世界初 胃がん発症・仕組み解明
胃炎や胃かいよう、胃がんの原因となる「ヘリ コバクタ-・ピロリ菌」が胃の粘膜を破壊して炎 症やかいよう、がんを引き起こすメカニズムの全 容を、北大遺伝子制御研究所の畠山昌則教授 (分子腫瘍学)らの研究グル-プが、世界で初 めて突き止めた。胃がんの新たな予防法や治 療法のほか、他のがんの発症の仕組みの解明 にも役立つと、期待される。2007年5月英科学誌「ネイチャ-」で発表した。
研究グル-プは、ヒトの胃の細胞を用いて実験した。胃に入ったピ ロリ菌は、自ら作り出した発がん性タンパク質Cag(キャグ)Aを胃の 上皮細胞に注入。その後、CagAが細胞内にあるタンパク質PAR1 (パ-・ワン)と結合することを発見した。さらに、CagAと結合したP AR1は、正常な働きを抑えられ、上皮細胞にある細胞同士をつなぐ 「密着結合」と呼ばれる装置が壊されるのを突き止めた。畠山教授 らは2001年、ピロリ菌感染が胃がんに至るメカニズムの一部を明 らかにしている。同菌によって胃の上皮細胞に注入された同じCagA が細胞増殖を促す別のタンパク質SHP2と結合し、異常増殖を起こ す信号を発し、がんを発症させるという過程だ。今回と01年の研究 成果から、同グル-プは全容を解明。CagAが最初にPAR1と結び つくことで上皮細胞は正常な胃粘膜組織を保てず、個々の細胞がば らばらになる。その結果、上皮細胞間への胃液の侵入などで炎症 やかいようが起き、がんになりやすい環境になる。さらに、PAR1と 結合したCagAがSHP2と結びつくことで異常な細胞が増殖、がん 発症に至る-と結論付けた。日本人のピロリ菌感染者は推定六千 万人。75歳までに陽性者の10人に1人が胃がんになるとの報告も ある。胃がんによる死亡は年間約五万人で、肺がんに次いで多い。 畠山教授は「例えば、CagAとPAR1の結合を遮断する薬が開発さ れれば、がんを含めたピロリ菌感染症の新しい予防や治療法になる だろう」と話している
ヘリコバクタ-・ピロリ菌=1982年に発見された、らせん状(ヘ リコ)の細菌(バクタ-)。ヒトの胃の粘膜、特に胃の出口付近の幽 門部(ピロリ)に生息。長さ2・5~5マイクロメ-トル(1マイクロメ- トルは千分の1㍉)で、数本のぺん毛を持つ。経口感染するとされ、 感染すると8割が委縮性胃炎になる。全感染者の2~3%程度が かいようになるが、抗生物質による除菌治療がある。
他のがんと共通か
癌研究会癌研究所(東京)の野田哲生所長(分子遺伝学)の話 日本人に多い胃がんの発生には、ピロリ菌感染がかかわっている。 感染からがん発症に至るメカニズムを解明した今回の研究は胃がん の予防や治療に役立つことが期待される。さらに、胃がんの発生過 程で、ピロリ菌の出すCagAタンパク質が標的としている細胞内のシ ステムは、他の多くのがん(上皮がん)でも破たんを来していること が考えられる。今回の研究は、胃がんにとどまらず、他の多くのがん の発生に共通するメカニズムを明らかにした可能性が高く、意義ある 成果だと考える。
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