筆者はいくつかの原稿を同時に書き進めることが多い。編集者や作家から、「よくそういう離れ業ができますね。内容が混乱しませんか」と言われることがあるが、そんなことはまったくない。ロシア語と日本語を交互に話していても、両方の言語が混淆することが絶対にないのと同じで、同時並行の原稿の内容が混乱することはありえない。筆者の月産原稿量は、1,000枚(400字詰原稿用紙換算)を軽く超えている。このペースで3年以上執筆しているが、特に苦しく感じたこともない。テーマを変えるごとに、魂が切り替わるような気がする。このことを同僚の作家に話すのだが、なかなか理解してもらえない。ある時期から、魂の切り替えが容易にできるのは、筆者に沖縄の血が流れているからと思うようになった。
琉球語(沖縄方言)で魂のことを「マブイ」と呼ぶ。日本人の常識では、1人の人間に魂は1つしかない。しかし、沖縄人の感覚では、1人の人間に複数のマブイがある。ある専門家によると、どうもマブイは6つあるらしい。事故に遭遇したり、大きなショックを受けることがあると、虚脱状態になってしまうことがある。沖縄人は、複数あるマブイのいくつかが、身体(からだ)から離脱してしまったのでこの虚脱状態が生じると考える。これを琉球語で「マブイウティ(マブイ落ち)」と言う。そして、「マブイ落ち」した人に特別の儀式を行って、マブイを取り戻す「マブイグミ(マブイ込め)」とい習慣がある。これが効果をあげることがよくある。筆者はマルクス主義や日本の左翼思想に関心をもつとともに、英国の保守思想や日本の右翼思想も真剣に勉強している。筆者の中にあるマブイがそれぞれの事柄に特化しているのであろう。そして、これら複数のマブイを総括する「何か」が筆者の心の中にあるのだ。恐らく、キリスト教が強調する霊(ギリシア語のプネウマ)がこの「何か」と深い関係をもっているのだろうけれど、完全に納得できない段階でそのことを理論化してはいけないと戒めている。
□佐藤優『外務省に告ぐ』(新潮文庫、2014.4.1)の「第6章 沖縄への想い」から引用。
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琉球語(沖縄方言)で魂のことを「マブイ」と呼ぶ。日本人の常識では、1人の人間に魂は1つしかない。しかし、沖縄人の感覚では、1人の人間に複数のマブイがある。ある専門家によると、どうもマブイは6つあるらしい。事故に遭遇したり、大きなショックを受けることがあると、虚脱状態になってしまうことがある。沖縄人は、複数あるマブイのいくつかが、身体(からだ)から離脱してしまったのでこの虚脱状態が生じると考える。これを琉球語で「マブイウティ(マブイ落ち)」と言う。そして、「マブイ落ち」した人に特別の儀式を行って、マブイを取り戻す「マブイグミ(マブイ込め)」とい習慣がある。これが効果をあげることがよくある。筆者はマルクス主義や日本の左翼思想に関心をもつとともに、英国の保守思想や日本の右翼思想も真剣に勉強している。筆者の中にあるマブイがそれぞれの事柄に特化しているのであろう。そして、これら複数のマブイを総括する「何か」が筆者の心の中にあるのだ。恐らく、キリスト教が強調する霊(ギリシア語のプネウマ)がこの「何か」と深い関係をもっているのだろうけれど、完全に納得できない段階でそのことを理論化してはいけないと戒めている。
□佐藤優『外務省に告ぐ』(新潮文庫、2014.4.1)の「第6章 沖縄への想い」から引用。
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