重い障害のある人の自宅に公費でヘルパーを派遣する「重度訪問介護(重訪)」は、地域で自立した生活を送る障害者を支えるが、報酬単価が低いために提供する事業所が限られ、十分なサービスを受けられないケースも多い。大学で学ぶ利用者の通学などを公費で支援する制度も始まったが、事業所不足で、通学を含めた介助が家族頼みの人もいる。
「利用する権利があるのに、なぜ使えないのか」
九月中旬の夜、名古屋市中区の日本福祉大大学院で開かれたゼミ。ゼミ生で、全身に重い障害のある中山圭子さん(64)=同市緑区=が自らの体験を基に、重訪を使えない現状を訴えた。
中山さんは十二年前から、全身の筋肉に強い痛みが出る原因不明の病気「線維筋痛症」などを患う。体を動かしたり、歩いたりすることが難しくなり、六年ほど前に身体障害者一級の認定を受けた。
重訪は障害者総合支援法に基づき、障害者が利用できるサービスの一つ。常時介護が必要な障害者を対象に、自宅に派遣されたヘルパーが食事や排せつ、入浴など生活全般を介助する。
各市町村が利用者の状況などを調べて介護を支給する時間を決定。中山さんは一日約五時間使える。だが、実際はこの一年半、全くサービスを利用できていない。介護はもっぱら、夫の貞夫さん(65)が担う。
貞夫さんが仕事で不在になる日中、中山さんはベッドの上で一人きり。障害者福祉の研究をするために今春から同大学院に通うが、週三回の夜間のゼミや講義には仕事を終えた貞夫さんが車で一時間ほどかけて送迎。講義にも同席し、トイレや薬の服用を介助する。
重訪の対象者らは、昨年から市町村の事業で通学などにヘルパーを利用できるようになった。中山さんも利用できる可能性がある。
だが、そもそも重訪に対応してもらえる事業所が見つからない。これまで二つの事業所に依頼したが、家事の仕方や利用時間で条件が合わず、断られた。中山さんは病気の関係で物音などに敏感だ。そのため、ヘルパーに配慮が求められることも多く、事業所と折り合いが付きにくいという。
厚生労働省によると、重訪の利用者はここ数年一万一千人ほど。国は、障害者の暮らしの場を施設から地域へ移す施策を進めており、重訪はよりどころだ。
だが、中山さんのように対象者になっても使えない人は少なくない。京都府立大の中根成寿(なるひさ)准教授(42)=障害学=が、二〇一三年二月時点で利用者が二百人以上いる八都道府県の百三十四市区を対象に支給決定したサービス時間と実際の利用時間を調べたところ、消化率は平均約七割だった。
利用が進まない理由の一つが事業所不足だ。厚労省が一八年度、在宅の障害者向けの事業所千八十三カ所に実施した調査では、ほぼすべてが居宅介護を提供するのに対し、重訪もできる事業所は約七割。重訪専門はわずか0・4%だった。
参入が進まない大きな要因が報酬単価の低さ。重訪は長時間のサービスに対して報酬が支払われるため一時間あたりの単価は低く、通常の居宅介護の半分の約二千円にとどまる。
中根准教授によると、地方では重訪の事業所がない地域もあり、サービス提供のめどが立たず、支給自体を認めない自治体もあるという。「住み慣れた場所で自立した暮らしを望む障害者が取り残されない対策が必要」と指摘する。
2019年10月16日 中日新聞
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