ナショナルジオグラフィック 2025.02.28
カナダの北極圏を流れるマッケンジー川の東岸を、放牧された6000頭のトナカイの群れが、繁殖地に向けて進む。最近、先住民のイヌビアルイトの共同体が、この群れの所有権を取得した。(PHOTOGRAPH BY KATIE ORLINSKY)
この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2025年3月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。
かつてヨーロッパから北米に移入されたトナカイの最後の群れが、カナダ極北の先住民の手で大切に守られている。
朝の陽光を受けながら、数千頭のトナカイが凍(い)てつくカナダ北西部をゆっくりと進む。吐く息が冷たい空気とぶつかって湯気が立ち、トナカイたちの体はその雲に隠れてほとんど見えない。多数の枝角が霧の中で踊る。遠くから見ると、移動する群れは北極圏の純白のキャンバスに描かれた、1本の茶色い曲線のようだ。
群れから離れた場所では、スノーモービルに乗った先住民イヌビアルイトの牧夫4人が、ライフルを手に見張りを務めている。
牧夫は警戒を怠ることなく、トナカイが凍った大地を踏み鳴らすリズムに合わせている。彼らの仕事はトナカイを繁殖地まで追っていくことだ。しかしそれは、この名高い群れに、新たな伝説を書き加えることでもある。
「トナカイは本当に利口な動物です」とダグラス・エサゴックは言う。トナカイとともに7回の冬を越えてきた彼は、先住民の牧夫のなかでも有数の経験を積んでいる。「トナカイの群れを追うとき、私はいつも彼らに話しかけます。私の声やスノーモービルの音を聞きつけると、彼らはどことなく落ち着くようですね」
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