重度の肢体不自由がある障害者たちが一緒に暮らす珍しい形の共同住宅が兵庫県姫路市にある。居住者一人一人が住宅に住民票を置き、訪問介護を受けながら自立した生活を目指す「くまさんの家」(同市上手野)。来年5月には2カ所目もオープン予定で、施設入所か自宅介護しか選べなかった重度障害者にとって、新たな選択肢となっている。
午後5時半、車いすに乗った居住者が、次々と自室からリビングスペースに現れる。おおむね時間帯は決まっているが、先に入浴するか、食事をするかは利用者の自由。障害区分5~6の重度障害者12人に対し、夕食や入浴、トイレなどが集中する夕方には、介護福祉士や「介護職員初任者研修」を修了した10人ほどの職員が支援に当たる。食事や入浴の時間以外も、複数の介護職が交代で常駐する。
建物は登記上、1人暮らしの重度障害者が集団生活する寄宿舎。入居者それぞれが訪問サービスを受ける形だが、集団で利用することで切れ目ない目配りが可能という。日中はデイサービス、夜間は自室やリビングスペースで自由に過ごし、いつでも家族が訪れて宿泊や食事を共にできる。
2015年6月にくまさん-をオープンさせ、株式会社として運営する古谷圭さん(39)には、脳性まひのある弟(34)がいる。弟が入所施設で1週間のショートステイを利用した後、帰ってくると背中に床ずれができ、拘束具をつけられていたことも分かった。「弟にもっと人間らしい生活をさせたい」という願いが、この仕組みをつくった原点だ。
開設当初から入居する女性(42)=兵庫県太子町出身=も脳性まひで手足が自由に動かせない。両親の負担を減らすため一時は入所施設を利用したが、夜間は利用者50人に職員2人のみで、トイレはおむつでするよう言われた。「『自由に生きたい』という思いが強く、共同住宅の利用を決めた」と明かす。
くまさん-では夜中も4人の職員が常駐し、空調の切り替えや探し物など身の回りの細かい要望に応える。古谷さんは「健常者であれば受けないだろう苦痛をできるだけ減らしたい」と力を込める。
【障害者福祉制度に詳しい関西福祉大学の谷口泰司教授の話】障害者の入所施設は人材不足もあって、夜間は手薄になりがちで、入浴も週2~3回という所がまだまだある。介護の質や中身が問われる中、事業所指定をとらず、「1人暮らしの集合体」に訪問介護を組み込んでいると考えられる「くまさんの家」は、制度をうまく活用している事例といえる。
47NEWS 10/09