←至適血圧は心臓病や脳梗塞に最もなりにく い血圧値。正常高値血圧は正常群に属するが、 高血圧に移行しやすい血圧値
ロシアのコロトコフが1905年に血圧聴診測定法を発明してから、 まだ百年しかたっていません。二十世紀前半まで高血圧は多くの 謎に満ちた疾患でした。今では、成因として50%程度はさまざまな 高血圧遺伝子が関与し、25%程度が加齢、残り25%は食塩過剰 摂取、アルコ-ル、肥満などの生活習慣が影響すると考えられてい ます。血圧とは心臓から送り出された血液が動脈の内壁を押す力の ことです。心臓は収縮と弛緩を繰り返して血液を送り出しているので、 血圧は心臓の収縮と拡張に応じて上昇したり、下降したりします。血 圧が心臓収縮により最大に達した時を「収縮期血圧または最高血 圧」、弛緩により最小になった時を「拡張期血圧または最低血圧」と 呼んでいます。正常血圧と高血圧の境界決定にはかなりの困難を要 しました。1920年には上が120㎜Hg、下が95㎜Hgでしたが、34 年には140-80、48年には180-100、56年に180-110と変 遷し、現在の基準(イラスト)になりました。 52歳の女性はのぼせ、肩こり、目まい、頭痛があり、家庭で血圧を 測定したところ上が162、下が94で来院しました。「二十代に100に も満たなかった低血圧だったのに更年期障害かしら?」との話でした が、病院で測定すると174-98と明らかな高血圧でした。加齢と共 に血圧は上昇します。更年期傷害の合併もあり、この方は降圧薬と 更年期治療の漢方薬の投与で血圧も正常化し、症状も消失しました。 基準の確立に当たり、初期のころは生命保険会社の顧客デ-タが大 いに寄与しました。十六世紀にはペルギ-・アントワ-プの海上保険 会社が初めて生命保険商品を販売し、1920年に血圧を審査に初め て組みいれました。第二次世界大戦後、米国政府はボストン近郊にあ る人口二万八千人の小さな町フラミンガムで循環器疾患発症調査を 行い、遺伝因子、生活習慣、血糖値などと共に血圧の関与や役割を 明らかにしました。高カロリ-や脂肪、塩分摂取過多、運動不足、肥 満、喫煙は「悪玉」と名指しされ、アルコ-ルは「執行猶予」、コ-ヒ- は「無罪放免」となりました。二十世紀前半の高血圧治療は、放射能、 瀉血(しゃけつ)(血液を抜き取る)など無力でした。二十世紀後半にな り、生活習慣の改善と共に利尿剤や降圧剤の開発で脳卒中や心筋梗 塞から身を守ることができるようになりました。高血圧は一定以上にな ると、いろいろな合併症を引き起こし死に至るという点で、今では明らか な病気になりました。(畑俊一内科院長=札幌市中央区)
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