忙しかった盆の時期を過ぎて少しばかり落ち着いた今日この頃、
久々に休みを取ろうと思った。
純然たる完全休養日は1か月ぶりくらいだろうか。
昼ぐらいまで惰眠を貪りつつ適当に起き出して
ついでに日中から酒でも飲みながら一日中ゴロゴロしてるのが
目下の所の理想的な休日の過ごし方なのだ。
しかし理想と現実、願望と実際が違うのは世の常なのである。
こういう時は日頃より先輩諸氏から聞いている教えを守るべきやないかと
小市民の俺としては考えてしまう訳やね。
二人いる子供も出て行った今、
よめはんと二人だけになってしまっている状況はやはりPKO並みに
世界平和に貢献するしかないだろう。
前夜唐突に晩飯を食いながら「明日休みが取れそうなんやけど
どっか行きたい場所とか連れて行ってほしい所なんかあるかな?」
と慎重に探りを入れてみると
『そんなん急に言われてもないわ。展覧会巡りはしたいと思うけど
観に行きたいのはまだ先やし、今やってる分では特にええのはないしなあ・・・。』
と言われる始末だ。
ここで「おうそうなんか!それなら明日俺は一日中寝てるから起こさんように。」
なんて言えれば良いのだがここで変に気を緩めると非常に危険であるのは直感で判る。
まあ碌な事がないのは経験済みなのである。
因みにうちのよめはんは元々デブ症、いや出不精なのである。
自分からどこそこへ連れて行けなんて言うはずもないのも織り込み済みさ。
一応こう言われた時の為のシュミレーションというか問答集も
想定してあるのは常日頃リスクマネジメントとしている者には常識である。
運転好きな俺にとってちょっぴり気になっていたのが京都縦貫自動車道だった。
北は天橋立まで延びる自動車専用道路が
昨年名神高速大山崎インターに接続開通していたものの、
いつも滋賀まで名神を通りながら横目で通り過ぎていて一度通りたいと思っていたのである。
チャンスがあればと思いつつもう1年以上も経ってしまっていた。
「特に要望がないなら天橋立を観に行かへんか?
新しい道路も出来たし便利で早く行けるみたいやで。」
滅多にそんな誘いをしない俺にあちらも何か察したかのように
翌日は仕事に行く時と同じように起床し出かけることとなった。
本当は我が家から現地に向かうなら既に開通済みで神戸から行く
舞鶴自動車道を使う方が早いのだ。
朝に出て午前中に到着して適当に現地で海の幸でも食べりゃ万々歳の予定も
全く計画性のない思いつきドライブでは案の定に少しずつ狂って来よることになる。
【計算違い其の一】
京都縦貫自動車道は全線が開通しているのではなく、
名神からは接続出来たものの一旦「丹波」で下車し地道を20~30分走り
再度「京丹波わち」インターから乗り入れ、最終「宮津天橋立」までの道程となる。
一般的に写真で見る天橋立の光景は手前にある山手に位置する
「傘松公園」からの眺めなのは後で知ることになる。
その為にはインター最終のひとつ手前
「与謝宮津」インターで降りなければならかった。
天橋立が海に面しているロケーションである思い込みと
おかしいと思いつつ宮津から海岸沿いを北に走ったのもマズカッタ。
日本三大名景も単に松林の離れ小島を横目で見るこになる。
これではどこの海岸線でもお目に掛かれる普通の風景に過ぎないのであった。
有名な又覗き用にと車に積んできた買ったばかりのデジカメの出る幕も全くない。
縦貫道を走ることが主たる目的だった俺にとって
行った先の情報が欠けていたのは最早致命的とも思える状態である。
運転しながら気づいたのも遅く走れば走る程道幅は狭くなり、
右側の風景はどう考えても魚釣りかダイビング客しか来ないような
単なる海が続くだけである。
このままでは目的もなく丹後半島を一周してしまうことになる。
時間の計算も出来ない以上、正直に告白するしかなかった。
「すまん。道を間違えたようやわ。Uターンしてどこかで喫茶店にでも入って考えよか。」
【計算違い其の二】
観光地付近とはいえ平日の午前中に入ろうと思えるような店は見当たらず
辛うじて(トイレ休憩の必要から)入った土産物店しかない。
海産物も保冷バックを持ってきてないのとすぐに帰る予定でもなく
何も買わずにスルーするしかない。
落ち着いて珈琲でも飲みながら次の予定を探る機会も得ることもなく、
とにかく何とはなく帰宅方向と国道312号線を西へ車を走らせる。
運転自体が好きな俺にとっては結構楽しめるものだが
よめはんとの会話が少なめなのが少々気になる。
このまま走れば日本海側の兵庫県豊岡市へと抜けるはず。
久美浜、網野と蟹の名産地を通過するのでせめて早めの昼飯は
ちょっぴり贅沢蟹三昧で汚名返上だぜ。
ところが名ばかりの国道沿いにはそれらしいレストラン、
ドライブインの類は全く見当たらないどころか
極々たまにコンビニがある程度なのだ。
よくよく考えれば時期本番は冬であるのに加えて凄く田舎。
行けども行けどもそれらしい店は全く見当たらない。
一軒あったラーメン屋を通過した際、冗談交じりで
「ラーメンでも良かったら入ろか?」と様子を伺うと
『こんなとこまで来てラーメンやったら家に帰ってから自分で作って食べるわ。』
ありゃりゃ、こりゃ段々洒落では済みそうにないぞ。
時刻は既に午前11時を過ぎていた。
弾む会話もないまま淡々とトンネルをいくつか潜ってとうとう豊岡に来てしまった。
元々行き先や目的地がない工程だけに始末が悪い。
救いは京都府と違い住宅も多くなり幹線道路沿いも賑やかになった事だろう。
時計はもう12時を廻ってしまっている。
とにかくどこでも良いから昼飯でも食わんことにはこのままでは収まりがつかん。
ようやく見つけたファミレスで食事することになるのだが、
俺の頭の中のCPUはこれからどうするかどこに行くかでもう必死。
情けないことに肝心のメモリが容量不足でマイコンピュータはいつまで経ってもフリーズし続けるだけであった。
【無理やりの強制終了、電源オフ】
既に行き当たりばったりの行動はよめはんにはお見通しだったろうが、
どこにも寄らずに帰宅するのは行かない方がまし、
何のためにわざわざ滅多にない休みを費やしたのか無駄になるやないの。
その時ふと前夜の会話を思い出した。
『展覧会巡りしたいねん。』
このまま帰宅ルートは最終的には舞鶴若狭自動車道から中国自動車道へと
乗るつもり、神戸方面なら丁度良い。
といって平生博物館や展覧会場なんて行かん俺に格式ある美術館なんてのは
思いつくはずもなく第一に誰の何の展示をしているのかさえ判らない。
かろうじて唯一思い出し縋る思いで行ったのが神戸にあるここ。
何とかかんとか彼女の機嫌を損ねることなく(?)長くて短い一日は終わった。
ヨコオ君本当におおきに。
結局休むより仕事をしている方が楽なのが判った一日であった。
この日の走行距離は約450キロ。
愛車の積算計は2年で60,000キロを既に突破している。
心の中で自分自身に「今日はお疲れ様でした。」と労いの言葉を掛けてやろう。
今更イスラエルやウクライナの紛争を喩えに出すまでもなく、
平和はとても大切なものだが同時に難しいものでもあるとつくづくそう思うのである。
(了)