淡海の城(おうみのしろ) 第32号 平成25年(2013)2月14日発行
近江の真宗と寺内町金森~連続講座第4回にむけて
近江の寺院勢力を語る上で、中世に大きく台頭した浄土真宗は無視できない存在です。浄土真宗は現在までの歴
史の中で、複数の流派に分派していきます。その流れの中で親鸞の廟堂を始原とする本願寺を本山とする流派(現
本願寺派・大谷派)が大きな勢力を持つことになります。
近江の地に浄土真宗がいつ伝播したかははっきりとは判明していませんが、真宗系寺院の伝承等から13世紀頃に
は伝わっていたものと思われます。最初は本願寺以外の教えを受けた門徒衆が興隆し本願寺の寺勢は余り振るいま
せんでしたが、七世存如および八世蓮如が布教に努めた結果、教団を大きくすることに成功します。惣村組織を本
願寺の教団組織に取り込むことで近江各地に門徒集団の拠点となる地が出現し、「寺内町」と呼ばれる寺院を中心
に構成される集落も形成されました。
代表的な「寺内町」として近江では金森が挙げられます。この金森では浄土真宗を巡る騒乱が二度引き起こされ
ました。最初のものは真宗を自教団の一員とする山門(天台宗のうち、延暦寺を本山とする一派)と戦った「金森
合戦」(1466)、二度目は本願寺と織田信長の抗争に連携した「一揆」(1570~2)です。
ただし、この様な騒乱は「宗教」のみを問題にして引き起こされたわけではなさそうです。金森は野洲川の旧流
路に沿った微高地に立地した町で、港湾がある志那へ向かう街道が通過し、琵琶湖に注ぎ込む中小河川がいくつも
分流する地点に近接しており、水陸両方の交通の要衝ともいえます。山門の圧力行使は、真宗門徒が町を掌握して
しまうことにより在地領主としてこの交通の要衝が自らの思うようにならなくなることに対する不満が大きな原因
となっているものと思われます。信長との抗争の場合、対抗する政治権力に加担することがその原因になっていま
す。また、一揆との和睦の後金森に対し楽市楽座令を出していることから、信長はこの地を交通の要衝・物流の拠
点と評価していることがうかがえ、土地の支配に関わる問題も内包している可能性があります。
このように、中世において度々引き起こされた寺社勢力が関わる抗争は、その背景にある政治や土地支配をめぐ
る様々な問題をはらんでいるものといえるでしょう。(上垣)
○連続講座「近江の城郭」第4回 近江一向一揆の拠点~金森・三宅 開催のお知らせ
寛正6年(1465)、山門による本願寺破却(寛正の破却)によって京都大谷の地を逐われた蓮如は、近江金森に身
を寄せます。金森の地は土豪川那辺氏が支配してきた場所ですが、14世紀に本願寺に帰依して惣道場(金森御坊)
が開かれ、これを中心として寺内町が形成されていました。
元亀元年(1570)9月、天下統一を目指す織田信長を倒すため本願寺顕如は諸国の門徒に檄文を発しました。これ
を受けて、近江湖南でも一向一揆が蜂起しましたが、その中心となったのが金森とそのとなりの寺内町三宅でした。
一揆はその後、降伏と再蜂起を経て元亀3年(1572)7月、一揆勢の楯籠もる金森・三宅が開城し、終焉を迎えます。
その後、金森には織田信長より楽市楽座の掟書が下され、織田政権のもとに組み込まれていきます。
現在、金森の地には寺内町を囲う堀の名残を思わせる水路があり、三宅にも土塁や水路の痕跡が残ります。今回
の講座では、文化財専門職員の案内で金森・三宅の寺内町跡を訪ね、現地に残る遺構をたどります。
1.日時 平成25年2月23日(土) 10:30~16:00 ※10:00受付開始
集合:JR守山駅西口広場 全行程約6km(平地・舗装道)
※守山駅到着時刻 上り 10:21(普通) 10:24(新快速)
下り 10:18(新快速)10:23(普通)
解散:守山宿にぎわい広場(JR守山駅まで徒歩10分)
※希望者は、JR守山駅まで職員がご案内します。
2.場所 講義:守山市中心市街地活性化交流プラザ あまが池プラザ(守山市勝部1-13-1)
現地見学:金森寺内町跡・三宅寺内町跡(守山市金森町・三宅町)
4.主催 滋賀県教育委員会
5.共催 守山市教育委員会
6.内容 講義「近江の真宗と寺内町金森」 講師:上垣幸徳(滋賀県文化財保護課)
金森寺内町跡等現地見学 解説:守山市教育委員会文化財保護課専門職員
7.定員 90名(事前申込制)
8.参加費 50円(保険料等実費分)
9.参加申込方法
(1)FAX・電話・メールに住所・氏名(ふりがな)・連絡先(携帯推奨)をお書きの上、下記までお申し込み
ください。
(2)申込締切 平成25年2月21日(木)午後5時
10.持ち物 健康保険証、弁当、水筒、タオル、ウォーキングに適した靴・服装
11.その他
(1)講座資料(A4 8頁程度)を無料で配布します。
(2)単独回のみの参加も可能です。
(3)受講された方には修了証を発行します。
(4)悪天候等による中止の場合は22日(金)午後5時までに参加者に連絡します。
(5)集合場所付近には駐車場はありません。公共交通機関をご利用ください。
11.参加申込・問い合わせ
滋賀県教育委員会事務局文化財保護課城郭調査担当
〒521-1311 滋賀県近江八幡市安土町下豊浦6678 城郭調査事務所
TEL0748-46-6144 FAX0748-46-6145 E-mail ma16@pref.shiga.lg.jp
今後の予定
【第5回】湖賊の自治都市~堅田
日時:平成25年3月23日(土) 13:00~16:30 JR堅田駅集合・解散
場所:堅田市民センター(講義)/大津市本堅田(現地)
講義:諸浦の親郷・堅田 仲川靖(滋賀県文化財保護課)
現地解説:大津市歴史博物館専門職員
シリーズ「淡海の城」(33)
-水茎岡山城(おかやまじょう)(滋賀県近江八幡市牧町)
岡山城は琵琶湖の東岸に位置する標高187mの岡山に築かれた城です。岡山は古来和歌に「水茎の岡(みずぐき
のおか)」として詠まれた名勝の地で、城は別名水茎岡山城(すいけいおかやまじょう)とも呼ばれています。
岡山城は、南北朝期に近江守護佐々木氏が湖上の監視所として築いたとされていますが、室町期には在地領主九
里氏の居城となっています。永正5年(1508)、将軍足利義澄が京都を逐われ、近江に逃亡しました。坂本から長命
寺をへて、最終的に岡山城に入ります。応仁の乱の後、足利将軍家も分裂し、将軍が京都を逐われる事態がしばし
ばおこります。この時は周防の大内氏のもとに身を寄せていた前将軍足利義尹が、京都で権力を握っていた細川高
国と結んで軍勢を率いて上洛しようとしており、高国と敵対する細川澄元と結んでいた義澄は六角氏を頼って近江
へと逃れたのでした。その3年後、足利義澄は岡山城中に没します。
一方、六角氏と対立を深めていた守護代伊庭氏は九里氏と結んでおり、永正15年(1518)六角氏と結んだ細川高国によって岡山城は攻撃を受けます。永正17年(1520)岡山城は陥落し、伊庭氏・九里氏は退城しましたが、その後も戦いは続き、最終的には大永5年(1525)、六角氏の江北出陣の隙を突いて挙兵した伊庭氏・九里氏の残党が、観音寺城の留守居であった後藤氏と戦った黒橋の戦いに敗れ、伊庭氏は歴史の表舞台から姿を消します。岡山城もこの段階で廃城したとされています。
岡山は三つの小丘陵が連なってできて山です。琵琶湖に近い方から頭山(標高147m)・尾山(標高187m)・後
山(標高113m)と呼ばれていますが、このうち頭山・尾山に城の遺構が見られます。また現在は干拓によって失
われていますが、かつては城の南面に内湖が広がり、湖上の浮城のような城でした。頭山は城の本丸といわれてい
ますが、山頂部は造成工事によって城の遺構は破壊されており、わずかに山復部に帯郭状の平坦部が見られるだけ
です。一方、尾山山頂部には城の遺構が良好に残されています。山頂部に二つの郭が並んで築かれ、両者は土橋で
つながっています。また郭の周囲を帯郭が取り巻き、琵琶湖側の外周には土塁が巡っています。南斜面には山麓へ
と延びる竪堀があります。
頭山と尾山との間の鞍部は現在湖岸道路が通っていますが、道路建設に伴う発掘調査で建物礎石と石垣が発見さ
れました。永正5年に岡山城に入った足利義澄の御殿跡ではないかといわれています。
岡山城へは、近江八幡駅より近江鉄道バス野ヶ崎行きで牧町西口下車、湖岸道路までしばらく歩き、湖岸道路を
左に折れて老人ホーム水茎の里の前を過ぎると、左手に「名勝水茎岡」とかかれた石標と階段があります。これを
登ると、尾山山頂部へといたる山道へとつづいています。頭山へは湖岸道路の琵琶湖側を山の方に進み、山裾の道
を琵琶湖方面に進むと山に登る道があります。道は山頂部までは延びていませんが、「高御座のほらす年のよろこ
ひをしるしととめよ水くきの岡」という御歌所長入江為守の和歌を刻んだ石碑と、その下に「水茎岡山城」と墨書
された木の看板が置かれた所に行くことができます。(松下)
城郭伝言板
全国で実施される城郭関連の催し物についてお知らせします。
※ここに掲載した情報は、各機関のホームページやポスター・チラシから転載したものです。詳細についてはそ
れぞれの機関にお問い合わせください。
※淡海の城友の会ではここに紹介した催し物への参加申込のあっせんや取り次ぎは一切行っておりません。
各催し物の申込先を御確認のうえ、直接お申し込みください。
○大阪歴史博物館特別展「天下の城下町 大坂と江戸」
会期:平成25年2月2日(土)~3月25日(月)
会場:大阪歴史博物館 〒540-0008 大阪市中央区大手前4-1-32
TEL06-6946-5728 FAX06-6946-2662
講演会「大坂と江戸」
日時:平成25年3月10日(日) 13:30~15:00
講師:脇田修氏(大阪歴史博物館館長)
会場:大阪歴史博物館四階講堂
定員:250名(当日先着順)
参加費:300円(ただし、特別展の観覧券もしくは半券提示の方は無料)
シンポジウム「近世の二大城下町 大坂と江戸 その姿と都市景観をさぐる」
日時:平成25年2月24日(日) 10:15~16:45
会場:大阪歴史博物館四階講堂
定員:250名(当日先着順)
参加費:無料
参考URL http://www.eventscramble.jp/e/tenka/
○滋賀県立安土城考古博物館連続講座「シリーズ 近江の城を探る」
日付・テーマ・講師:
④2月23日(土)「日野の城を探る」 振角卓哉氏(日野町教育委員会)
⑤3月9日(土)「佐和山城を探る」 小島孝修氏(公益財団法人滋賀県文化財保護境界)
⑥3月23日(土)「長浜の城を探る」 牛谷好伸氏(長浜市教育委員会)
会場:滋賀県立安土城考古博物館2階セミナールーム
時間:13:30~
定員:140名(事前申込不要)
参加費:300円(資料代)
問い合わせ 滋賀県立安土城考古博物館
〒531-1311 滋賀県近江八幡市安土町下豊浦6678
TEL0748-46-2424 FAX0748-46-6140 E-mail gakugei@azuchi-museum.or.jp
湖賊の自治都市・堅田~連続講座第5回に向けて
「堅田におつる雁がねの たえまに響く三井の鐘 夕くれさむき唐崎の 松には雨のかかるらん♪♪」明治33
年(1900)に大和田建樹が作詞した「汽笛一声新橋を・・・」の『鉄道唱歌』の43番です。 この頃、湖西
には鉄道は走っていないのですが、大和田は鉄道唱歌に「近江八景」をすべて歌いこみ、今で言うコマーシャルソ
ングの先駆けのようなものでしょうか、全国に近江の紹介をしています。平成24年度連続講座「近江の城郭」の
最終回では、この「堅田」を取り上げます。
昭和39年に琵琶湖の最狭部(約1300m)を使って対岸の守山市今浜と結ぶ琵琶湖大橋が出来、今では1日
平均34100台の車の通行量がある交通の要衝です。JR湖西線堅田駅周辺、琵琶湖大橋西詰めまでの旧国道1
61号沿いは、休日ともなれば、車の渋滞が出来、通過するのに1時間ほどかかります。しかし、昭和49年に江
若鉄道に代わって湖西線が開通した後も昭和60年頃までは、琵琶湖大橋の西詰めに「びわこタワー(現在イズミ
ヤ)」、国道沿いに「平和堂堅田店」と「さくらスーパ(現在アクト)」の大型店があるぐらいで、駅のホームか
ら内湖の真珠養殖棚が見渡せるような所でした。今回お話する堅田は、江若鉄道時代に繁栄していた「本堅田」と
言われているところで、駅前の賑わいからはやや外れた場所です。「浮御堂」がある場所と言えばピンとくる方が
いるのではないでしょうか。
堅田は、古代から漁猟集落として成り立っていましたが、平安時代に京都下鴨社の御厨となったあたりから、た
だの漁師町でなくなってきました。また、比叡山延暦寺の膝元にあるため延暦寺の荘園にも組み込まれてきました。
転機となるのは、嘉禄3年(1227)佐々木信綱が承久の乱の恩賞に「和邇・堅田」の地頭職を賜った頃からで
す。これまで下鴨社は御厨の供御人ということで堅田の住人を、延暦寺は荘園領主として堅田の土地を支配してき
たのですが、佐々木信綱という管理人が登場したことで勝手気ままに搾取できなくなったわけです。対抗措置とし
て延暦寺は新たに「湖上関」という通行する舟から「関銭」を取る、今で言う「税関」を設けます。下鴨社は「漁
業権」「航行権」の保証をし、堅田の前を通る舟に他所のものが海賊行為を働かないよう乗り込んで安全を図る
「上乗り」という権限を与え、それぞれ資金を得る画策をします。幸いにも佐々木信綱の和邇・堅田の地頭職は名
前だけで終わり、以後、幕府の守護が入ることもなく、国人領主に支配されることもなく織田信長時代まで推移し
ていきます。
さて、京都の大徳寺瑞峯院(大友宗麟の墓がある)の檀那の間(堅田の間)には、行方不明になっていた「片田
景図」の襖絵が日本ヒューレットパッカード(日本HP)のプリンティングテクノロジーで高精細複製され公開さ
れています。屏風仕立てにしたものが見つかり、日本HPが襖に再現復元したということですが、この絵を見ると
鄙びた漁村にしか思えません。講座の前に見に行かれてはどうでしょうか(拝観料400円)。
こんな鄙びた漁村を応仁2年(1468)延暦寺の山門衆徒が襲撃する「堅田大責」が起こります。その2年後、
堅田衆は多額の礼銭を延暦寺に払い、なおかつ坂本三津浜衆に奪われた「湖上関」「上乗り」の権限を力づくで取
り返します。鄙びた漁村がどう変貌していくのか、さらに織田信長が目を付けたものとは何か講座で迫っていきた
いと思います。(仲川)
事務局からのお願い
城郭伝言板に掲載する情報について会員の皆様からの提供をお待ちしています。展覧会・講演会・現地説明会な
どご存じのことがありましたら、事務局までお知らせ願います。
編集後記
連続講座「近江の城郭」もいよいよ大詰め、残すところあと2回となりました。第4回近江一向一揆の拠点~金
森・三宅の案内を1頁の載せていますので、参加ご希望の方はお申し込み願います。
このところ発行が遅れがちな会報ですが、今年度はこれが最後になります。また来年度も様々な情報を掲載して
いきますので、これからもどうぞよろしくお願いします。
「淡海の城」友の会事務局
滋賀県教育委員会事務局文化財保護課城郭調査担当気付
〒521-1311 滋賀県近江八幡市安土町下豊浦6678 城郭調査事務所
TEL0748-46-6144 FAX0748-46-6145
E-mail:ma16@pref.shiga.lg.jp URL:http://www.geocities.jp/nobunaga9999castle/