道開発予算、政策転換で農業大幅増 凍結4ダム復活 事業の必要性に疑問も /北海道
毎日新聞 2013年01月30日 地方版
29日に閣議決定された13年度政府予算案で、北海道開発予算の総額は前年度当初予算比11%増の4770億1300万円となった。12年度補正予算案と合わせると実質規模は約6900億円に上り、06年度の水準まで一気に回復した。農業予算は大幅アップし、凍結されていた国直轄の4ダムは全て本体工事に向けた事業費が計上されるなど、民主党政権からの転換を印象づけた。しかし、必要な公共事業の見極めがどういうプロセスでされたのかは不透明なままだ。【円谷美晶、横田信行】
◇要求額上回る
開発予算のうち、農林水産基盤整備費は約1057億円で、前年度比31%増。使途を定めない一括交付金が廃止されたこともあり、要求額を約79億円上回った。
特に、民主党政権発足後の10年度予算で前年度比47%減の大幅削減となった農業農村整備費は、戸別所得補償制度を優先的にすすめたあおりを受け、その後も横ばい状態が続いていたが、自民への政権交代後、農業予算を重視する方針に変わり、前年度比25%増の666億5700万円が計上された。根室市のかんがい排水や美唄市の農地再編など、新規の10事業(調査も含む)も全て認められた。
国土交通省北海道局農林水産課は「整備の遅れによる生産への影響が懸念されており、現政権が必要性を認めてくれた。遅れを取り戻したい」と説明する。
◇駆け込み決定
民主党政権下で「検証対象」となり、本体工事が凍結されていた▽サンルダム(下川町)▽平取ダム(平取町)▽新桂沢・三笠ぽんべつ両ダム(三笠市)の3事業は、本体工事に必要な基礎掘削や道路工事費など、3事業それぞれに30億円以上、計約95億円が計上された。凍結から3年を経て、完成に向けて再びかじを切った。
「住民の声を受けた悲願」と訴え、凍結解除を求める署名活動も展開してきた下川町の安斎保町長は「凍結となっていた本体工事が開発予算に盛り込まれたことは大変喜ばしい限り。流域の住民の安全と安心を確保するため、できるだけ早い工事の着工を望んでいる」とコメントした。
だが、「北海道脱ダムをめざす会」事務局で道自然保護協会の佐々木克之副会長は「総選挙前から検証作業の急ぎぶりは異常だった」と指摘する。サンルは昨年11月に国交省が事業継続を決定。平取と新桂沢・三笠は予算案の閣議決定直前の今月25日に相次いで事業継続が決まり、駆け込みの印象はぬぐえない。佐々木副会長は「環境への影響や治水効果、地域振興などで多くの問題点を指摘したが、一切答えていない。行政が説明責任を放棄した状況で事業を再開していいのか」と批判した。
開発予算の増額について、国交省北海道局予算課は「必要な予算を積み上げた結果で、バラマキではない」と強調する。だが、新政権発足による政策転換からわずか1カ月半。12日の概算要求の組み替えで、急きょ13億円を上積みするなど、事業の必要性に疑問が残る形となった。
◇送電網整備を初計上 風力発電導入促進に向け
政府の13年度予算案では、風力発電の導入促進に向けて、送電網整備に向けた実証事業に250億円が初めて計上された。今後、送電網の脆弱(ぜいじゃく)な道北など、道内の適地を風力発電の「重点整備地区」に指定。「特定目的会社」を設立し、電力会社以外による送電網整備を試みる。
風力発電推進市町村全国協議会会長を務める森利男・苫前町長は「風力発電の普及拡大への大きな力になる。道北をモデルケースとして全国に普及させたい」と歓迎した。
市民出資による風力発電事業などを行う、北海道グリーンファンドの鈴木亨理事長も「日本で再生可能エネルギーの比率を高めるために欠かせない事業だ。中長期的視点で事業を注視していきたい」と評価した。【大場あい】
◇アイヌ政策関連、9億5400万円計上
各省庁にまたがるアイヌ民族政策関連費の総額は9億5400万円となった。アイヌ文化の復興・発展を目指す「民族共生の象徴空間」(白老町)に関わる予算は、国立博物館の整備・運営のための調査費2400万円を含む計3400万円が計上された。アイヌ民話の絵本の刊行や、アイヌ語の保存・継承のための調査研究などの新規事業なども盛り込まれた。
また、15年度開業予定の北海道新幹線・新青森−新函館間の沿線自治体の負担などを含む事業費は1000億円。昨年6月に着工認可を受けた新函館−札幌間には用地取得の補助事業や詳細設計のための60億円が配分された。【円谷美晶】
◇北海道開発予算
旧北海道開発庁を母体とする国土交通省北海道局は、北海道の開発に必要な公共事業を選定し、「北海道開発事業費」として一括要求できる権限を持つ。国交省所管の道路・港湾整備、農林水産省所管の農業用施設整備のほか、厚生労働省や環境省所管事業まで及ぶ。ピーク時は年間1兆円を超えた。
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◆13年度北海道開発予算案総括表◆
(単位は百万円)
項目 決定額 12年度当初 対前年度倍率
【北海道開発事業費】 467647 420337 1.11
(内訳)
(1)治山治水 82168 83053 0.99
治水 75451 75776 1.00
治山 6214 6772 0.92
海岸 503 505 1.00
(2)道路整備 160209 151847 1.06
(3)港湾空港鉄道等 18752 19323 0.97
港湾 14440 14440 1.00
空港 4312 4883 0.88
(4)住宅都市環境整備 17493 18842 0.93
都市環境整備 17493 18842 0.93
道路環境整備 16908 18200 0.93
都市水環境整備 585 642 0.91
(5)公園水道廃棄物処理等 4969 5313 0.94
水道 2879 3251 0.89
廃棄物処理 1121 1178 0.95
国営公園等 969 884 1.10
(6)農林水産基盤整備 105717 80738 1.31
農業農村整備 66657 53213 1.25
森林整備 5083 6322 0.80
水産基盤整備 21092 20838 1.01
農山漁村地域整備 12885 365 35.30
(7)社会資本総合整備 72783 52992 1.37
(8)推進費等 5556 8229 0.68
【北海道災害復旧事業等工事諸費】 15 18 0.83
【北海道開発計画調査等経費】 132 161 0.82
【北方領土隣接地域振興等経費】 100 100 1.00
【アイヌ伝統等普及啓発等経費】 124 125 0.99
【その他一般行政費等】 8995 9759 0.92
合計 477013 430501 1.11
http://mainichi.jp/area/hokkaido/news/20130130ddlk01010200000c.html
毎日新聞 2013年01月30日 地方版
29日に閣議決定された13年度政府予算案で、北海道開発予算の総額は前年度当初予算比11%増の4770億1300万円となった。12年度補正予算案と合わせると実質規模は約6900億円に上り、06年度の水準まで一気に回復した。農業予算は大幅アップし、凍結されていた国直轄の4ダムは全て本体工事に向けた事業費が計上されるなど、民主党政権からの転換を印象づけた。しかし、必要な公共事業の見極めがどういうプロセスでされたのかは不透明なままだ。【円谷美晶、横田信行】
◇要求額上回る
開発予算のうち、農林水産基盤整備費は約1057億円で、前年度比31%増。使途を定めない一括交付金が廃止されたこともあり、要求額を約79億円上回った。
特に、民主党政権発足後の10年度予算で前年度比47%減の大幅削減となった農業農村整備費は、戸別所得補償制度を優先的にすすめたあおりを受け、その後も横ばい状態が続いていたが、自民への政権交代後、農業予算を重視する方針に変わり、前年度比25%増の666億5700万円が計上された。根室市のかんがい排水や美唄市の農地再編など、新規の10事業(調査も含む)も全て認められた。
国土交通省北海道局農林水産課は「整備の遅れによる生産への影響が懸念されており、現政権が必要性を認めてくれた。遅れを取り戻したい」と説明する。
◇駆け込み決定
民主党政権下で「検証対象」となり、本体工事が凍結されていた▽サンルダム(下川町)▽平取ダム(平取町)▽新桂沢・三笠ぽんべつ両ダム(三笠市)の3事業は、本体工事に必要な基礎掘削や道路工事費など、3事業それぞれに30億円以上、計約95億円が計上された。凍結から3年を経て、完成に向けて再びかじを切った。
「住民の声を受けた悲願」と訴え、凍結解除を求める署名活動も展開してきた下川町の安斎保町長は「凍結となっていた本体工事が開発予算に盛り込まれたことは大変喜ばしい限り。流域の住民の安全と安心を確保するため、できるだけ早い工事の着工を望んでいる」とコメントした。
だが、「北海道脱ダムをめざす会」事務局で道自然保護協会の佐々木克之副会長は「総選挙前から検証作業の急ぎぶりは異常だった」と指摘する。サンルは昨年11月に国交省が事業継続を決定。平取と新桂沢・三笠は予算案の閣議決定直前の今月25日に相次いで事業継続が決まり、駆け込みの印象はぬぐえない。佐々木副会長は「環境への影響や治水効果、地域振興などで多くの問題点を指摘したが、一切答えていない。行政が説明責任を放棄した状況で事業を再開していいのか」と批判した。
開発予算の増額について、国交省北海道局予算課は「必要な予算を積み上げた結果で、バラマキではない」と強調する。だが、新政権発足による政策転換からわずか1カ月半。12日の概算要求の組み替えで、急きょ13億円を上積みするなど、事業の必要性に疑問が残る形となった。
◇送電網整備を初計上 風力発電導入促進に向け
政府の13年度予算案では、風力発電の導入促進に向けて、送電網整備に向けた実証事業に250億円が初めて計上された。今後、送電網の脆弱(ぜいじゃく)な道北など、道内の適地を風力発電の「重点整備地区」に指定。「特定目的会社」を設立し、電力会社以外による送電網整備を試みる。
風力発電推進市町村全国協議会会長を務める森利男・苫前町長は「風力発電の普及拡大への大きな力になる。道北をモデルケースとして全国に普及させたい」と歓迎した。
市民出資による風力発電事業などを行う、北海道グリーンファンドの鈴木亨理事長も「日本で再生可能エネルギーの比率を高めるために欠かせない事業だ。中長期的視点で事業を注視していきたい」と評価した。【大場あい】
◇アイヌ政策関連、9億5400万円計上
各省庁にまたがるアイヌ民族政策関連費の総額は9億5400万円となった。アイヌ文化の復興・発展を目指す「民族共生の象徴空間」(白老町)に関わる予算は、国立博物館の整備・運営のための調査費2400万円を含む計3400万円が計上された。アイヌ民話の絵本の刊行や、アイヌ語の保存・継承のための調査研究などの新規事業なども盛り込まれた。
また、15年度開業予定の北海道新幹線・新青森−新函館間の沿線自治体の負担などを含む事業費は1000億円。昨年6月に着工認可を受けた新函館−札幌間には用地取得の補助事業や詳細設計のための60億円が配分された。【円谷美晶】
◇北海道開発予算
旧北海道開発庁を母体とする国土交通省北海道局は、北海道の開発に必要な公共事業を選定し、「北海道開発事業費」として一括要求できる権限を持つ。国交省所管の道路・港湾整備、農林水産省所管の農業用施設整備のほか、厚生労働省や環境省所管事業まで及ぶ。ピーク時は年間1兆円を超えた。
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◆13年度北海道開発予算案総括表◆
(単位は百万円)
項目 決定額 12年度当初 対前年度倍率
【北海道開発事業費】 467647 420337 1.11
(内訳)
(1)治山治水 82168 83053 0.99
治水 75451 75776 1.00
治山 6214 6772 0.92
海岸 503 505 1.00
(2)道路整備 160209 151847 1.06
(3)港湾空港鉄道等 18752 19323 0.97
港湾 14440 14440 1.00
空港 4312 4883 0.88
(4)住宅都市環境整備 17493 18842 0.93
都市環境整備 17493 18842 0.93
道路環境整備 16908 18200 0.93
都市水環境整備 585 642 0.91
(5)公園水道廃棄物処理等 4969 5313 0.94
水道 2879 3251 0.89
廃棄物処理 1121 1178 0.95
国営公園等 969 884 1.10
(6)農林水産基盤整備 105717 80738 1.31
農業農村整備 66657 53213 1.25
森林整備 5083 6322 0.80
水産基盤整備 21092 20838 1.01
農山漁村地域整備 12885 365 35.30
(7)社会資本総合整備 72783 52992 1.37
(8)推進費等 5556 8229 0.68
【北海道災害復旧事業等工事諸費】 15 18 0.83
【北海道開発計画調査等経費】 132 161 0.82
【北方領土隣接地域振興等経費】 100 100 1.00
【アイヌ伝統等普及啓発等経費】 124 125 0.99
【その他一般行政費等】 8995 9759 0.92
合計 477013 430501 1.11
http://mainichi.jp/area/hokkaido/news/20130130ddlk01010200000c.html