語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【神戸】「医療産業都市」の躓きと暴走 ~埋立開発行政の破綻②~

2016年01月28日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)理化学研究所の発生・再生科学総合研究センター(CDB、現・多細胞システム形成研究センター)の小保方晴子・ユニットリーダー(当時)が発見したとされる「STAP細胞」は、理研自身によって「ES細胞由来」=新発見ではないとされた。不正研究とされた小保方氏は依願退職し、野依良治・理研理事長も辞任した。
 小保方氏は、博士論文でも米国立衛生研究所のホームページから「コピペ」していた。ホームページならすぐ分かる。研究者として不正だとの認識が皆無だった証左だ。
 博士号を取り消された小保方氏は、早稲田大学を提訴した。 しかし、
 「早大理工学部がそういう教育をしていたのでは?」【菊池誠・大阪大学サイバーメディアセンター教授】
 「メディアを過剰意識した結果のあだ花が小保方さんのSTAP細胞です。生体肝移植失敗と小保方さんのスキャンダルは無関係だと思っている人は多いが、実は同じレベルでの問題」【西田芳矢・兵庫県医師会副会長】
 両者の底流にあるのは、「稼ぐ先端医療」だ。小保方「STAP細胞」の研究も再生医療への活用が目標だった。

 (2)国立大学や科学研究の国立機関は、1990年代後半から独立行政法人化し、各機関は研究成果をメディアに取り上げさせることに汲々とし始める。
 発表するほどでもない成果も、研究者が得意気に記者発表する。メディアが取り上げてくれれば勝ち。
 文部科学省の査定もメディアへの露出度に影響され、予算も左右される。
 事実、CDBはSTAP細胞をアピールし、巨額プロジェクト予算の格闘を狙っていた。しかし、不正研究の影響で獲得しそびれたどころか、2015年度の予算要求は45%も削減する羽目になった。
 まさに「あだ花」だったが、研究者が短期契約で成果を求められる現状も不祥事につながる。

 (3)生体肝移植の相次ぐ失敗に批判が強まるなか、田中紘一・神戸国際フロンティアメディカルセンター(KIFMEC)理事長は、2015年9月24日、生体肝移植を再開すると発表した。
 手術失敗後、10人の外部専門委員の評価委員会は「おおむね体制は整った」と説明。
 10月6日、田中理事長はKIFMECにおける10例目を執刀した。「患者は安定し、別の病院に転院させた」としたが、詳細は明らかにしない。
 ところが、2ヵ月後(11月27日)、KIFMECは突然、「診療を停止する」と発表した。患者が激減し、経営難に陥っていたのだ。
 「スタッフの大半は解雇。入院患者はすべて転院し、外来の患者も含め、再開時期は未定」【代理人の弁護士】
 その後、KIFMECは、医師を派遣していたシンガポールの診療所を閉鎖。技術協力を予定していたインドネシアの内視鏡診療支援も中止した。
 神戸市が期待した生体肝移植の海外展開は、雲散霧消した。
 実は、田中理事長は、KIFMEC向かいにある国際医療開発センター(IMDA)という医師の訓練センターも経営していたが、こちらも1年で倒産した。

 (4) オープンから1年も経たないうちに危機に陥ったKIFMECのことを、神戸市は「民間病院の経営について市があれこれ言えない」【石野竜一郎・医療産業都市・企業誘致推進本部担当課長】と頬かむりするだけ。
 「経済産業省の補助金を受けてビルを建て、医療関連の研究室やオフィスにしたが、経営破綻で結局は神戸市が買い取った。すべて税金で穴埋めされている。KIFMECも土地は神戸市が安く貸している」【前田博史・共産党神戸市委員会事務局】
 「神戸市が『権威だ、権威だ』と田中氏を引っ張ったのが大失敗。経営能力などゼロでしょ。結局、税金で尻ぬぐいさせられている」【県医師会のある幹部】
 神戸市は、2013年度の予算でも7,100億円のうち、ポートアイランドの医療産業都市に数十億円をつぎこむ。
 「市は、医療産業都市に200社以上の医療関係機関が来ていると宣伝しますが、入れ替わりが激しい。最初の3年間は半額の家賃補助があるため、各企業は研究室を借りたりするが、3年で出ていく。一時的に補助金に乗っているだけです」【前記、前田氏】
 「出ていく会社も多いが、それ以上に入ってきている」と神戸市の前記、石野課長は反論するが。

 (5)大きくイメージダウンした医療産業都市。
 神戸市が次に救世主とするのが、高橋政代・理研多細胞システム形成研究センター・プロジェクトリーダーだ。高橋氏は、iPS細胞をはじめて臨床で使う「加齢黄斑変性」の治療を行う。2015年10月に発表した途中経過によると、患者の視力が進展しているように報じられた。
 「簡単に視力が上がるとは思われない。iPS細胞は癌化しやすい。目なら癌が外からも分かりやすく、すぐ除去できる。だから目から始めている」【ある眼科医】
 文部科学大臣賞を受賞した高橋氏は、「秋の園遊会」にも招待された。理研や神戸市は、早急に「科学スター」をつくりたいのだ。

 (6)TPPによって「薬漬け国民」を狙う米国の思惑は、日本の皆保険制度を崩して巨大製薬企業や保険会社を参入させることだ。
 「医療問題は直接TPPのテーブルにあがっていませんが、日本の薬価協議会に介入している米国が高く売ることを拒否された場合、TPPのISDS条項で『日本の規制で損害を被った』と米国の企業が日本政府を訴えることができます。負けたら薬価は高騰し、ここから皆保険が崩れる」【堤未果・ジャーナリスト】
 前回のアベノミクスの3本目の矢は、混合診療(保険外診療)の導入と医療ツーリズムと言われる。
 神戸市は、医療産業都市を国家戦略特区として規制から免れる場に変え、混合診療(保険適用外)の場として米国へ差し出すのか?

 (7)「神戸市は国の特区指定を利用して医療を儲けの場に変えた。野村総合研究所に見積もらせ、田中氏を呼ぶことやKIFMECで事故があれば市民病院を使うことなどを構想した。専用ジェットでサウジアラビアの富豪などが家族やドナーを連れてきて保険外手術を受け、宿泊もしてくれる。市議たちは公費でサウジアラビアなどに視察に行っている。背景には三井物産をはじめ、大手企業が絡む。計画されているiPS細胞がらみの目の治療拠点『神戸アイセンター』も利権だらけ」【武村義人・兵庫県保険医協会副理事長】
 地元に恩恵はあるか。
 「市は『最先端医療を神戸に集積することで市民に高度な医療を提供し、神戸を経済活性化できる』などと宣伝してきたが、参入しているのは大阪の武田薬品工業、東京の日立製作所など神戸市以外の大企業や米国の企業などで、市民は恩恵にあずかっていない。医療産業と社会保障としての医療とは違うはずだが、特区の規制緩和で市場原理を持ち込み、混合診療まで導入することは社会保障としての医療の否定と金による医療差別の容認」【出口俊一・兵庫県震災復興研究センター】
 震災後、医療産業都市と並び、神戸市が掲げた創造的復興の柱が、市民の大反対を押し切って建設された神戸空港だ。

□粟野仁雄(ジャーナリスト)「「医療産業都市」の躓きと暴走 ~破綻した“神戸市の埋め立て開発行政”②~」(「週刊金曜日」2016年1月22日号)
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 【参考】
【神戸】生体肝移植失敗の原因 ~埋立開発行政の破綻~



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