グループホームで安心を 他職種連携など先進例を紹介 福岡市で研修会
重い障害があり、医療的なケア(医ケア)が必要な子どもを自宅で介護している親たちにとって、わが子の将来の暮らしの場をどう確保するかが一番の悩みだろう。こうした障害者が家庭に近い環境で共同生活を送るグループホーム(GH)のあり方を考える研修会(福岡チャレンジドネットワーク、福岡市障がい者生活支援事業所連絡会主催)がこのほど、福岡市であった。横浜市で重度者向けのGHを運営するNPO法人「重度身体障害者と共に歩む会」の理事長で、現役の看護師でもある北村叔子さん(86)が、その先進的な取り組みを紹介。さまざまな制度を活用し、他職種との連携も強め、暮らしの選択肢を増やす努力を重ねよう-との認識で一致した。
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「24時間365日休みなし。重い障害のある人が、自宅と同じように地域で安心できる暮らしを継続できる形を模索しています」。看護歴65年の北村さんの話に、福祉事業所関係者ら約120人が耳を傾けた。
障害者総合支援法に基づくGHは、障害者の地域生活を支える福祉サービスのひとつ。医ケアにも対応する重度者向けのGHは十分ではない。北村さんは、自身の息子が15歳のときに頸椎(けいつい)損傷で人工呼吸器を着け、寝たきりとなったことなどを機に、同じような立場の親たちの仲間を募り、2004年に歩む会を設立。横浜市の福祉施策も活用し、GHを09年に開設した。
平屋建てで計9室あり、入居者は現在9人。いずれもたんの吸引や人工呼吸器管理などの医ケアも含め全介助が必要だが、同じ法人が運営する訪問看護ステーションと居宅介護事業所から訪問看護師やヘルパーを派遣する形で午前6時~午後10時は9人、夜間は3人態勢で対応している。
ユニークなのは、訪問看護の利用は原則、1回90分などに限られることから、訪問看護師14人のうち7人がヘルパーも兼務。1人が長時間、ケアに携わることができるため、ベッドで寝ている利用者が「30分以上、放っておかれることはない」と北村さん。おむつ替えや体位変換は1日24時間のうち6~7回、まんべんなく行う。入居者は午前中に入浴を済ませ、屋根続きの交流室でそれぞれ日中活動しながら過ごす。地域の人を招くイベントも月1回企画し「寝ている人も介助する人も忙しい」毎日だ。
入居費は横浜市の家賃補助もあり、光熱水費なども含め月9万5千円。公費負担分の介護料などの収入に加え業務の合理化も図り、運営は黒字という。ヘルパーや看護師などマンパワー不足が指摘されるなか、北村さんは「一人一人のケアは、それぞれの体の状態や排せつ量、必要な水分補給量などをもとに、看護師やヘルパーなどが綿密に計画を立てた上で行っている」と話し、チームとしての対応が重要だと強調した。
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研修会では、認定NPO法人「障がい者より良い暮らしネット」(福岡市)代表の服部美江子さん(65)も登壇した。今年4~5月、同ネットのホームページなどを通じてアンケートした結果、同市内で身体障害者手帳1級を所持している在宅者(回答98人)の親は過半数が50~70代で、主に30~50代の子どもを介護している-ことなどを紹介。「日々子どもの世話で精神的に参っているのに加え、老親介護も一緒にやっている方さえいる」と在宅暮らしの“限界”を訴えた。
同ネットなどの調べ(6月)では、GHは横浜市に685カ所あるのに対し福岡市は116カ所。障害の程度が重い人(区分5、6)の利用率は横浜市が34・2%、福岡市は5・1%にとどまる。横浜市は設置や運営にかかる補助金も充実。服部さんは「今は『親亡き後』の暮らしの選択肢がほぼない状態。ひとくくりに障害といわれるが一人一人それぞれであり、従来の発想や制度にとらわれず、GHや入所施設、シェアハウスなど多様な住まい方を選べる地域になってほしい」と願いを語った。
主催者の福岡チャレンジドネットワーク理事長の溝口伸之さん(44)は自ら経営する株式会社で、医ケアにも対応する生活介護・短期入所施設などを運営している。「歩む会のGHのように外部事業所の介護サービスを利用する形で、公費負担分の介護料の支給も十分認められれば重度者の支援も可能ではないか」と指摘。「行政任せでなく、事業所自身もできることを手掛けていきたい」と締めくくった。
研修会で講演した北村さん=10月25日、福岡市
=2018/11/01付 西日本新聞朝刊=