例によって今日(28日)、朝一で過去記事のランキングを見ていたら「シンプルな響きの心地よさ」というタイトルが上位にランクされていた。遡ると2011年10月の記事だからおよそ4年前に投稿したもの。
どんな内容だったかなと、読み返してみると我ながらなかなかの出来栄えだったので(笑)、一過性では勿体ないとばかり以下のとおり再度upさせてもらうことにした。
20cm口径のフルレンジSPユニット「リチャード・アレン」を取り付けたボックスを作ってから早くも2週間あまり。
我が家の第三システムとして活躍中だが、これまで主流としてきたやや大掛かりなシステムと、こうした小さくてシンプルなシステムとの対比の妙が実に新鮮で、我が家のオーディオにこれまでにない新鮮な空気を吹き込んでいる。
アンプとスピーカーとを合わせてもわずか10万円足らずのシステムが何倍以上もするシステムと張り合うのだからほんとうにオーディオは面白い。
もちろん、それぞれに音楽のジャンルによって得手・不得手があるわけだが、低音域の量が少ないことによって得られる全体的な(音の)「清澄感」はなかなか捨てがたいものがあって、喩えて言えば、ヘッドフォンで聴く「音」のピュア感といったものに通じており、我が家での存在感が増す一方である。
ここで改めて「フルレンジ・タイプ」のメリットを述べておくと、先ず低域と中域のクロスオーバー付近に生じる「音の濁り」が存在しないこと、第二に口径の大きなユニットはそのコーン紙の重さによって音声信号への追従性が悪くなって音が鈍くなるが、その点小さな口径の場合はシャープな音が期待できること。
低音域の処理についてはこれまで散々悩んでいろんな対策を講じてきたが、いまだに解決できていないので我が家では最大の課題となっている。
と、ここまで書いてきてふと思い出したことがある。
昔、昔のそのまた昔、五味康祐さん(故人:作家)の著作「西方の音」の多大な影響を受けてタンノイに傾倒していた時代に、タンノイ(イギリス)の創設者の「ガイ・R・ファウンテン」氏が一番小さなスピーカーシステムの「イートン」を愛用していたという話。
ちなみにタンノイにはG・R・Fという高級システムがあるが、それはガイ・R・ファウンテン氏の頭文字をとったものである。
タンノイの創設者ともあろうお方が「最高級システムのオートグラフではなくてイートンを使っているなんて」と、その時はたいへん奇異に感じたものだった。
総じてイギリス人はケチで、いったん使い出した”もの”は徹底的に大切にすると聞いているので「この人はたいへんな節約家だ」と思ったわけだが、ようやく今にして分かるのである。
何も大掛かりなシステムが全てに亘って”いい”というわけではなく「シンプルな響き」が「重厚長大な響き」に勝る場合があるということが・・。
さて、「このイートンの話はどの本に書いてあったっけ」と記憶をたどってみると、「ステレオサウンド」の別冊「世界のオーディオ~タンノイ~」(昭和54年4月発行)ではないかと、およそ想像がついた。
手元の書棚から引っ張り出して頁をめくってみると、あった、あった~。
本書の75頁~90頁にわたってオーデイオ評論家「瀬川冬樹」氏(故人)がタンノイの生き字引といわれた「T・B・リビングストン」氏に「わがタンノイを語る」と題して行ったインタビューの中に出てくる逸話。
ちなみに、この「瀬川冬樹」さんがもっと長生きさえしてくれたら日本のオーディオ界も今とは随分と様変わりしていたことだろうと実に惜しまれる方である。
話は戻ってガイ・R・ファウンテン氏が「イートン」を愛されていた理由を、リビングストン氏は次のように述べられている。
「彼は家ではほんとうに音楽を愛した人で、クラシック、ライトミュージック、ライトオペラが好きだったようです。システムユニットとしてはイートンが二つ、ニッコーのレシーバー、それとティアックのカセットです。(笑)」
(そういえば「ニッコー」とかいうブランドのアンプもあったよね~。懐かしい!)
「てっきり私たちはオートグラフをお使いになっていたと思っていたのですが、そうではなかったのですか・・・・」と瀬川氏。
「これはファウンテン氏の人柄を示す良い例だと思うのですが、彼はステータスシンボル的なものはけっして愛さなかったんですね。その代り、自分が好きだと思ったものはとことん愛したわけで、そのためある時には非常に豪華なヨットを手に入れたり、またある時にはタンノイの最小のスピーカーを使ったりしました。」
「つまり、気に入ったかどうかが問題なのであって、けっして高価なもの、上等そうにみえるものということは問題にしなかったようです。~以下、略」
ファウンテン氏のこうした嗜好はオーディオの世界に”とかく”蔓延している「ステータスへの盲信」の貴重なアンチテーゼとも受け取れるが、30年以上も前からこういうことが指摘されていたなんて今も昔もちっとも状況は変わっていないようだ。
同じタンノイの「ⅢLZ」とか「スターリング」とかの比較的小さなSPをいまだに愛用されている方が後を絶たないのもよく分かる。おそらく自分とは違って背伸びすることなく良識があってバランスがとれた方なのだろう(笑)。
とにかく、口径20cm度のフルレンジのユニットの「濁りのないシンプルな響き」には心を癒されるものがあるので、現状の音に「物足りなくなった方」とか「飽いてきた方」にはセカンドシステムとして活用されるといかがだろう?
身近に比較できる音があるのとないのとでは大違いで互いのシステムの欠点が把握しやすいのも大きなメリットの一つだと思うのだが。
最後に一言。
現在(2015.6.28)、このリチャードアレンは第三システムの「AXIOM80」(復刻版)によって交替を余儀なくされ大切に保管中となっています。