勝手に映画評

私の見た映画を、勝手に評論します。
基本的に、すべて自腹です。

沈まぬ太陽

2009年10月25日 | 邦画
山崎豊子の、とある航空会社の腐敗を描いた長編小説。小説なので、この国民航空は【一応】実在しない架空の航空会社と言う設定ですが、モデルとなったのは日本航空と言うのは一目瞭然です。

また同時に、小説の登場人物も実在の人物を髣髴させところが多々あります。しかも、その描写は物事を一面からしか見ていない描き方で、非常に誤解を耐える描き方であるという事で、原作の出版時に日本航空側から山崎側に「事実無根」あるいは「事実錯誤」として、様々な抗議があったといわれています。それが為に、この小説は、未だに日本航空では一種の禁書であるとか・・・。

今回の映画化に際しても、その原作の内容が影響を与えています。その一つとして、日本航空側から製作側に抗議が為されたと言われており、それが当初予定よりも公開までに時間が掛かった一因です。製作者に、最近の映画では必ず名前が入る放送局が入っていないのも、その抗議が遠因です。それにしても、日本航空が経営に陥った今、この作品が映画化・公開されるのは、何かの皮肉なんですかね?

前置きが長くなりました。主人公恩地は、実在の人物小倉寛太郎氏がモデルの一人となっています。小倉氏は、長期間に亘る海外僻地勤務を強いられ、日航123便墜落事故の後には会長室の部長に、そして会長が失脚した後は再びアフリカへと、映画に描かれたような経歴を繰り返します。あれは、映画の中の話では無いんですね。そしてそんな恩地を演じたのは、渡辺謙。やっぱり彼は、骨の有る男を演じるのが上手いですね。実際の小倉氏を見たことは無いんですが、こんな筋を通す男だったんですかね。熱いです。

その恩地の同期で、後に袂を分かち、様々な策謀を画策する行天を演じるのは三浦友和。いやぁ、彼のダークな面を持つ演技も良いです。彼本人を嫌いになってしまいそうでした(苦笑)。ちなみにこの行天にはモデルとした特定の実在人物はいないとされています。あんな人がいたら嫌ですよね。

国民航空再建の為に送り込まれてくる国見会長のモデルは、カネボウの伊藤淳二氏です。この小説では、企業再建の為に送り込まれてくる改革家と言うイメージですが、その後のカネボウ解体の伏線となったのは、伊藤氏の頃。伊藤氏に、本当に日本航空改革の力があったのは未知数とも言えます。それはさておき、国見会長と恩地が、羽田空港で新年一番機を見送るシーンがあるんですが、これを撮影したのは、気温40℃のタイの空港。画面では、寒い冬にちゃんと見えていますけどね。そんな暑い中なのに、シレッとした表情で冬を演じているのは流石です。

前述のような経緯があるので、撮影に際しては、当然日本航空の協力は得られていません。よって航空機のシーンは全てCGとなっているんですが、突っ込みどころ満載です。あまり本質ではないので、特に記しませんが、「そりゃ無いぜ~。」と言う感じです。

他方、圧倒された映像もあります。遺体安置所となる体育館に並んだ123便事故で犠牲となった人々の棺の映像です。事故現場の再現では「クライマーズハイ」の方が一枚も二枚も上ですが、体育館に並んだ数多くの棺の映像は、実際のあの事故の記憶が明確にあるだけに圧倒されました。上映中の会場も、針が落ちても聞こえるくらいの感じの静けさでした。他の観客も、思い出していたんでしょうね。

それにしても、よくもあの小説を映画化しました。途中、10分のインターミッションを挟むという非常に長い作品になってしまいましたが、あれ以上短くするのは無理でしょうね。あの3時間を越える長さでも、映像にされていないシーンは沢山ありますからね。

映画は、何とも治まりの付かない気持ちのまま、終わってしまいます。最後にハッピーエンドなどを求めてはいけません。原作の内容に関しては、色々と曰くがある作品ですが、一見の価値はあります。

タイトル 沈まぬ太陽
日本公開年 2009年
製作年/製作国 2009年/日本
製作総指揮 角川歴彦
監督 若松節朗
原作 山崎豊子
出演 渡辺謙(恩地元)、三浦友和(行天四郎)、松雪泰子(三井美樹/CA・行天の愛人)、鈴木京香(恩地りつ子)、石坂浩二(国見正之)、神山繁(桧山衛/社長)、横内正(小暮/社長)、柴俊夫(堂本信介/社長)、小野武彦(道塚一郎/運輸大臣)、香川照之(八木和夫)、宇津井健(阪口清一郎)、木村多江(鈴木夏子)、清水美沙(小山田修子)、鶴田真由(布施晴美)、戸田恵梨香(恩地純子)、柏原崇(恩地克己)、草笛光子(恩地将江)、加藤剛(利根川泰司/総理)、品川徹(龍崎一清/利根川の参謀)、小林稔侍(竹丸欽二郎/副総理)、矢島健一(青山竹太郎/民自党代議士)、田中健(井之山啓輔/社進党代議士)、大杉漣(和光雅継/監査役)、西村雅彦(八馬忠次)、風間トオル(沢泉徹)、山田辰夫(古溝安男)、菅田俊(志方達郎/整備士長)、松下奈緒(桶田恭子/国民航空123便CA)、小日向文世(国民航空123便機長)、長谷川初範(航空管制官)

[2009/10/25]鑑賞・投稿

パイレーツ・ロック

2009年10月24日 | 洋画(イギリス系)
1966年、ブリティッシュ・ロックが世界に発信されていたが、その本家本元のイギリスBBCでの放送時間は一日わずか45分! しかしロックを求めるイギリス国民は、海賊放送を聞いてロックを楽しんでいた。と言う時代背景の下、全てが実話と言うわけではないですが、この時代にあった海賊放送をベースに作られた映画です。

面白いですね。海賊放送が船から放送されているなんて、本当に海賊放送な訳ですが、恐らく沿岸トロール船を改造したと思われる海賊放送局には、なんとスタジオが複数ある設定。そして、“DJ”の名のとおり、MC自らレコードを掛けたりしています。古き良き時代と言う感じです。

面白いのが、この海賊放送が、違法ではないと言う事。流石、自称独立国の「シーランド公国」を生んだ国。ちなみに、この「シーランド公国」も、公海上にあったのでイギリスの司法権が及ばないと言う事で、違法では無いんですねぇ。もっとも、この事件の後、領海が広げられて、「シーランド公国」もイギリスの領海内になった訳ですが、法は訴求適用しないので、今も「シーランド公国」は続いています。

基本、最後の結末の辺りになるまで、物語は、若さと馬鹿さ(!)に尽きますね。1960年代後半の雰囲気を反映して、自由恋愛的な事も数々劇中に描かれています。PG12なのは納得ですね。

イギリス映画なのですが、政府の役人以外は、あまりクイーンズイングリッシュではないですね。この辺りの考証(?)は、割とちゃんとされているようです。1960年代のイギリスの大衆風俗と言う観点でも、非常に面白い題材ですね。流れる音楽も、聴いたことのあるヒット曲が多いです。そう言う意味でも、見に行って損は無しです。

タイトル パイレーツ・ロック
原題 The Boat That Rocked

日本公開年 2009年
製作年/製作国 2009年/イギリス
監督・脚本 リチャード・カーティス
出演 フィリップ・シーモア・ホフマン(ザ・カウント(伯爵))、ビル・ナイ(クエンティン)、リス・エヴァンス(ギャヴィン)、ニック・フロスト(デイヴ)、ケネス・ブラナー(アリスター・ドルマンディ卿)、トム・スターリッジ(カール)、クリス・オダウド(サイモン)、キャサリン・パーキンソン(フェリシティ)、リス・ダービー(アンガス)、ウィル・アダムスデール(ニュース・ジョン)、トム・ウィズダム(マーク)、トム・ブルーク(シック・ケヴィン)、アイク・ハミルトン(ハロルド)、ラルフ・ブラウン(ボブ)、タルラ・ライリー(マリアン)、ジェマ・アータートン(デジリー)、ジャニュアリー・ジョーンズ(エレノア)、エマ・トンプソン(シャーロット/カールの母)、ジャック・ダヴェンポート(トゥワット)、シネイド・マシューズ(ミスC)

[2009/10/24]鑑賞・投稿

さまよう刃

2009年10月11日 | 邦画
東野圭吾が原作。少年犯罪と、その被害者家族が描かれています。今の時代、結構シャレにならないテーマです。

実は正直、最初は余り見に行くつもりも無かったんですが、原作が東野圭吾と言うことと、あらすじを知って、そのテーマに興味を引かれたので見に行く事にしました。ストーリーは、想像通り進行します。途中の長峰と木島親子&長峰と織部の絡み、そして、物語の結末と、期待(予想)を裏切りません。とは言っても、別につまらないわけではなく、テーマの重さに考えさせられて、物語に入り込んでしまいました。結果として、見に行って正解でしたね。

さて、主人公長峰役の寺尾聰ですが、『半オチ』と言い、『亡国のイージス』と言い、憂いを湛えた男の役が上手い! 長峰は彼以外にはありえないと確信してしまいました。

対する刑事の綾部役の竹野内豊もイイです。犯罪者を取り締まる刑事と言う仕事と、犯罪を犯してしまった犯罪被害者に同情する気持ちの矛盾に悩む青年刑事を非常に上手く演じています。

その竹野内豊を引き立たせているのは、綾部の先輩真野を演じた伊藤四朗。バラエティーのイメージがある伊藤四朗ですが、締める所は締めますね。織部が長峰に、菅野の現れる場所を教えたと言う事が判っていたみたいですが、多分、その可否を織部自身に考えさせながら、不問に付すんでしょうね。最後シーンでは、真野が長峰を撃つんですが、長峰を撃つとしたら真野以外には有り得ないと思いました。

やっぱりいい作品って、主人公も良いですが、脇を固める役者が良くないと、トータルとして良い作品にはならないという事がわかりました。その意味で、この映画は脇も良い役者で固め、非常に見応えのある作品になっています。原作も読んでみたくなりました。でも、読んだら、頭の中に寺尾聰とか、竹野内豊とかが出てきそうです(苦笑)

タイトル さまよう刃
日本公開年 2009年
製作年/製作国 2009年/日本
監督・脚本 益子昌一
原作 東野圭吾
出演 寺尾聰(長峰重樹)、竹野内豊(織部孝史)、伊藤四朗(真野信一)、酒井美紀(木島和佳子)、山谷初男(木島隆明)、長谷川初範(島田)、木下ほうか(伊藤)、池内万作(田中)、岡田亮輔(菅野快児)、佐藤貴広(中井誠)、黒田耕平(伴崎敦也)、伊東遥(長峰絵摩)

[2009/10/11]鑑賞・投稿

ファイティング・シェフ ~美食オリンピックへの道

2009年10月10日 | 洋画(その他)
二年に一度、世界各国のシェフが世界一のシェフを目指して開かれる国際大会“ボキューズ・ドール国際料理コンクール”。世界一のシェフを目指して挑戦するスペイン人シェフ、ヘスース・アルマグロの姿を追ったドキュメンタリー映画。

そんな世界大会が行われているとは知りませんでした。しかも、日本は、結構いい成績をあげているみたいです。この作品の舞台は2007年大会ですが、この年の日本代表の長谷川幸太郎シェフは6位入賞でした。長谷川シェフは、流暢にフランス語を操っているんですが、映画を撮っているとは知らなかったみたいです。単に、インタビューだと思ったんですかね?

さて、主人公のスペイン代表ヘスース・アルマグロ。彼の母国スペインは、食べ物が美味しい国と言うイメージがあるんですが、実はこのボキューズ・ドールでは、余りいい成績をあげていないそうです。なので、彼も上位入賞を狙って、力が入るわけですね。

大会は二日に亘って行われます。出場は成績順。成績の低い国が一日目、高い国が二日目です。スペインは残念ながら一日目。ここでも、スペインの評価が低い事がわかります。(ちなみに日本は、二日目の出場。)一日目終わったあとに自信満々だったヘスースが、二日目に強豪の料理を見ているうちに、段々と自信を失っていく様は、こんなことを言ったら何ですが、カワイイです(笑)。って言うか、二日目に出場している強豪の料理は、素人目に見ても、一日目の出場国の料理に比べ、見た目もキレイで、美味しそう。実力が全然違うと思いました。

それでも、前回優勝のフランス人シェフを講師に招いたりして特訓した甲斐もあって、成績は上昇。ヘスースは、9位になっていました。特訓の最中酷評されていたのでどうかと思いましたが、良かったです。それにしても、同じ目標を持つシェフ同士、国籍は違えども協力し合うんですね。興味深かったです。

ところで、この映画の舞台となるボキューズ・ドールですが、中々盛大な大会です。客席から見える調理場で、課題となる食材を使って、制限時間内に料理を作り上げる・・・、書いていて、何か料理の鉄人だなぁと言う気がしてきました。こう言う現実があるんで、世界でも料理の鉄人が放送されるんでしょうね。

原題の“El pollo, el pez y el cangrejo real”は、当然スペイン語。これは、この2007年大会の課題食材であった、鶏肉、魚、カニを示します。英題だと、“The Chicken, the Fish and the King Crab”とそのままです。

もう少し、何故ヘスースが代表になったのかとか、ライバル国の状況とかを盛り込んで欲しいと思いましたが、中々面白かったですよ。って言うか、ヘスースって、スペインじゃ有名なんですかね? だから、彼の経歴の説明が無いのかな?

参考 Bocuse d'Or

タイトル ファイティング・シェフ ~美食オリンピックへの道
原題 El pollo, el pez y el cangrejo real (英題“The Chicken, the Fish and the King Crab”)
日本公開年 2009年
製作年/製作国 2009年/スペイン
監督 ホセ・ルイス・ロペス・リナレス
出演 ヘスース・アルマグロ、セルジュ・ヴィエラ、ペドロ・ラルンベ、ポール・ボキューズ、長谷川幸太郎

[2009/10/10]鑑賞・投稿