綱淵 謙錠 著 「斬」を読みました。
“首斬り浅右衛門(あさえむ)”の異名で天下に鳴り響き、罪人の首を斬り続けた山田家二百五十年の末路は、
明治の維新体制に落伍しただけでなく、人の胆をとっては薬として売り、死体を斬り刻んできた閉鎖的な家門内に蠢く、暗い血の噴出であった。
もはや斬首が廃止された世の中で、山田家の人間はどう生きればいいというのか・・・。
題名の「斬」とは罪人の首を切るということ。
世襲の試刀師であり処刑人でもあった山田浅右衛門一族の物語です。
江戸時代の元禄ごろから明治14年の廃刑になるまでの間、死罪における斬首の刑を執行した山田家。
死罪になるような罪を犯した者といっても必ずしも凶悪な犯罪人ばかりではありませんでした。
幕末には体制に反抗した国事犯として吉田松陰、橋本佐内などが、さらに明治政府の転覆を目論んだ人物として雲井龍雄なども浅右衛門の手にかかり斬首されました。
仕事とはいえ人を切る生臭さ、周囲の目、技術の鍛錬、さらに家族間のいざこざや継母に対する恋慕など山田一家に生まれたが故の精神的・身体的な悩みも描かれいます。
やがて日本の西洋化が進み死刑の手段が絞首や銃殺へとって変わり、山田家が崩壊していく様は運命の皮肉としかいいようがありません。
第67回(昭和47年度上半期) 直木賞受賞作
この小説の満足度:☆☆☆☆