平成23年2月3日(木)
私の二人の子どもは、私が、小学校に勤務していたので
二人とも最初は母乳、産休明けはミルクで育ちました。
子どもに最初は、母乳を与える時に、上の子のときには乳首をくわえさせる前に
その周りを丁寧に消毒綿で拭いていました。
乳首の周りに菌が付いていると本に書いてあったからで、また、
授乳時に母親の乳首や乳房をきれいに拭くための
消毒薬品をしみ込ませた清浄綿が売られていたからです。
その清浄綿で拭いているのを祖母が見ていて、
「拭くならお湯で湿らせたタオルで十分」といっているのを聞いて
その清浄綿を使うのをやめました。
二人目の子どもとなると、哺乳瓶の煮沸消毒もそれほど神経質にしなくなりました。
昨年、母乳についてのお話を聞きましたが、その時には、
「乳首の周りについている菌は、赤ちゃんが母乳を飲んでいる時に
その菌をなめて、体の中に取り入れ、体内に免疫をつくるために
必要な菌であることが最近分かった。」
と言うのです。
赤ちゃんは、ハイハイを始めると、その移動距離は長くなります。
そうすると、もっと強い菌と出会うことになります。
そのために、ハイハイをし始める前に「舐めまわし期」といって、
身の回りのものを何でも舐めようとする行為が見られるのです。
だから、消毒してしまうと、体内に菌を取り入れ、その菌に対する免疫を
つくる機会が残念ながらなくなるということなのです。
感染免疫学者である藤田紘一郎さんは、
先日の日経新聞の夕刊で
「典型的な循環社会といわれた江戸時代から培われてきた日本人のきれい好きは、
明治時代の衛生思想、戦後の寄生虫対策などを契機に
一段と強まってきたのではないでしょうか」
と言い、
この清潔志向を一層強める推進力の一つが、
“きれいビジネス”の広がりだったと指摘します。
「きれいがビジネスになるということで、
抗菌や消臭を売りにした商品が盛んに宣伝されるようになりました。
トイレや部屋の消臭剤やゴキブリやカの殺虫剤などが日常生活で使われだしたのです」
また、
食生活の変化でも「腸内細菌は免疫を作り、
自然治癒力の源泉にもなっている大事なものです。
それなのに、日本人の体内では減っています。
それは大地で育つ野菜や果実の摂取量が減る一方で、
防腐剤や添加物入りの食べ物などをたくさん食べていることとも
関係があると思います」
と言います。
また、藤田さんは、清潔志向が
異物を排する考えにつながるのではないか
を心配しています。
日本の清潔志向は、
「いい、悪い」をすぐ類型化しがちで、
これが社会の多様性を否定し、
「異なる物を排除する」動きにつながる恐れがあることを、
藤田さんは懸念しているのです。
最近、加齢臭などを消すせっけんが、人気があります。
それは、
「においを出すと、周りに同化できず、目立つ存在になると考えるからでしょう」
と考えます。
藤田さんは、
「特定のにおいを持つ人を非難することは、
『排除の論理』にほかなりません。
最近は加齢臭という言葉もよく聞きます。
誰にもある体臭を過剰に意識するようになると、汗もかけなくなる。
自分のにおいを消すことは、『個』を消すことにもなります。
学校や企業でもみんなが均質化して、
個性がなくなると社会全体の免疫力が低下する恐れがあります」
と言います。
「今の日本では『いい、悪い』を峻別し、
悪と決めつけると徹底していじめる傾向がある。
一つの流れに乗ってしまうのです。
しかし、いろいろな人間がいて成り立つのが社会です。
効率優先になると、いわゆる優秀、役に立つといわれる人だけが
大事にされるようになる。
『みんなの生きる力を呼び起こすべきだ』
『異なる物を排する会社や組織にはなってほしくない』
ということを強調して言いたいと思います。
清潔志向が、
日本人特有の感性を衰退させ、
人間らしくない理性を失った行動をしたり、
精神的な面を含めて
生き物としての生命力が低下したりすることにも
つながっていくのではないかと 危惧します。