数年前、Eテレ「こころの時代」に登場した岐阜県在住の高僧が、寺の修行僧をひき連れてクサギの葉を野山ででいっぱい刈り取ってきて、何度も湯がいてその臭気を取り去り、保存食にして漬物や汁の実としていただいている様子が映し出されていた。
臭くて誰もが見向きもしない葉でも食材として利用が可能ということだ。たしかにWikipediaなどで調べてみると、若葉のうちに何度か手間をかけて臭気を拭い去ると、独特の食味の菜に変化し、山菜として利用できるのだとある。
「路傍の薄汚い土くれでであっても、磨けば琥珀のような輝きを発する、ヒトやモノにはそのような隠れたお宝がある」という教訓を学ぶありがたい講話だったのか、大事なところをわすれてしまった。
まあ、それはともかく、たしかにクサギ(臭木)はシソ科だというのに、その葉っぱをちょっとちぎってにおいを嗅いでみるたまらなく嫌なにおいがする。ナツメ社の樹木図鑑の説明では、この匂いを悪臭と感じるか否かに男女差があって、男性は苦手であっても女性は平気という傾向にある、と記されている。男性は「カメムシ」の匂いと感じるのに対して、女性は「ピーナツバター」の匂いと感じるのだという。そうなのかしら、そうであればこの世界は、男性と女性で見えている世界が違うということなのか、興味深い話ではある。
クサギの葉っぱはそういうことであっても、この真夏に盛りを迎えているクサギの花は、清楚な白い大文字をいくつも天上に向けて「チョウやハチの皆さんおいでください営業中ですよ」という風ににぎやかだ。昼にはおおきなカラスアゲハなどが飛んできて、夜は夜で大型のスズメガの仲間たちがその白さとこの花の持つ芳香に魅かれてやってくるのだという。確かに花の匂いは甘い。
また受粉した花は、秋になると赤いガラス皿に盛られた瑠璃のような宝石に変わるのだから、まったくクサギという木本には興味が尽きない。
ああ、マキノマンタロウではないが、もっと深く植物の個性を観察すればまた格別なこの世の不可思議と美の世界に植物たちが誘ってくれるのかもしれない。
が、この真夏はいたずらに暑く、オイラは植物の前に長く立ち尽くすことはできない。このクサギの美しい宝石の季節にまたやってこよう。
おしべが先に長く伸びて、あとからめしべが伸びだして自家受粉をふさいでいるのだという。
この花だったら夜でも目立つだろう。よるは夜のチョウいやガの仲間がお出ましだ。