バレンタイン

仕事を定時に切り上げた私はそそくさと地元に戻った。夕食をすませると少し時間があったので、いつものスロット屋の階段を下りた。
折りしも土砂降りの雨である。
「ふつう冬って、こういう雨の降り方しないよなぁ・・」
と、呟いた友人のほほを1時間後に濡らしていたのは、その季節外れの雨だったかどうかは定かでない。
地下のスロット屋には川に流されたごみが何かに引っかかったように別の友人の顔があった。
「これから○○ちゃんのところに行ってくる」
最近、元気な彼には、
「不二家の賞味期限切れのチョコが似合っているな」
と、ふと思いたちおかしくなったが口には出さないでおいた。
さて、人のことはさておき、かく言う私にはさしあたり行くところがない。それでもふらふらと一番近所の店に入り、なんだか気が乗らないままに時間を過ごた。
そんなふうに私のバレンタインデーも過ぎていった。
日付が変わったころ電話がしつこくなっていたが、布団をかぶり耳を塞いで眠った。