横須賀うわまち病院心臓血管外科

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SAM = Systolic Anterior Motion

2019-09-28 03:01:19 | 心臓病の治療


Systolic anterior motion of mitral valveの略。

SAM(サム)は、心臓領域では、ダンサーの名前ではなく、僧帽弁の収縮期前方運動のことを指し、自然の状態で発生するものの代表として閉塞性肥大型心筋症で見られる現象です。これは心エコーのM-Modeで僧帽弁の動きをトレースしているときに収縮期に大きく僧帽弁の前尖と後尖の接合点を含む弁全体が心室中隔側にせり出し、左室流出路に狭窄を作る現象です。これによって、左室流出路狭窄によるLow Output Syndromeから全身の循環障害を呈すると同時に、機能的な僧帽弁逆流を生じます。

SAMを引き起こす最も典型的な病態は、閉塞性肥大型心筋症です。もともと心肥大によって左室流出路狭窄を生じている症例では安静時にもみられることがあります。機能的に発生するSAMとして、心肥大があり、それに加えてドブタミンなどのカテコラミンを加えて過収縮の状態で発生することがあります。機能的に発生するSAMとしては、心肥大、S字状中隔、ASH(Asymmetrical septal hepertrophy)に加えて、僧帽弁形成術後に発生する場合があります。

僧帽弁形成術では通常、人工弁輪を縫着して、後尖の縫縮を行うことで、僧帽弁後尖の弁輪が前尖側に近づかせます。これによって前尖と後尖の接合面が大きくなり、より逆流が起きにくくなるメリットがある一方、SAMが起きやすい状況が発生します。僧帽弁形成術後のSAMが発生しやすいのは、心肥大症例、小さい僧帽弁輪症例、左室収縮力の良好な症例などで、これにカテコラミン投与、脱水などが加わるとより発生しやすくなります。これによって、僧帽弁形成したのに、機能的な僧帽弁逆流が起きてしまう、循環障害が起きてしまう状態です。特に周術期は手術侵襲によって内因性のカテコラミンが高い状態になり、よりSAMを発生しやすい素地があります。

僧帽弁形成術後にSAMが発生した時の対処としては、カテコラミン使用の中止、ボリューム負荷で軽快するかみることで、これで軽快しない場合は僧帽弁置換へのConversionを考慮する必要があります。僧帽弁置換術は、僧帽弁後尖は中隔から離れる位置で固定され、これに伴い、前尖と後尖の接合ポイントも後尖側に移動することになり結果的にSAMは発生しなくなります。HOCMにおいて、著しいSAMでMedicalに制御不能な場合は僧帽弁置換術と左室流出路心筋切除を行います。
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