ロースクール労働法はかなり勉強になります。
結構院生の書く答案が事案に即した記述をしていてすごいなぁと思うのですが、解説であまりいい評価を得ていないものもあり、これ以上のことを要求しているのか!?と焦ります。
労働災害のところは結構あてはめが難しいです。
裁判年月日 : 2006年7月10日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
(1) 業務起因性の判断基準
労災保険法に基づく保険給付は、労働者の業務上の死亡等について行われるところ(同法七条一項一号)、労働者の死亡等を業務上のものと認めるためには、業務と死亡との間に相当因果関係が認められることが必要である(最高裁昭和五一年一一月一二日第二小法廷判決・判例時報八三七号三四頁参照)。
また、労災保険制度が、労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば、上記の相当因果関係を認めるためには、当該死亡等の結果が、当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要である(最高裁平成八年一月二三日第三小法廷判決・判例時報一五五七号五八頁、最高裁平成八年三月五日第三小法廷判決・判例時報一五六四号一三七頁)。
ところで、本件で問題となっている虚血性心臓疾患は、前記前提事実(2)イのとおり、基礎となる病変が、日常生活上の種々の要因により、徐々に進行・増悪して発症に至るのが通常であるが、他方で、業務による過重負荷が加わると、急激な血圧変動や血管収縮等を引き起こし、発症の基礎となる血管病変等が自然の経過を超えて著しく増悪して発症する場合もあるとされているところである。そうだとすると、過重な業務によって、著しく血管病変等を増悪させるような急激な血圧変動や血管収縮が引き起こされた結果、基礎疾患の自然的経過を超えて虚血性心臓疾患を発症したと認められる場合に、当該心臓疾患の発症が、業務に内在する危険が現実化したものと評価し、業務起因性を認めるのが相当である。これを本件に則し換言するならば、太郎は、直ちに心筋梗塞を発症するような状態になく、本件作業に従事しなければ相当期間にわたり生きることができたのに、本件作業に従事したことにより既存の基礎疾患を急激に増悪させて心筋梗塞を発症したものというのか、それとも、太郎は、いつ心筋梗塞を発症してもおかしくない状態にあり、本件作業後に発症したのは偶然でしかないというのかによって決定されることになる。すなわち、前者であれば業務起因性が肯定され、後者であれば否定される。本件はいずれであるのかについて、以下検討を進めることにする。〔中略〕
(ウ) 小括
以上みてきたとおり、本件作業は、「異常な出来事」に直面した大きな精神的負荷の下に行われた、日常業務とは異なる重負荷の作業であり、それ自体、著しく血管病変等を増悪させるような急激な血圧変動や血管収縮を引き起こし得る業務であったと認めることができる。すなわち、太郎は、本件当日、直ちに心筋梗塞を発症するような状態にはなく、本件査察の連絡を受け、本件作業に従事しなければ相当期間にわたり生きることができたのに、本件作業に従事したことにより既存の基礎疾患を急激に増悪させた結果、心筋梗塞を発症したものというのが相当である。〔中略〕
エ 小括
以上の検討結果によれば、太郎は本件当日当時軽症ないし中等症の高血圧症及び左右冠状動脈の動脈硬化という基礎疾患を有するとともに、喫煙習慣があったことが認められるものの、本件当日当時かかる基礎疾患等が自然的経過の中で心筋梗塞を発症するほどの進行状態にあったということは困難である。むしろ、太郎は、本件当日の消防署の査察による精神的負荷の下において行われた本件作業が、著しく血管病変等を増悪させるような急激な血圧変動や血管収縮を引き起こし得る業務であったことにより、太郎の冠状動脈内において粥腫の破綻あるいはスパズムによる冠状動脈閉塞を引き起こし、前記基礎疾患等の自然的経過を超えて心筋梗塞を発症させたものとみるのが相当である。すなわち、太郎は、本件当日、直ちに心筋梗塞を発症するような状態にはなく、消防署から本件査察の連絡を受け、本件作業に従事しなければ相当期間にわたり生きることができたのに、本件作業等に従事したことにより既存の基礎疾患を急激に増悪させ、その結果、心筋梗塞を発症したものと認めるのが相当である。よって、本件においては業務起因性があるというべきである。
三 結論
以上によれば、太郎の死亡が業務に起因するものではないことを前提にして行われた本件処分は違法であり、その取消しを求める原告の請求は理由があるのでこれを認容することとし、主文のとおり判決する。
結構院生の書く答案が事案に即した記述をしていてすごいなぁと思うのですが、解説であまりいい評価を得ていないものもあり、これ以上のことを要求しているのか!?と焦ります。
労働災害のところは結構あてはめが難しいです。
裁判年月日 : 2006年7月10日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
(1) 業務起因性の判断基準
労災保険法に基づく保険給付は、労働者の業務上の死亡等について行われるところ(同法七条一項一号)、労働者の死亡等を業務上のものと認めるためには、業務と死亡との間に相当因果関係が認められることが必要である(最高裁昭和五一年一一月一二日第二小法廷判決・判例時報八三七号三四頁参照)。
また、労災保険制度が、労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば、上記の相当因果関係を認めるためには、当該死亡等の結果が、当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要である(最高裁平成八年一月二三日第三小法廷判決・判例時報一五五七号五八頁、最高裁平成八年三月五日第三小法廷判決・判例時報一五六四号一三七頁)。
ところで、本件で問題となっている虚血性心臓疾患は、前記前提事実(2)イのとおり、基礎となる病変が、日常生活上の種々の要因により、徐々に進行・増悪して発症に至るのが通常であるが、他方で、業務による過重負荷が加わると、急激な血圧変動や血管収縮等を引き起こし、発症の基礎となる血管病変等が自然の経過を超えて著しく増悪して発症する場合もあるとされているところである。そうだとすると、過重な業務によって、著しく血管病変等を増悪させるような急激な血圧変動や血管収縮が引き起こされた結果、基礎疾患の自然的経過を超えて虚血性心臓疾患を発症したと認められる場合に、当該心臓疾患の発症が、業務に内在する危険が現実化したものと評価し、業務起因性を認めるのが相当である。これを本件に則し換言するならば、太郎は、直ちに心筋梗塞を発症するような状態になく、本件作業に従事しなければ相当期間にわたり生きることができたのに、本件作業に従事したことにより既存の基礎疾患を急激に増悪させて心筋梗塞を発症したものというのか、それとも、太郎は、いつ心筋梗塞を発症してもおかしくない状態にあり、本件作業後に発症したのは偶然でしかないというのかによって決定されることになる。すなわち、前者であれば業務起因性が肯定され、後者であれば否定される。本件はいずれであるのかについて、以下検討を進めることにする。〔中略〕
(ウ) 小括
以上みてきたとおり、本件作業は、「異常な出来事」に直面した大きな精神的負荷の下に行われた、日常業務とは異なる重負荷の作業であり、それ自体、著しく血管病変等を増悪させるような急激な血圧変動や血管収縮を引き起こし得る業務であったと認めることができる。すなわち、太郎は、本件当日、直ちに心筋梗塞を発症するような状態にはなく、本件査察の連絡を受け、本件作業に従事しなければ相当期間にわたり生きることができたのに、本件作業に従事したことにより既存の基礎疾患を急激に増悪させた結果、心筋梗塞を発症したものというのが相当である。〔中略〕
エ 小括
以上の検討結果によれば、太郎は本件当日当時軽症ないし中等症の高血圧症及び左右冠状動脈の動脈硬化という基礎疾患を有するとともに、喫煙習慣があったことが認められるものの、本件当日当時かかる基礎疾患等が自然的経過の中で心筋梗塞を発症するほどの進行状態にあったということは困難である。むしろ、太郎は、本件当日の消防署の査察による精神的負荷の下において行われた本件作業が、著しく血管病変等を増悪させるような急激な血圧変動や血管収縮を引き起こし得る業務であったことにより、太郎の冠状動脈内において粥腫の破綻あるいはスパズムによる冠状動脈閉塞を引き起こし、前記基礎疾患等の自然的経過を超えて心筋梗塞を発症させたものとみるのが相当である。すなわち、太郎は、本件当日、直ちに心筋梗塞を発症するような状態にはなく、消防署から本件査察の連絡を受け、本件作業に従事しなければ相当期間にわたり生きることができたのに、本件作業等に従事したことにより既存の基礎疾患を急激に増悪させ、その結果、心筋梗塞を発症したものと認めるのが相当である。よって、本件においては業務起因性があるというべきである。
三 結論
以上によれば、太郎の死亡が業務に起因するものではないことを前提にして行われた本件処分は違法であり、その取消しを求める原告の請求は理由があるのでこれを認容することとし、主文のとおり判決する。