読書の楽しさといえば、読み進んでいるうちにストーリーにグイグイ引き込まれて夢中になってしまうことに尽きる。
昔の人は上手いことを言っていて「巻を措(お)く能(あた)わず」、巻とは本のことで「読みだしたら本を閉じることができない、つまり最後まで一気に読んでしまうほど面白い」。
そして、もう一つの楽しみはお気に入りの作家を何ら予備知識なしに発掘することにある。
たまたま図書館の新刊コーナーで見つけて借りてきた本書はこの二つを兼ね備えていた。
短編集で「9話」収められており、それぞれがまさに「奇談」というか、SF、ホラー、ファンタジーが青春を横断している感じがする。
何よりも冒頭の一編について、具体的な生々しい描写は全くないのにも関わらずひどく扇情的に読んでしまった。
とある「古書店」に明治時代の日記が持ちこまれた。
その日記には子供が出来ないために姑や夫から虐められる若妻の嘆きが記されていた。子供が出来ない理由は、夫の方に原因があったのに・・。
その若妻が神社でお参りしてさめざめと嘆いていたところ、若かりし頃のその古書店主がたまたま通りかかって・・・。
そして、姑と夫が大喜びする中で10か月後にめでたく子供が生まれたと日記に綴られていた。当日にどういう展開になったかおよそ想像できますね(笑)。
時代背景が「明治」というのが利いていて、当時はDNA検査なんてありませんからね~。
「横田順や」さんかあ・・、こりゃあ楽しみな作家を見つけたぞ!
以後、新刊が出たら欠かさず読ませてもらおうと、張り切っていたら、末尾の「編者解説」(日下三蔵)にこうあった。
「19年1月、心不全のため自宅で亡くなっているのが発見され、愛読者は悲しみに包まれた。だが没後も雑誌の追悼特集や追悼展が開かれ、こうして作品は刊行され続けている。作家は肉体が滅んでも作品が読まれ続ける限り、世の中から消えることはない。」
横田さんはSF作家として有名だったそうで、まことに惜しいことをした。
合掌
もう一冊、「平成古書奇談」以上と言っていいほど「巻を措くこと能わず」の本がこれ。
著者は過去にこのブログでも取り上げた「骨を弔う」で大注目の「宇佐美まこと」さん。
男性作家といってもいいほど次から次に骨太の人物が登場するが、れっきとした女流作家(愛媛県在住)である。
とにかく、登場人物の描写がうまくて、まるで実在の人物のように生き生きと活動するのが持ち味で、それにミステリー要素も加わって最後は読者があっと驚く仕掛けが講じられている。
そして、精神薄弱者や ”のろま” など日頃から虐げられた人間に対する眼差しがとても暖かいのが特長で、本書も例外ではない。
読者レヴューにこういうのがあった。
「どんな小さな事でも犯罪を肯定したくない。しかし、なぜだか宇佐美氏にかかると読後感の良きこと。地元の仲間、仕事の仲間。おじさん達の信頼関係は羨ましいほどに気持ちがいい。皆、人の心がわかる素敵な人達ばかり。『幸せですか?』それはその人の学歴でも仕事で成功する事でもない。もっと内なるもの。この本を読んで優しくなれる人は沢山いることだろう。」
以上の二冊は機会があればぜひお読みください。時間の無駄にはならないことを保証します。とはいっても責任はとれませんけどね(笑)。
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