『東北6つの物語』3巻目、『東北ふしぎ物語』をご紹介します。
(岩手)三陸海岸のヤマセ『ヤマセの中で見た町』田沢五月
夏休み、内陸にある自宅から、ひろ子バーバがいる浜辺の小さな町にやってきた四年生の乃々花。
大津波におそわれたせいで、海があるのに泳いだり磯遊びができない。
三陸鉄道に乗って商店街に行くことになり、待ちきれず乃々花は外に出た。
庭にはひんやりした濃い霧-ヤマセがたちこめていて、海も見えない。
道に迷った乃々花は、見たことのない町に立っていた……
赤い屋根の学校に、夏休みで色とりどりのパラソルの海と観光船。
子どもたちの描写が、まるでそこにいるようで。
乃々花が見た景色は、大津波で流された景色。
流されるがれきの上にいた犬のフクは救出された。
ラストはうるっとして、うれしく、読みごたえのある物語です。
(秋田)横手のかまいくら『Tのかまくら』みどりネコ
こわいものが苦手な五年生の虎太郎は、雪まつりの初日に親友の創太とケンカしてしまう。
虎太郎を探す創太から隠れるように歩いていると、
かまくらの中からぬっと男が現れ「タイムスリップできるかまくらを探している」と言う。
男は4年前の話を去年のことのように話し、その後会った創太もかまくらでタイムスリップのような経験をしたという。
タイムスリップしたかもしれないかまくらの神棚は、家型ではなく着物の形-アルファベットのTの形をしていた……
タイムスリップは、かまくらの神棚にまつられている「おしずの神さん」のいたずらかな。
こんなふしぎも楽しいけれど、凍り付いた雪を先生がスコップでガリガリけずっているとか、
落ちてくる雪を見ていると空にのぼっていく感覚になるとか、雪国ならでの描写にぐっときます。
(福島)裏磐梯の五色沼『ふしぎの沼をたずねて』堀米薫
十二歳の誕生日の日、去年亡くなったママから手紙がきた六年生のしのぶ。
おばあちゃんのいる会津若松消印の手紙には
「もう最後まで歩けるよね。パパといっしょに五色沼に来てね。待っているよ」
おばあちゃんに電話すると、亡くなる前のママに手紙を出してくれるよう頼まれていたらしい。
五色沼に行こう!とはりきるパパと一緒に歩く五色沼の道はけわしく……
沼のへりが赤い赤沼、三色の深泥沼、竜がいそうな青緑の竜沼。
弁天沼は広く、ママが好きだったラピスラズリ=瑠璃沼は深い青緑色。
コバルトブルーの青沼、そしてママが好きだったという「母沼」。
自分たちの子どもに自然がつくりだすふしぎを見せたい、
子どもが大きくなったらいっしょに五色沼をめぐりたかった、というママの思いが切なかった。
(山形)山形のケサランパサラン『ケサランパサランの冬』千秋つむぎ
五年生の律は、クラスメイトでおしゃべりの百歌が、神社の鳥居の奥で空を見上げているのを見た。
百歌のおばあちゃんがここで空から落ちてきたものを拾ったケサランパサランは、
桐の箱に入れられ百歌が引き継ぎ、時々おしろいを入れて増やそうとしているのだと。
いっしょにケサランパサランを探そうと言われたが、律はケサランパサランなんて信じていない。
クラスメイトの三木さんは「だってケサランパサランって、ガガイモの種のことでしょ」と……
律は百歌といっしょに、手のひらに乗せても溶けないケサランパサランをみつけたが、飛んで行ってしまう。
百歌は音読が苦手な律のために「音読のことはケサランパサランにお願いした」と言い、
律は百歌が「とっても優しい」としっかり伝え、
三木さんも言い過ぎてごめんとあやまる。
ケサランパサランで仲直りなんて、やっぱりふしぎな力があるんだなと思った。
(青森)青森の三内丸山遺跡『消えた人々〜三内丸山遺跡』岩崎まさえ
六年生前の春休み、公平は家族で三内丸山遺跡へ行った。
多い時は500人ほどが暮らしていたという世界遺産の遺跡では、縄文時代の途中、人がいなくなったことがあるという。
新学期になり、社会の教科書にのっている三内丸山遺跡はちょっとちがうと公平たちが言うと、
青森に来たばかりの美波先生が「私用の教科書を作って」と。
模造紙に公平と千春と連が想像図を書くことになったが、
春休みの写真を見たら遺跡を案内してくれたおじいさんが写っていない……
リンゴ畑を作っている千春のおばあちゃんが発掘作業をやっていたとか、地元ならでは。
写真に写っていないおじいさんの存在も、あったかいふしぎだった。
公平は人々が消えたのは、気候変動があったからではと説明したが、たしかにそうだったかも。
公平たちが作った『三内丸山遺跡のようす(想像図)』を見てみたいと思った。
(宮城)伊豆沼・内沼のガン『渡り鳥のサンクチュアリ』野泉マヤ
リースのためのかわいい材料を仙台市に買いに行くはずだったのに、行けなくなった六年生の花林。
花林の町は田舎で、あるのは田んぼと川と伊豆沼くらいなのが面白くない。
友だちのユナの家に行く途中で、千葉から来たバードウォッチング好きな和真に出会う。
日本に渡ってくるガンの8割がこの沼で越冬するが、なんでここが好きなのかの謎を知りたくて来たと和真は言う。
ガンのV字編隊を見て「あのマガンたちが行く方向に伊豆沼がある」と、和真は自転車で走っていく……
ガンが伊豆沼に来る理由はここに沼と田んぼがあるサンクチュアリだからだった。
「ガンは家族で行動し、群れの意思を尊重する。それだけ強いきずなで結ばれている」ってすごい。
キャワキャワという鳴き声で次のページを開くと、ガンのV字編隊の写真。
こんな構成もすてき。
二十万羽もいるというガンが、早朝にいっせいに飛び立つところの描写は、圧巻だった。
物語を読んでから巻末のおまけページの写真を見ると、
「読んだよ」という気持ちがあるからか、前より身近に感じられるのがふしぎ。


本日、7月10日発売の『東北まつり物語』『東北おいしい物語』『東北ふしぎ物語』。
このあと、半年ほどあとに、第二期の『東北スイーツ物語』『東北偉人物語』『東北こわい物語』出版予定です。
東北だけじゃなく、全国の子どもたちの手にも届きますように。
昨日のみちのく童話会のミーティング、童話塾の細かいところを時間をかけて確認した。
13人で役割分担してやれるのは、ほんとうに心強い。
今日もびよよよ〜〜ん (*^ __ ^*)