犬を形どった壁 那須高原
1798 お互いポックリ死にたいものだ
85歳の脳梗塞後遺症の爺様
軽くすみ、歩行器で室内外を歩いている
妻は83歳、物忘れが始まった、というけれど
「何を忘れたか 数分後に思い出す。まだ呆けてはいない」、と笑いながら話す婆様
病気する前は酒飲んべで、その上煙草も吸ってた
脳梗塞になってからは 酒煙草はやめた
昔は見合い結婚ならまだしも
親の知り合いの口利きで
いまの爺様と一緒になった
爺様と結婚して「当たり」「外れ」、どっちか、と尋ねると
婆様は躊躇することなく「外れた~」と答える
傍に居た爺様は「俺は当たりだった」
婆様は こんな山奥
狸か猪しか棲まないところに
嫁ぎたくなかった
親が決めた結婚だから
反対もできない、親の考えに従うしかなった
携帯電話のアンテナが立たず 黒電話しか通じない
陽があたらない山里に棲む
爺様 婆様 今年で結婚60年を迎えた
「おめでとう」、と祝福する
婆様 煮魚の骨を1本1本 箸でとり除き
骨抜きの魚を爺様にあげている
「魚だけでなく爺様も骨抜きだ」、と婆様は笑う
お互いポックリ死にたいものだ
婆様は爺様に話しかける