オーディオの愉しみの一つとしてマニア同士お互いに往き来しあってどういう音が出ているのか確認し合い何かしらの啓発を受ける事が挙げられる。
それぞれ生まれも育ちも違う人間同士だから感性が一致することはまずないのでシステムから出てくる音も千差万別だが、当然のごとく「いい、悪い」は別にして「好きな音、嫌いな音」があるのは否めない。嫌いな音の場合は聴いてもストレスが溜まるだけなのでソット遠のくしかない。
たとえば非常にクセが強いSPユニット「AXIOM80」(以下「80」)の場合、好き、嫌いがはっきり分かれていて、嫌いな人には何度聴いてもらっても終生受け入れてもらえそうにないところがとても淋しい(笑)。
その点、福岡在住の「80」同好家のKさん、Sさんは(「80」の)酸いも甘いもすべて分かっておられるので、蛾が誘蛾灯に自然に吸い寄せられるように自ずと集団化していく。
このところ5月9日(土)、23日(土)、6月6日(土)、6月13日(土)とお互いに持ち回りで、まるで例会のようにそれぞれの自宅で試聴会を開催している。「3人寄れば文殊の知恵」という言葉があるが、いつも何かしら貴重な示唆を得られるので非常に勉強になっている。
この13日(土)もそうだった。今回の開催場所はKさん宅だった。かねてのお約束通り我が家の英国マツダの「PP5/400」(最初期版)アンプを持参して、Kさん宅のレイセオンの「250」(4ピラー、ナス管)アンプと聴き比べる日である。
当日の3人組の集合時間は11時。梅雨の晴れ間というわけで、土曜日になると不思議に雨が降らないので大いに助かるが、重たいアンプを持ち運ぶのだからなおさらである。よほど、ご当人の日ごろの行いがいいに違いない(笑)。
高速道を利用すると掛かる時間は丁度1時間半前後だから、肉体的にも心理的にもまったく負担なし。
この日に備えて前日(12日)の午後から我が家の「PP5/400」アンプの調整に余念がなかった。晴れの他流試合を控えて赤っ恥だけは御免蒙りたいところ(笑)。
調整といっても素人がいじるところは限られていて、最適な整流管、ドライバー管をいろいろ差し換えて確認するだけである。その結果、整流管はマルコーニの「5U4G」にすんなり決まったのだが、ドライバー管には苦労した。
現在、1920年代製の「71A」真空管を使っているが何せブランドが沢山あって「ナス管」「ST管」それぞれに音が違う。それに加えて電流が余計に流れる別種ともいえる「71」という真空管もあって、大いに迷ったが結局最後はこの「71」で落ち着いた。一長一短だが、ま、いっか~。
予定どおり3人組が雁首を揃えたのは11時ごろですぐに試聴に入った。
Kさん宅の「80」から凄い低音が出ているのにはいつも驚く。「80」に悩む人の口癖は決まっていて「高音域がキンキンキャンキャンして聴きづらい、低音が物足りない」というのだが、この音はそれとはまったく無縁である。
駆動しているアンプは「KT〇〇」という稀少管でトランス・ドライブのシングル型式。「低音がこのくらい豊かだと楽ですねえ」と思わずため息が出る。
次に「80」からすぐ横に位置するラウザーの「PM6」に切り替えてもらった。アンプはKさん宅のエース的存在のレイセオンの「250」シングルアンプ。同じイギリス製のスピーカーなので「80」とは音の傾向が実によく似ていて、ちょっと聴きには区別がつかないほど。
この「PM6」は「80」以上に鳴らすのが難しいとされていて、例によって下手に鳴らすと「キンキン、キャンキャン」組だがエージングを3か月ほど連日繰り返されてようやくここまで来たとのことで、この16センチ口径のユニットから信じられないような低音が出ている。畢竟レイセオンの「250」アンプの面目躍如といったところだろう。
一同大いに感心しながら、試聴を一時中断してクルマで10分ほどの近くのお店で昼食タイム。
戻ると午後の部に入ってすぐに持参した「PP5/400」アンプへ切り替えて結線完了。
いよいよ待望の音出しだが、何だかおかしい!アンプのシャーシを叩くと盛大に反響音がする。
「これは発振してますよ」とKさん。
「エーッ」と思わず青くなった。我が家ではよかったのだがいきなり他家のシステムに組み込まれるとこういうことがよく起る。
おそらくドライバー管のゲインが高過ぎるようだ。良かれと思って「71」にしたのが仇となってしまった。「普通の71Aはありますか?」と、慌ててKさんにお訊ねすると、古典管の在庫が豊富なKさんがすぐに取り出されたのがマグネシウム・ゲッターの新品「71A」。
これに挿し替えてスイッチ・オンすると発振が無事収まった。まったくデリケートなアンプ!
しかし、肝心の音の方が何ともショボイ音がして一難去ってまた一難。「PP5/400にしては何だか冴えない音ですねえ」と一同首をひねるばかり。
「晴れの檜舞台」になるはずがと、こちらもトホホ。
我が家ではいつもプリアンプを外して聴いているので、Kさんのシステムとの相性の悪さがモロに出来てきたかなと半ば諦めていると、30分程経ってからようやく本領を発揮しだした。どうやらまっさらの新品の「71A」(ドライバー管)のエージングが足りなかったようだ。
「ようやくPP5/400本来の音になりましたね~」とSさん。ああ、よかったと胸を撫で下ろした!
レイセオン「250」の筋骨隆々とした逞しいアメリカン・サウンドに対してヨーロッパの貴婦人を思わせる上品なブリティッシュ・サウンドの対決は実に興味深かった。こんな贅沢な試聴が出来るなんてまったく「オーディオ冥利に尽きますねえ」と一同大いに悦に入った。
「80」の次はラウザーに切り替えてもらったが、「80」と遜色のない音で音声信号に対する反応の速さは「80」よりも明らかに一枚上だった。
「ラウザーからこんな素晴らしい音が聴けるのなら、つい先日のオークションに出品されていたPM4Aを落札しておくべきでした。随分迷ったのですがねえ~」と口惜しがるSさん。落札期日以前にこの試聴会を開いていたら、おそらく購入されたことだろう。運命の糸はほんとうに気まぐれである。
それからこの日の大きな話題は「タンノイ」の最初期のユニット「ブラック」が或るショップからペアで430万円で売りに出されていることだった。Sさん所有の「シルヴァー」があんなに凄い音なので「ブラック」の音となるとおよそ想像がつくが、世界的に見ても稀少なユニットがはたして「どなた様」の手に落ちることやら(笑)。
試聴会を終えて無事我が家に着いたのは18時35分だった。今日はほんとうに「いい一日」だったなあ~。
20時ごろにSさんから次のようなメールが届いた。
「〇〇さん。本日もお陰様で貴重な体験ができました。正直、世の中のオーディオシステムの中でヴァイオリン・ソナタを最も美しく奏でるのは、AXIOM80とPP5/400のコンビ以外にはあり得ないと半ば確信してきました。
しかし、角フレームPM6とPP5/400のコンビが奏でるヴァイオリンの音色は、高域の抜けの良さと倍音の響きで正にその上を行っている感がしました。噂には聞いていましたがラウザー恐るべしです。
そして改めてPP5/400恐るべしです。しかし、もしかしたら逃した魚(角フレームPM4A)は大きかったかも知れません。尤も、あそこまでラウザーを鳴らしきるのは、Kさんの力量故なのでしょうが・・・。最近は我が家の音に結構満足していたのに、まだまだ目指す頂きは遥か彼方にありそうです。オーディオもまだまだ色々とチャレンジし甲斐があります。
それでは、次回はJBLシステムの音を確認しに別府へお邪魔いたします。〇〇 拝」