相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で2016年7月、入所者19人が殺害された事件で息子(当時41)が犠牲となった遺族が共同通信に手記を寄せ、「会いたいという思いは強くなるばかりです」と心境を記した。26日で発生から2年4カ月。「障害者にもっと目を向けて」と訴えている。
生まれた時、ダウン症と診断された息子。「授かった大事な命」と夫婦で良い薬や医者を探し、通院のため相模原市に転居した。近所の人に見守られながら、幼稚園から養護学校の高等部まで通った。「支えていただいて生活でき、心強く思ったものです」と感謝する。息子は事件の2日前、5日間の予定でやまゆり園に短期入所した。
動物やダンス、アニメが好き。大切にしていた「ドラゴンボール」のDVDやよく着ていた服は息子の思いが詰まっているようで、持ち物の整理をやめた。「今でもみんなでいるときはいいのですが、1人で写真の前に立つといたたまれない気持ちになります」
当初は手記を公表するつもりはなかった。「亡くなったということを否定したいのに、周りから何か言われれば、亡くなったということを押し付けられているみたいで、余計落ち込んでしまう」からだ。そっとしておいてほしいとの思いは今も変わらない。
しかし植松聖被告(28)の差別的主張に賛同する人がいると聞き、「障害者がつらい立場に置かれる」とショックを受けた。「ここで声を上げなければ後悔すると思いました。声を上げないと息子に申し訳ない、とも思いました」。迷いを振り切り公表を決めた。「今回の件をきっかけに、障害者についてもっと議論してほしい」と願う。
一日も早く裁判が始まってほしい。それは「どうして事件を起こしたのか、なぜ息子が死ななければならなかったのか」を知りたいから。そして、植松被告に聞きたい。「もしあなたの家族、親、兄弟、子どもが障害者となったら、同じような行動が取れるのか? 自身を含めて、いつ障害者の立場になるか分からないのに」
相模原障害者施設殺傷事件で、息子が犠牲となった遺族が心境を記した手記
2018/11/26 日本経済新聞