語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【本】映画で読む20世紀 ~この百年の話~

2016年08月16日 | エッセイ

 古い倉庫を始末し、新しく設置した際、古い倉庫から出てきた本の一。

 (1)『わが谷は緑なりき』から『ジャーニー・オブ・ホープ』まで13編の映画をとりあげ、あらすじ、監督や出演者といった基礎的な資料を紹介した上で、エコノミストと詩人が縦横に論じあう。

 (2)たとえば、『スミス都へ行く』(米、1939年)。
 田中は、映画制作当時、米国はニューディールの効果が少々出てきた頃だったと背景を解説し、まだ草の根民主主義を中心とする健全さが残っていたと付言する。これに対して長田は、スミスを動かしているのは女性である(端的には秘書サンダース)と指摘し、米国のフロンティアを代表する西部から自立する女性が登場してきたという歴史的事実と重ねあわせる(女性の参政権はワイオミング州を嚆矢とする)。
 『スミス都へ行く』は政治の教科書と呼んでもよい、社会教育の効果があると田中が評せば、米国人がもっとも好きな映画としてあげる作品だと長田は受け、この映画は政治のメルヘンだと規定する。
 ただし、『スミス都へ行く』は単純に見えて決して単純ではない。ニューディールからするとむしろ映画では悪玉テイラー(民主党)に理があって、彼は失業問題も視野に入れている。他方、善玉スミス(共和党)は調子のよいことばかり言い立てるけれども、支離滅裂、ヴィジョンがない。もっとも、スミスはテイラーを全否定しているわけではなくて、やり方を変えたいというだけにすぎない、と二人は結論を下す。

 (3)本書は、映画が描く時代、あるいは映画が製作された時代をしかと押さえた上で作品を論じている。だから、議論がわかりやすい。
 おそらく編集の工夫によって、対談にしては密度の高い文章となっている。反面、実際にはあったにちがいない軽いかけあいが省かれているらしく、全体としてやや堅苦しくなっているのが惜しい。

□中直毅、長田弘『映画で読む20世紀 -この百年の話-』(朝日文庫、2001)
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