福岡県西方沖地震を振り返る
早いもので、福岡県西方沖地震から19年が過ぎた。記憶が薄れていく中、全国では地震が絶え間なく発生している。またいつ福岡で地震が起きるかわからない。実際、警固断層帯北西部では小さな地震が今も続いている。備えは怠れない。
振り返ると、2005年3月20日10時53分、福岡市西区玄界島から北西約3㌔の玄界灘海底でM7.0、深さ9kmの地震が発生。震源域は警固断層帯北西部。地震メカニズムは東西方向に圧力軸を持つ左横ずれ断層型。福岡市中央区、東区、糸島市、佐賀県みやき町で震度6弱を観測。福岡市で死者1人、重軽傷者は福岡市内で1039人(福岡、佐賀、長崎、山口県の4県で1204人)。福岡市内の住宅被害は5220棟。玄海島の被害が大きく、博多湾沿岸域では液状化が多数見られた。なお、当時、玄海島には地震計がなく震度は不明、推定6弱~7とされている。
地震発生時、仕事でアメリカシアトルへ向かうため福岡空港にいた。建物は大きく揺れたが短かった。空港内は騒然となった。どうなるかと思ったが、滑走路の安全確認後、飛行機は飛んだ。上空からは大きく崩れた建物や火災などは見られなかった。被害の程度もわからないまま、後ろ髪を引かれる思いで日本を離れた。帰国後、被害状況を知って驚いた。なんと亡くなったのは、知人(飲食店オーナー)のお姉さんだった。そうとは知らず、帰国直後にお店に顔を出した時、亡くなった方が多くなくて…と言ってしまい、知人が、実は…と俯いた。返す言葉がなかった。その時のことは今でも忘れられない。
地震翌日の西日本新聞記事(福岡市HPより)
警固断層帯の脅威
今月20日の西日本新聞「福岡沖地震19年」に注目した。志賀島付近でひずみがたまっている可能性があることが、西南大学新原俊樹教授の分析でわかったという。志賀島付近では地震活動の特徴を表わす指標「b値」が低く、大きな力が加わっている可能性がある。ここで大きな地震が起きると、警固断層南東部(陸側)の断層に影響する恐れがあるという。アイランドシティ付近でもb値が低い所があるらしい。そういえば、今年1月末頃、志賀島付近(同じ場所)で小さな地震が頻繁に発生していたので気になっていた。
※b値とは、地震の発生頻度(n)と規模(M)の関係を示す指標(傾き)。Mが大きな地震ほど発生頻度は少なく、逆にMが小さい地震ほど頻度は多い。Mが1大きくなると頻度は10分の1になる。
2024年3月20日の西日本新聞「福岡沖地震19年」より
青い部分がひずみの大きいところ
1月26日~29日までの震央分布図(気象庁HPより)
まさに青い部分で地震が発生している(地震は1月22~23日頃からはじまっていた)
こちらは最近1年の福岡県周辺の地震活動(九大地震火山観測研究センターより)
警固断層北西部は相変わらず多い、なかでも志賀島あたりが目立つ、南東部は少ない
もう一つ、地震周期について。玄海島では全壊した住宅が107棟に上ったが、最大震度6弱を観測した福岡市では、中央区と博多区各9棟、東区6棟など、地震規模が大きかった割に多くなかった。その理由について、京大防災研の境有紀教授は「周期1~2秒の揺れが強く出なかったから」と指摘。地震波には、さまざまな周期(揺れが1往復するのにかかる時間)の波があり、周期1秒以下が強いと屋根瓦のずれ、ブロック塀の倒壊、斜面の倒壊が起きやすい。一方、周期1~2秒が強いと木造建物や10階建て以下のビルに大きな被害をもたらしやすい。西方沖地震では、0.5秒程度の揺れが最も強かったため、全壊を免れた建物が多かった。能登半島地震でも、震度7を観測した石川県志賀町(周期0.2秒)より、震度6強の輪島市、穴水町(周期1~2秒)のほうが全壊した建物が多い。Mが小さいからと安心してはいけない。
2024年3月20日の西日本新聞「福岡沖地震19年」より
阪神大震災と比較(能登半島地震と比較してほしかった)
西方沖地震では、警固断層帯北西部の活断層が動いた。しかし、南東部(陸側)の活断層は動いていない。地震調査研究推進本部の評価によれば、警固断層帯南東部は推定M7.2程度の地震が発生、今後30年の間に発生する確率は0.3%~6%。主な活断層の中でも最も高いレベルである。活断層の位置について、10年前の防災の日の講演会で産総研活断層評価チーム長の吉岡氏が、天神~大橋(博多温泉付近)~春日市(筑紫野インター付近)までと話しておられた。(ちなみに、うちのすぐそばを通っている)都心部を貫く活断層で地震が発生すれば、どれほど大きな被害がでるのか。想像はしたくはないが、想定はしておかないといけない。ところが、福岡市の想定がトンでもなく甘い。どれほど甘いか、西日本新聞が「福岡市 避難者想定に穴」と題し、報じていた。
警固断層帯南東部で地震が発生した場合、防災科学技術研究所は福岡市などで最大震度7と予測をしているのに対し、福岡市の予測は6強。震度6強が7になれば全壊する建物は4~5倍増える。さらに、避難者数の想定も問題がある。福岡市は住居が全壊か焼失したのみを想定し、半壊や危険な建物、断水や停電により生活できない人の数は入れていない。九大塚原健一教授(防災計画)は、福岡市の甘い想定に警鐘を鳴らしておられる。にもかかわらず、市は見直す予定はないという。20年近く大きな地震が起きていないので危機感がなくなってしまったのか。警固断層帯の脅威はすぐそこにあるというのに。
2024年3月22日の西日本新聞より
福岡市、穴だらけ、、
《関連記事》
・福岡沖地震19年、警固断層帯北西部で依然続く活動 「ひずみ」たまっている可能性(2024.3.20 西日本新聞)
・警固断層、福岡市の想定甘い? 国予測は震度7、全壊率4~5倍に 九大教授が警鐘(2024.3.22 西日本新聞)
・能登半島 揺れ周期の違いが建物の被害割合に影響か 専門家分析(2024.1.13 NHKニュース)
《参考資料》