給等に関する法律」(仮称)案で、対象は太平洋戦争開戦の1941年12月8日から沖縄戦終結の45年9月7日までに、現在の日本領土で空襲や艦砲射撃などで負傷し、施行時点で身体障害者福祉法に基づく障害者ら。国籍条項は設けない。被爆者援護法などですでに給付を受けている人は除く。
空襲被害者からは「額が低すぎる」という強い反発もあるが、70年以上前のけがについて被害を正確に認定することは難しいことなどから抑制された。対象は5000~1万人と推計。必要額は最大50億円となる。
戦災孤児や精神障害を負った人など、対象から漏れる人たちが多い。このため対象者拡大をにらみ、国に「空襲等による被害に関する実態調査」を課す。
今後は各党内で素案を協議する。障害者団体の意見も聞く。議連事務局長の柿沢未途衆院議員(民進)は「さまざまな議論があるが、50億円は小さな額ではない。実現させる意味がある」などと話した。
45年3月25日の名古屋大空襲で左目を失うなど大けがをし、70年代から補償運動をリードしてきた杉山千佐子さんが昨年9月、101歳で亡くなるなど、当事者の高齢化が進んでいることを受け、議連は法案作成のピッチを上げてきた。
政府は戦後、元軍人・軍属らに累計で約60兆円の補償、援護をしてきたが民間人の空襲被害者は対象となっていない。このため70~80年代に当時の社会党などの野党によって「戦時災害援護法案」が14回、国会に提出されたがすべて廃案になっている。【栗原俊雄】
法案の骨子
(1)対象者は生存する障害者とケロイドなど「外貌に著しい醜状(しゅうじょう)」が残る人。国籍条項はなし
(2)一時金50万円を支給
(3)対象期間は1941年12月8日~45年9月7日
(4)戦災孤児や精神的被害を負った人などの被害の実態調査を国に義務づける
(5)死亡者を追悼する施設の設置などを行う
(6)補償ではなく「慰藉(いしゃ)」の位置づけ
(7)請求期間は施行日から3年以内
(8)早急に支給するため、公布日に施行
毎日新聞 2017年4月27日