はりさんの旅日記

気分は芭蕉か司馬遼太郎。時々、宮本常一。まあぼちぼちいこか。
     

本で旅する日本の秘境

2015-03-17 16:44:41 | 本の話
「秘境」という言葉はいい響きを持っています。

ヤマケイ文庫から出ている『定本日本の秘境』岡田喜秋著は、すばらしい紀行文だと思います。
昭和30年代(1955年)に日本各地の山・谷・湯・岬・海・湖を歩いた記録です。

はじめの章「山頂の湿原美と秘湯ー赤湯から苗場山へー」を読んだ瞬間から、ガツンと一発パンチを食らった感じがしました。
赤湯は前々から一度は行ってみたい秘湯で、地図やネットで調べていた温泉です。
赤湯に行くには、関越自動車道の湯沢インターでおりて、苗場プリンスホテルスキー場前から林道を6キロ走って、そこから徒歩2時間という行程です。(赤湯温泉は今でも秘湯です)

さて、苗場スキー場が出てきましたが、まだ行ったことはありませんが、おしゃれなリゾートスキー場という感じがします。
ところが『日本の秘境』では、「私がこの一般コースをとらずに、わざわざ迂回コースを選んだのは、その途中に、赤湯という忘れられたような古めかしい温泉宿があることに心ひかれたためだったが(中略)元橋という集落はその入口にあった。 バスを降り立ったとき、道端に一軒しか家がないのにちょっと驚いたが(中略)予期に反してここには電気がなかったのだ。夏のさなかに赤々と燃えるいろりのかたわらに座っても暑さを感じないのは、ここがすでに海抜1000メートルに近い高地であることを物語っていたが、ランプをたよりに夜食をとるひとときは、さらに都会から遠い時代錯誤な旅情を感じさせた。」

どうですか、60年前の元橋(苗場スキー場)周辺はこんな感じだったようです。60年も経ったら変わるのも当然ですが、近くに新幹線や高速道路ができ、いろりの宿からリゾートホテルへの変化は、日本の60年間を象徴しているようです。

昭和34年(1959年)の「夏油(ゲトウ)という湯治場へー奥羽山中の秘湯ー」では、「日本のあらゆる山の中でダムがつくられ、谷らしい谷間はすべて電源開発の名のもとに水がたたえられている今日だ。山中に住む人々はその文明開化を文化の進展として、よろこんでいるだろう。煙を吐く汽車が次第に姿を消してゆく。それを残念だと感じるのは、「現在」に食傷した人間の酔興だろうか。」と書いています。

当時は、いたるところでダム工事が進められていた時代で、この本にも度々そのことが書かれています。
時代が動いていたのがわかります。それは不便が便利になったのと同時に、何かが失われた時代だったような気がします。

なんか深刻な話になってしまいました。
でも、この本を読むと昭和30年代の日本の原風景のようなものが見えてきます。


(鷲羽岳から望む三俣蓮華岳と黒部五郎岳 2011年夏)

ここも秘境といえるでしょう。


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