語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【本】宝さがしと謎とき ~海賊オッカムの至宝~

2016年08月14日 | 小説・戯曲

 古い倉庫を始末し、新しく設置した際、古い倉庫から出てきた本の一。

 (1)星新一編訳『アシモフの雑学コレクション』(新潮文庫、1986)にいわく、<カナダの東部ノバスコチア沖のオーク島には、深い縦穴がある。水がたまっていて、その底は不明。18世紀に正体不明の男たちが掘ったという以外、なにもわからない>。
 これが、本書の舞台、米国メーン州沖合に位置するノコギリ島のモデルである。

 (2)ノコギリ島には海賊エドワード・オッカムの財宝、20億ドル相当が埋蔵されているという伝説があり、2世紀にわたって幾たりかの人々が挑戦したが、財宝が隠されているとおぼしき一帯の〈水地獄〉に祟られて経費がうなぎのぼりに上がり、破産した。命を失った者も少なくなかった。
 こうした一人を祖父としてもつ医師、ハーバード大学出のマリン・ハッチのもとに、一人の男が訪れた。祖父からノコギリ島の地権を継ぐマリンと契約を交わしたい、と申し出たのである。資金もスタッフも資材も確保済みだという。ヴェトナム戦争で掃海艇の艇長をつとめた男、ナイデルマンは、静かに自信に満ちた口調でハッチを説得をする。20年間、宝探しの山師を追い返してきたマリンは動揺した。とどめの言葉は、「<水地獄>を誰が設計したか、その正体を突き止めたのです」
 設計者? 自然が欲深な人間を阻止してきたのではなかったのか。少年時代に兄を呑みこんだ〈水地獄〉の謎が、今や解き明かされようとしているのか。
 かくて、スティーブン・スティルバーグ監督映画さながら、テンポの速い展開で、愕くべき結末まで一気に進む。

 (3)以下、ネタバレの恐れあり。
 罠の先に罠が待ち受けている、さらに別の罠が。
 こうしたくどさもスティルバーグ監督映画と共通しているが、読んでいるうちは気にならない。一読後、矛盾に気づく。たとえば、ナイデルマンが必死に探し求める宝物〈聖ミカエルの剣〉。小説が設定する効果をもつ物質を豪奢な装飾をもつ剣に仕立て上げることができる人間は、少なくとも海賊オッカムの時代にはいないはずだ。
 とはいえ、スティーブンソン『宝島』に胸を躍らせた人なら、本書を堪能できる。いや、『宝島』を読んでいなくても宝探しや発掘に関心をもつ人なら、やはり楽しめる。暗号、コンピュータ、地質学が好きな人も。
 海賊の知識があると、いっそう興趣が深まる。クリントン・V・ブラック(増田義郎・訳)『カリブ海の海賊たち』(新潮選書、1990)なぞ、どうだろう。

□ダグラス・プレストン/リンカーン・チャイルド(宮脇孝雄訳)『海賊オッカムの至宝』(講談社、2000)
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