今日は二十四節気のひとつ立秋です。今日もなかなかの暑さですが、暦の上では誰が何と言おうと秋です(オイ…)。
秋感は皆無な感じですが、折角今日から『秋』だっていうのですから秋に因んだ音楽を聴こうと思って我が家のレコードやCDをあさってみました。それで、最終的にはやっぱりベタなところでヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲《四季》の第3番『秋』になりました。
ところで、ヴィヴァルディというと先ず思い浮かぶのは
このイケメン肖像画でしょう。これはボローニャにあるものなのですが、実際にはヴィヴァルディであるかどうかの確証はないものだそうです。
それよりも確証がある肖像画が
これです。これはアムステルダムで出版した《四季》を含む協奏曲集『和声と創意の試み 作品8』の楽譜の販売促進のために、フランス系オランダ人画家のフランソワ・モレロン・ド・ラ・カーヴに1725年に描かせた銅版画です。
ただ、これは本人が自身のプロモーションのため描かせたブロマイド的な絵姿ですから、かなり美化されていると思われます。そもそもヴィヴァルディはオランダには行っていないので画家が直接顔を見て描いたわけではありませんから、恐らくヴィヴァルディサイドが 何らかの肖像画を送ってそれを元に印刷用に版刻されたと考えられますので、果たしてヴィヴァルディの実像にどこまで近いかは眉唾です。
本人に一番近いと言われているのが
このカリカチュア(風刺画)です。これは、マルケ地方出身の風刺画家ピエール・レオーネ・ゲッツィが描いたものです。
ゲッツィはローマでピエトロ・オットボーニ枢機卿に仕えていました。ヴェネツィア出身で後に教皇アレクサンデル8世となるオットボーニ枢機卿は音楽家を保護していて、中でもアルカンジェロ・コレッリはその一番のお気に入りだったといいます。
1723年にゲッツィは、オペラを上演するためローマを訪れ枢機卿邸に滞在していた、当時45歳のヴィヴァルディと出会いました。後にゲッツィは
1枚の絵に鼻の大きな三人の聖職者の戯画を描いたのですが、そのうちの左側に描かれた一人の カリカチュアの下に『赤毛の司祭。1723年のカプラニカ劇場上演演目のオペラを作った作曲家』と書かれているので、これがヴィヴァルディであることに間違いありません。
先の二つの理想化されたものと違ってこちらはかなり意地悪な風刺画ですので、鼻などがかなりデフォルメされています。それでも三人の中では一番まともに描かれているので、ヴィヴァルディの容貌の特徴をよくとらえているのではないかといわれています。
はたして実際にヴィヴァルディ自身がこれを見たのか、そして見たとして怒ったのか笑ったのか、それは定かではありません。ただ、これが一番実像に近いだといわれても、例えば学校の音楽室でバッハやベートーヴェンたちの肖像の横にこのカリカチュアを並べられたとしたら、とてつもない違和感を放つことだけは間違いありません(汗)。
《四季》にはそれぞれの曲と楽章にソネットという詩が添えられています。そして 『秋』の各楽章に添えられたソネットは
【第1楽章】
村の若者は歌と踊りで祝う
Celebra il Vilanel con balli e Canti
豊作の大いなる喜びを
Del felice raccolto il bel piacere
みなバッカスの神酒にほほ火照らせ
E del liquor di Bacco accesi tanti
眠りの中で愉悦を終える
Finiscono col Sonno il lor godere.
【第2楽章】
喜び漂う雰囲気に
Fa ch'ogn'uno tralasci e balli e canti
みな踊りも歌も半ばに
L'aria che temperata da' piacere,
季節がら我も彼も誘われ
E la Staggion ch'invita tanti e tanti
甘き眠りをたっぷり味わう
D' un dolcissimo Sonno al bel godere.
【第3楽章】
夜明け早々狩人らは
I cacciator alla nov'alba a' caccia
ホルンに猟銃 犬を従え いざ狩へ
Con corni, Schioppi, e canni escono fuore
逃げる野獣を追跡する狩人ら
Fugge la belva, e Seguono la traccia
猟銃の轟音と犬のほえ声にうろたえ
Gia' Sbigottita, e lassa al gran rumore
疲れ果て 傷を負い歯向かうも
De' Schioppi e canni, ferita minaccia
逃るのに疲れ 追い詰めらて 野獣は死んでいく
Languida di fuggir, ma' oppressa muore.
というものです。如何にもヨーロッパの秋らしい、のどかな光景が目に浮かぶものとなっています。
そんなわけで、立秋の今日はヴィヴァルディの『秋』をお聴きいただきたいと思います。楽譜を御覧になりながら、第1楽章の浮かれ騒ぐ酔っぱらいや第2楽章の星のきらめき、第3楽章の狩猟ホルンの音や、猟犬や猟銃に追われる獣の様子を想像してみてください。
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