語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】宮沢賢治「蠕虫舞手《アンネリダタンツエーリン》」 ~水のなかでダンス~

2015年05月24日 | 詩歌
   (えゝ 水ゾルですよ
    おぼろな寒天《アガア》の液ですよ)
 日は黄金《きん》の薔薇
 赤いちひさな蠕虫《ぜんちゆう》が
 水とひかりをからだにまとひ
 ひとりでをどりをやつてゐる
   (えゝ 8《エイト》 γ《ガムマア》 e《イー》 6《スイツクス》 α《アルフア》
    ことにもアラベスクの飾り文字)
 羽むしの死骸
 いちゐのかれ葉
 真珠の泡に
 ちぎれたこけの花軸など
   (ナチラナトラのひいさまは
    いまみづ底のみかげのうへに
    黄いろなかげとおふたりで
    せつかくをどつてゐられます
    いゝえ けれども すぐでせう
    まもなく浮いておいででせう)
 赤い蠕虫舞手《アンネリダタンツエーリン》は
 とがつた二つの耳をもち
 燐光珊瑚の環節に
 正しく飾る真珠のぼたん
 くるりくるりと廻つてゐます
   (えゝ 8《エイト》 γ《ガムマア》 e《イー》 6《スイツクス》 α《アルフア》
   ことにもアラベスクの飾り文字)
 背中きらきら燦《かがや》いて
 ちからいつぱいまはりはするが
 真珠もじつはまがひもの
 ガラスどころか空気だま
   (いゝえ それでも
    エイト ガムマア イー スイツクス アルフア
    ことにもアラベスクの飾り文字)
 水晶体や鞏膜《きようまく》の
 オペラグラスにのぞかれて
 をどつてゐるといはれても
 真珠の泡を苦にするのなら
 おまへもさつぱりらくぢやない
     それに日が雲に入つたし
     わたしは石に座つてしびれが切れたし
     水底の黒い木片は毛虫か海鼠《なまこ》のやうだしさ
     それに第一おまへのかたちは見えないし
     ほんとに溶けてしまつたのやら
 それともみんなはじめから
 おぼろに青い夢だやら
   (いゝえ あすこにおいでです おいでです
    ひいさま いらつしやいます
    8《エイト》 γ《ガムマア》 e《イー》 6《スイツクス》 α《アルフア》
    ことにもアラベスクの飾り文字)
 ふん 水はおぼろで
 ひかりは惑ひ
 虫は エイト ガムマア イー スイツクス アルフア
    ことにもアラベスクの飾り文字かい
    ハツハツハ
   (はい まつたくそれにちがひません
    エイト ガムマア イー スイツクス アルフア
    ことにもアラベスクの飾り文字)

□宮沢賢治「蠕虫舞手《アンネリダタンツエーリン》」(『心象スケッチ 春と修羅』、1924)
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 【参考】
【詩歌】宮沢賢治「高原」 ~方言~
【詩歌】宮沢賢治「原体剣舞連」
【詩歌】宮沢賢治「烏百態」
【詩歌】宮沢賢治「風の又三郎」
【詩歌】宮沢賢治「星めぐりの歌」
【詩歌】宮沢賢治「種山ヶ原」 ~ドヴォルザーク「新世界より」~
【詩歌】砂漠のバラード



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