現在、日本列島に接近中の台風12号は、本州に接近すると大陸側から日本海付近に張り出したチベット高気圧に北上を阻まれ、寒冷渦(本州の南海上付近にある反時計回りの冷たい空気の固まり)の作用で西に急カーブし、通常とは逆のコースをたどる。台風の風は反時計回りとなるため、東シナ海へ抜けた後の雨の降り方に注意が必要だ。台風が通過後は南風が吹く。この風に大量の水蒸気が供給されれば、ふたたび西日本豪雨のようなことになりかねない。
そこで、気がかりなのが西日本豪雨で満水位になっている五ヶ山ダムだ。現在、五ヶ山ダムでは常時満水位(洪水でない時にダムに貯水することができる最高水位)を維持するため、直下にある南畑ダムへの放流が続いている。福岡県が公開しているダム情報を見ると、28日午後3時の南畑ダムの流入量は毎秒1.6㎥、放流量は毎秒2.0㎥。つまり、毎秒1600リットルの水が五ヶ山ダムから入り、毎秒2000リットルの水が那珂川へ放流されていることになる。これだけの量が放流されているのは、南畑ダムが満水状態だからだろう。(図1参照)
西日本豪雨時、7月6日の南畑ダムの状況を調べてみると、同日午後2時頃、流入量は急激に増えている。(図2参照)ピークは同日午後5時頃で、流入量は毎秒100㎥(10万リットル)、放流量は毎秒約60㎥(6万リットル)にも上っている。(図3参照)ちょうどその頃、那珂川で浸水がはじまった。(下写真参照)これは五ヶ山ダムの水位が急上昇したことによる措置と思われるが、併用が開始されていないからなのか、五ヶ山ダムに関する情報は一切公開されていない。だから南畑ダムの情報から五ケ山ダムの状況を推測するしかない。これは防災上、大いに問題があると思うのだが、公開の動きはない。
西日本豪雨では、愛媛県の肱川上流にある野村ダム(西予市)と鹿野川ダム(大洲市)の2つのダムが、基準の六倍の量を放流したことで大規模な浸水被害が発生し、9名の方が犠牲となった。ダム放流をめぐっては、住民への情報提供が問題となっており、検証がはじまったばかりだが、これは決して他人ごとではない。那珂川上流には、巨大な五ヶ山ダムが、その直下には南畑ダムがある。下流域には、福岡市の都心部がある。今、2つのダムは満水状態であり、台風による大雨も予想されている。福岡県は、どれほどの水量がダムに流入し、放流するのか。南畑ダムの情報だけでなく、五ヶ山ダムの情報も提供すべきだろう。同じような災害を起こさないためにも。
《現在の南畑ダムの状況》図1
現在、南畑ダムは、ほぼ満水状態
《西日本豪雨時の南畑ダムの状況》図2
雨がひどくなったころ、放流量が一気に上昇
その時、那珂川は
この頃、那珂川の水位が上昇しはじめた(7月6日午後2時頃撮影)
《西日本豪雨時の南畑ダムの状況》図3
ピーク時、毎秒6万リットルの水が那珂川に放流されていた
その時、那珂川は
この頃、那珂川で浸水がはじまった(7月6日午後6時頃撮影)
《関連記事》
・“逆走”台風12号接近中 九州は29日午後以降(西日本新聞 2018.7.28)
・異例の西寄りコース 通過後も大雨の恐れ(大分合同新聞 2018.7.28)
《参考資料》