じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

田中慎弥「共喰い」

2018-05-21 17:37:12 | Weblog
☆ 田中慎弥さんの「共喰い」(集英社文庫)を読んだ。後半の筆運びは見事だった。

☆ サディストの父親とその血を受け継いだ息子。母親は父親の暴力に耐えきれず離婚。継母は父親の暴力に耐えながら、子どもを身ごもったのを機会に家を出ていく。

☆ 父の毒牙は息子の彼女にも。そして近くの神社の祭礼、豪雨の中で終焉を迎える。激しい雨音、水墨画のように霞む風景、人間の業が淀んだようなどぶ川の匂い、五感が震える。もはや作品から逃れられない。

☆ 川辺を憎みつつ、川辺でしか生きられない人々。どぶ川のヘドロの匂いとそこに生きる命。どう猛、原初的、動物的な人間。ギラギラした命の喘ぎがムンムンと伝わってくる。

☆ 豪雨の後の静寂。悪臭を押し流し、新たな始まりを予感させるのが救いだ。
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川上弘美「消える」

2018-05-21 10:16:50 | Weblog
☆ 川上弘美さんの短編集「蛇を踏む」(文春文庫)から「消える」を読んだ。

☆ 「このごろずいぶんよく消える」から物語が始まる。長兄が消えたというのだ。消えたと言ってもその存在らしき気配は感じるという。こういう設定はカフカの「変身」のようだ。ところがこの家族は家族全体が何やら変形する。長兄の許嫁(後に次兄の妻になる)は、日々縮小していくし、婚姻が決まった主人公は日々膨張していく。

☆ 肉体と言った物質をもたない霊体の話のようにも思える。難しく考えれば「実存」とは何か。

☆ 家族にはそれぞれしきたりがある。これなどは現実をうまくデフォルメしているのかも知れない。
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三浦しをん「森の奥」

2018-05-21 08:50:55 | Weblog
☆ 三浦しをんさんの短編集「天国旅行」(新潮文庫)から「森の奥」を読んだ。

☆ 中年男が樹海で自殺を試みたが失敗。ふと通りがかった青年に助けられた。そしてなぜか青年と二人して樹海の奥へと入っていく。青年は樹海を踏破するというが・・・。青年と行動を共にする中で、中年男にも生への執着が生まれる。崖っぷちの状況で、見知らぬ男二人に友情にも似た親近感が生まれる。

☆ 内容はちょっと恐ろしいが、わかりやすい文章で心地よく読めた。
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