同じ125車格のスクーターの
実走比較。
Vespa LX125ie(125cc 空冷
4st 3バルブ SOHC 単気筒
11PS 車重114kg)とYAMAHA
NMAX125(124cc 水冷 4st 4
バルブ SOHC 単気筒 12PS
車重131kg)の乗り比べ。
ベスパLX125ieの本個体は
124ccではなく標準仕様で
125cc丁度の個体。
前輪を正規空気圧よりも僅か
にやや下げても直線では前輪
ステアが非常に軽く、ともす
れば左右への挙動が早いため
不安定さを感じさせるが、実
際にはそれは不安定なのでは
なく、ステアの軽さとして表
れている現象だ。
これが旋回でフォースを与え
るとビタリと安定する。
モノコックフレームと併せて
ステム周りの設計が良質。
ただ、上品でおっとりとした
乗り味ではなく、キビキビと
した走りをもたらすワイルド
なテイストに仕上げられてい
る二輪だ。
通常速度からダブルニッケル
領域での寝かし込み旋回では
さらにビタリと安定する。
全体の動的挙動に関する設計
も完成度が高く、非常に良い
車体。
フレームがとにかく良い。
サスは前後とも硬めだがよく
動き、テイストとしてはクリ
ップオンハンドルのように路
面状況をダイレクトにリニア
に運転手に伝える味付け。好
みは分かれるだろうが、私個
人は好きだ。
また、モノコックフレームは
剛性が高いが、ガチガチでは
なく、Gを与えると張りのあ
るボディがグラデーションの
ようにプログレッシブにしな
やかにしなり、独特のシルキ
ーさを確実に明確に伝えて来
る。
これは車体の特性として明ら
かで、これが感知できないと
なると、ベスパに乗っても腕
の良い板前の鮨職人の握りの
味が皆目解らないのと同じ事
だろう。
どのような乗り方にも応える
上出来の二輪に仕上がってい
る。
また、旋回初動においては独
特なステア感覚があり、前輪
の前端が切れ込んで行くセル
フステア感覚ではなく、前輪
の後端が外を向くような感触
を操縦者に与える。これは独
特の味だ。
前輪のブレーキはプアであり、
ディスクながら制動力はさほ
ど強くない。
変速に関しては、完全停止直
前までエンジンブレーキがか
かるような挙動を見せるが、
時速で8乃至5km/hあたりま
で落ちた時に、まるでマニュ
アル車のNにシフトした時の
ように後軸逆負荷駆動がスッ
と抜けて滑空するような挙動
を見せる。これは国内スクー
ターでは見られない挙動だ。
ハンドルのグリップはかなり
太い。
排気音は、レーシングや低速
走行ではビーンビーンとまる
で2ストの野太い個体のよう
な音がするが、ある特定領域
の速度からはヒューンという
モーター音に似た音質に変化
する。
一方ヤマハのNMAXは、ゼロ
発進加速力はベスパに劣るが、
中速域からグングンと電気モ
ーターのような静穏さで抜群
の加速を見せる。
旋回特性は、まるでヤマハの
1980年代のマニュアルバイク
のような良質なハンドリング
を現出させる。癖が一切無し。
深く寝かし込んで行っても切
れ込みも無し。ジオメトリー
設定引き出しが完成されてい
る。接地感ハンパ無し。
前輪ブレーキは殊の外利く。
1980年代のRZ250の1型ノー
マルよりも利く。
グリップはレーサーのTZグリ
ップ並みに細い。繊細なアク
セレーションにおいて実にコ
ントローラブルな設定にセッ
トされている。
癖のあるベスパに比べると、
ヤマハNMAXは実に良くでき
た125スクーターだといえる。
優等生で非の打ちどころが無
い。
通勤や通学には持ってこいの
良質二輪だ。
唯一欠点を挙げるとしたら、
あまりに優等生の出来の良い
いい子ちゃんすぎて、面白み
に欠ける。
ロックやJAZZやブルーズや演
歌やシャンソンを求める人た
ちには完全に物足りないだろ
う。
まるで、クラシック音楽のコ
ンクールでのコーラスを聴い
ているかのような乗り味がこ
のヤマハNMAXだといえる。
かといって、電子音のエレク
トロニクスミュージックのよ
うな無機質で冷たい乗り味で
はない、人に寄り添った味付
けである。
Vespaの場合は癖が強すぎる
ので、ある程度乗れる人で
ないとVespaの味は理解が難
しいといえるだろう。ベスパ
は乗り手を選ぶ。
だが、ヤマハNMAXも、ある
意味、乗る人を選ぶだろう。
非常に良い特性なのだが、そ
の優等生ぶりに馴染めるかど
うか、という点において。
私の両車両の実走行の感想は
以上。