かみつけ岩坊の数寄、隙き、大好き

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 「Hoshino Parsons Project」のブログ

『ダム撤去』

2009年09月18日 | 気になる本
(まずは)売れなかった本のはなしです。

2004年に発売された本で
青山己織訳『ダム撤去』 岩波書店 2,800円+税
という本を長い間店においていたのですが、なかなか売れなかったので、
今年8月の棚卸のときに、必要な本でもあったので自分用で買ってしまいました。

民主党への政権交代が実現したことで、にわかに八ツ場ダムの中止論議が活発になってきました。

ある日、役人が突然訪れ、「この村はドボンですな」と告げられてから
すでに半世紀以上にわたって推進、反対の議論がたたかわされてきた問題です。

多くの地元住民は闘い疲れ、なんでもよいから早く平穏な暮らしがしたいと望んでいます。

経済効果、災害予測など、自分に都合の良い資料が飛び交い続けてきたなかで、
今、ようやくその実態があぶり出されようとしているかに見えますが、
マスコミの報道などを見る限り、まだまだ遠い道のりであることが想像されます。

そんな今こそ、この本を店頭においておくべきでした。
まだお取り寄せは可能な商品です。


日本よりもダム先進国であるアメリカは、寿命をむかえたダムや環境への影響があるダムなど
この本が刊行された時点で500を超えるダムが膨大なコストをかけて撤去されています。

それは、ダムが悪であるといった単純な議論から進められていることではありません。

開発にともなう環境への被害だけでなく、撤去にともなう被害も少なくないからです。
さらなるコスト負担も発生します。

大事なのは、ひとつの結論に至るプロセスの問題です。

八ツ場ダムのように突然「ドボンですな」と告げられてから、
成すすべもなく進められていってしまう計画にたいして私たちは、
今回のような政権交代でもおこらない限り、とても太刀打ちのできない現実と長らく思っていました。

もちろん、ダム本体工事の中止が実現したとしても、一度、破壊された住民の生活再建は、
代替地への移転では解決しない難しい問題をたくさん残しています。

これらの問題解決のプロセスのあり方に、このアメリカの『ダム撤去』の論述は大きな示唆を与えてくれているのです。

本書がめざすのは「ダム撤去あるいはダムの存続のいずれかをて提唱しているわけではなく、あくまでも客観的な視点から入手可能な限りの科学的な情報を提供することである。なぜなら、最高の意思決定はまずできる限り知ることから生まれるとの信念に基づいているからである」と序文で述べられています。

正しい論拠、間違いの論拠をそれぞれが出し合う争いではなく、
難しい問題の合意形成をどのようにはかっていくのか
民主主義のレベル、報道のレベル、住民自治のレベルそれぞれで、
これから私たちが身につけていかなければならない大きな課題です。

********************

             ここまでは「正林堂店長の雑記帖」より転載


ひるがえってこの間の政権交代確定以後の八ツ場ダムに関する報道をみると、
情報不足によりものなのか、意図的なものなのかわかりませんが、やたらとマスコミのミスリードと思われる報道が目立ちます。

八ツ場ダム問題に限らず、地元の方への取材や有識者へのインタビューなども含めたマスコミの報道は、かなりの取材時間をかけていながらも、当人の意図とはかけ離れた断片のみが報道されてしまうことが少なくありません。

とくに政権交代という歴史的な舞台の上で語られる八ツ場ダム問題は、政争の具にされ、地元不在の議論に陥っている、といった趣旨がたびたび取りざたされています。

「ダム中止」が地元無視の独断方針であるかのような論調が、各方面から談話としてこのところの紙面をかざっています。


これらをうけて長年八ツ場ダム問題と取り組んできた「八ツ場あしたの会」事務局の渡辺さんは、以下のように語っています。


> 総選挙で八ッ場ダム(に含まれる生活再建事業)が政争の具にされ、
> 地元不在の議論が展開されている、という趣旨がたびたび取り上げられていますが、
> 八ッ場ダム計画の57年の歴史の中で、今まで「地元不在」でなかったことが
> あったでしょうか。
> 地元が反対闘争をしていた1960~70年代もダム計画は進んでいました。
> 地元がダムを受け入れた後、ダムの関連工事は進んでも、
> 生活再建の基盤となるはずの代替地移転は進みませんでした。
>
> 4年前、2005年9月11日に行われた前回総選挙の直前、
> 9月7日に代替地分譲基準の調印式が八ッ場で行われました。
> 代替地の地価があまりに高額なため、何度も住民組織が値下げ交渉を
> しましたが、国のゼロ回答が続いた挙句の、住民と国、県との最後の調印式でした。
> 総選挙の結果、地元が更に犠牲を強いられることは目に見えていましたが、
> 調印式を取り上げたテレビ報道は、何のコメントも流しませんでした。
>
> 当時、代替地への移転は、1期~3期を平成17年から19年までに完了することを
> 明示した文書を国は地元民に配布していました。分譲地価が異常に高額なことに
> 加え、代替地の造成は大幅に遅れました。
> 大規模な工事現場を見て、ここで生活できるのかと不安を覚え、見切りをつけた住民が
>
> この4年の間に大量に流出しました。
>
> ダム計画の長年の経緯から政治不信に陥っている住民の多くが
> 野党がめざす生活再建を信じられないのは当然のことですが、
> 与党=国交省が進めてきたダムによる生活再建が問題なかったとする
> 与党の認識は、あまりに現実と乖離しています。
> 地元では、現状に批判的な声が表に出ることはなかなかありませんので、
> マスコミがとりあげにくいのはわかります。
>
> 4年前の8月16日、川原畑の百八灯の暗闇の中で、地元紙の記者が
> 住民に、「代替地での生活再建の展望について、お話を聞かせてください」
> と話しかけていました。その翌日、地元紙の一面中央に、「民主党のマニフェストに
> 八ッ場ダム中止」のタイトルが載りました。その朝、たまたま会った水没予定地の
> 方々から、「民主党に勝ってもらいたい」と声をかけられ、面食らいました。
> 一度も会ったことのない、地区の役職にない方たちで、私をただの観光客と見て、
> 声をかけられたのです。その中から、この4年の間に、転出された方もいます。
>
> 郵政選挙後のこの四年間も含め、八ッ場で住民不在、人権無視の政策が
> 半世紀以上も続けられてきたことが明るみに出る日が来るのは
> いつのことでしょうか?

注 この文章は8月25日のもののため「与党」は自民党のこと

問題の大きさ、深刻さから考えたならば、これまで半世紀のダム事業で破壊されつくした地元の人々の生活再建は、ダム本体工事の中止が実現しても、工事が続行されることになったとしても、どちらにしても大変な困難をともなうものです。

ただですら日本全国の山村の生活基盤づくりは、どこでも難しい時代なのですから、なおさらです。

先に紹介した本の主旨にもどれば、情報を正しく出しつくしたうえでの議論と、それをわかりやすくまわりに伝える地道なプロセスが、今、なによりも求められています。

そうした活動を長く行ってきた「八ツ場あしたの会」の渡辺さんの言葉は、専門の研究者以上に、わかりやすく事実をわたしたちに伝えてくれます。
それは、じつは「八ツ場あしたの会」のホームページ以上に、わかりやすい言葉で事態の本質を語ってくれているのですが、様々な関係者への配慮などからネット上への公表には制約があります。
 ここでの紹介は、上記の文のみにさせていただきました。

まずは、「あしたの会」のホームページの以下のページを是非、ご参照ください。

八ツ場ダムについて流されている情報の誤りについて

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2 コメント

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民主党の鳩山由紀夫の独裁と横暴 (在日民主党)
2009-09-21 08:46:59
群馬県知事 「地元住民や関係市町村、1都5県の意見を聞くことなく建設中止したことは言語道断で極めて遺憾。」
茨城県知事 「中止の判断に至った理由、代替案などについて何らの説明もないことは極めて遺憾。」
埼玉県知事 「民主党の公約そのものがルールを無視したもの。」
千葉県知事 「私も視察に行ったが、あの状況で止めるのは大変。地元の人達の国への信頼もなくなり、協力への躊躇が出るのではないか。」
東京都知事 「基本的に建設反対に反対。7割もできているプロジェクトをやめる意味は、理解できない。」
立地予定の群馬県を除く周辺の1都4県の知事は、中止の際には支出済みの負担金約1500億円の返還を求めることで一致した。前原国土交通相は返還すると語った。
治水の必要性は、河川の流域に住んでおらず、浸水被害を経験したことのない鳩山由紀夫には実感はないはず。
後始末はどうするのか。例えば、既にできている高さ約100mの巨大な複数の橋脚は、撤去するのか放置するのか民主党は具体策を示さなければならない。
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コメントありがとうございます。 (かみつけ岩坊)
2009-09-23 17:07:05
在日民主党様、議論は難しいので要点のみ記させていただきます。
民主党の現段階の行動は、たしかに公約にかかげたことを政権をとってから実施に移すプロセスについての準備が不十分であったのを感じます。
しかし、半世紀を超えて住民を犠牲にしてきたこととに対する補償、これからの地域の再建は、ダムを中止するにしても続行するにしても決して簡単なことではないことを再度、強調させていただきます。
そのことに対するマスコミのミスリードは、いつの時代でも住民の立場がひとつでないことを無視して、その時々の都合のよい言葉を継ぎはぎしてしまいます。
こうした意味で、自治体首長の発言も自治の代弁者とは限らない内容を含んでいるかと思います。
事実誤認については、リンクをご参照ください。
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