境内からパチパチと火がはぜる好い音がして白い煙が流れてきた。
神社委員さんが集まってお正月に向けて境内の掃除が始まる。
かじかんだ手を温め、暖をとる手段として、寒い季節の外仕事に焚き火は欠かせない。
焚き火といっても、濡木や生木を燃やすことは案外難しい、小さなマッチの火種を育てて生木に火を移す迄には、それなりの技術とある程度の忍耐が必要だ。
煙があがると人々が集まり、火を囲んで輪ができる。
風向きで、えぐい煙に燻された人は目をこすりながら「煙たいところと、憎まれている土地は住みにくい」とアドリブを飛ばして喝采をうけた。
最初は火に両手をかざして顔やお腹に充分暖気を蓄え、くるりと裏返って、尻と背中を温める。
ぶくぶく厚着は体を鈍感にする、焚き火の熱が、上着の後ろを必要以上に熱くして、いつも焦げ跡がついていた。
しかし 時には都合よく助燃材料(白樺の表皮、杉の枯葉、松落葉)が調達できなくて、燃え上がるまでに長い時間が掛ることもある。
悪戦苦闘して、ようやく赤い炎が立ちあがる頃、無情にも「さあ作業を始めよう」と責任者の号令がかかる。
それぞれが持ち場に散った後に、焚き火だけが、いよいよ勢いを増す。
これを「土方の立火」というらしい。