数種の物質混ぜ再現
20年ほど前にドイツに留学した際、フランス国境近くのホンブルグと いう街に滞在した。人口10万人に満たない街だったため、日本食を 食べるのは至難の業だった。しかし、以前から留学していた日本人 研究者から、ス-パ-でカニ風味かまぼこを売っているので手巻き ずしにするとおいしいと教えてもらった。ドイツで食べたカニ風味かま ぼこは、カニの身は入っていなくとも、確かにカニの味がした。水産食 品の味は、幾つかの味物質を混ぜることで再現できる。鴻巣章二東 京大学名誉教授らは、グリシン、アラニン、アルギニンおよびグルタミ ン酸(いずれもアミノ酸)、イノシン酸(核酸)、塩化ナトリウム、リン酸 ニ水素カリウム(塩の一種)を混ぜることでカニの味が再現できること を示した。この時、各成分を混ぜる割合が重要で、適当にするとカニ とは似ても似つかない味になってしまう。ウニの味もアミノ酸、核酸と 塩を一定の割合で、混ぜることで再現することができる。このとき分子 内に硫黄を含むメチオニンというアミノ酸を入れることが、ウニ独特の 風味を再現するのに重要だ。また、バリン(アミノ酸)もウニ特有の苦 味に欠かせない。ホタテにはグリシン(同)が大量に含まれていて独 特の強い甘味を引き起こしている。ただし、メチオニンあるいはグリシ ンをなめてみてもウニやホタテの味がするわけではない。あくまでも、 何種類ものアミノ酸、核酸、塩がしかるべき割合で存在しといる中にあ ってこそ、その食材ならではの味が特徴付けられているのだ。 (柏柳 誠=旭川医大医学教授)
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